第20話 初めてはなびをした日1

 

 秋も深まるある日。クーたんとフツウサは夕暮れの道を歩いていた。


クーたん「だいぶ涼しいね。」


フツウサ「うん。だいぶ涼しいね。」


 穏やかに会話しながら歩いていると、向こうの空から何かがフラフラと近づいてくる。


クーたん「あ、うちゅうさだ」


フツウサ「うちゅうさ、こんにちは!」


うちゅうさ「・・・。」


 両目がお星さまのウサギ。毛の色は白。いつも空をフラフラと飛んでいて、どこからともなく現れる。挨拶しても返事はしてくれないし、誰もまともな会話をしたことがない。だけど、なんだか憎めない。


クーたん「もう秋も終わりだね。うちゅうさ。」


フツウサ「なんだかちょっと寂しい気持ちになるね、うちゅうさ。」


うちゅうさ「・・・。」


 二羽の呼びかけには答えず、フラフラ宙を浮いているうちゅうさ。


クーたん「あ、もう行くのかな?」


フツウサ「あれ?」


 フラフラと飛び去るうちゅうさが、ヒラリと一枚の紙を落としていく。


クーたん「なんだろう?」


 首を傾げるクーたんと、タカタカと走ってその紙を手に取るフツウサ。


フツウサ「えーと、はなび、秋の大売り出し、だがしうまし。」


クーたん「ああ、だがしうましのチラシか」


フツウサ「クーたん、はなびってなに?」


クーたん「うん。はなびっていうのはね、火でできたお花のことみたいだよ。自分は、本でしか見たことないけど。」


フツウサ「ええええっ。火でできたお花!」


 フツウサの目がキラキラと輝く。


フツウサ「行こう、だがしうましに、今すぐ行こう!」


クーたん「うん、行ってみよう!」


 クーたんと、フツウサは駄菓子屋‟だがしうまし”に向かってタカタカと走り出した。


 駄菓子屋‟だがしうまし”古くて小さい店だが、相変わらず趣のあるたたずまい。


フツウサ「こんにちは!」


 お店のドアをガラッと開けて、元気よくフツウサが挨拶する。


店主「やぁ、フツウサ。こんにちは。」


 店の奥から店主の声。店主はウサギ達に姿を見せることはない。


クーたん「ぜは、ぜは、こんにちは。」


 少し遅れてクーたんも到着。


店主「やぁ、クーたんだね。こんにちは。」


フツウサ「チラシ見て、はなび買いにきたよ~」


クーたん「うちゅうさがチラシを落としていきまして・・・。」


店主「ほほぉ。お目が高いね、おふたりさん。」


フツウサ「むふふ。」


店主「とある星の売れ残りを安く仕入れてきたんだ。みんなで是非楽しんでもらいたいと思ってね。」


クーたん「これかな?」


 お店の棚に、ワクワクはなびセットと書かれた大きな包みが置いてある。


フツウサ「おお、なんかいっぱい入ってる!」


クーたん「すいません、これください、いくらですか?」


店主「大サービスだ。無料でいいよ。そのかわり、そのはなびでみんな笑顔になって、オレンジコインをいっぱい落として、駄菓子を買ってね。」


フツウサ「おお、やった、無料だ!」


クーたん「店主さん、ありがとう!それじゃ!」


店主「はい、いってらっしゃい」


 クーたんとフツウサはワクワクはなびセットを仲良く持って、駄菓子屋を後にした。


クーたん「さて、どうしようか。」


フツウサ「みんなを呼ぼう!」


クーたん「そうだね。それじゃ、手分けするのがいいかもね。」


フツウサ「うんうん。そうしよう!」


クーたん「とりあえず、このワクワクはなびセットは広場においておこうか。」


フツウサ「よし、まずは、広場に行こう!」


 広場に向かう二羽。広場では、丁度のろうさが日向ぼっこしていた。


クーたん「やぁ、のろうささん!」


フツウサ「やぁ!」


のろうさ「あ・・・どうも。」


クーたん「今日みんなではなび大会をやろうと思うんだ。」


フツウサ「のろうささんも来てね。」


のろうさ「はなび・・・。」


フツウサ「うん!火でできたお花なんだって。のろうささんも是非参加してね。」


クーたん「よし、じゃあフツウサ、手分けしてみんなに伝えに行こうか!」


フツウサ「うん。行こう!」


のろうさ「あの・・・。」


クーたん「うん・・・?」


のろうさ「はなびセット置きっぱなしで大丈夫ですかね?」


フツウサ「そっか!」


フツウサは、ワクワクはなびセットに、持っていたペンで書置きをする。


ひろばで

はなびをします。

みんなきてね。


 クーたんとフツウサはタカタカと皆に伝えに出かけた。


のろうさ「いや、そうじゃなくて・・・。ここにはなびセットを置きっぱなしにしておいて、誰かに持っていかれちゃう心配とかしないのかな・・・。」


 ふぅ、とため息をついたのろうさは、ペタンと座り、ワクワクはなびセットのそばで皆を待つことにした。

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