第19話 ~とある小さなウサギの回想~
ちょっと昔のお話
「おとなしくしてるんだよ。」
そう、あたしに言って、いつもニーは一羽で出かけて行く。
残ったあたしは、いつも小さなぬいぐるみを抱えてひとりぼっち。
寝るのも、ご飯を食べるのも、お散歩も、雨を眺めるのもひとりぼっち。
ニーは一度出かけると、いつおうちに帰ってくるかわからない。
そして帰ってくるときは、いつも夜遅く、そして傷だらけ。
ニーとのおしゃべりは、おうちの中ではなく、いつもニーのお気に入りの森の小さなキノコ椅子に、二羽で一緒に座ってする。ボンヤリとした月明かりの下で。
「いやぁ、今回も大変だったよ。」
「星の住民の抵抗が強くてさ。」
「まぁ、でも、ドカーンとやって、パァーッとやってきたよ。」
傷だらけで嬉々としてお話をするニー。
でもいつもどこか哀愁がただよっている。
「ニーの仕事はなんだもの?」
「仕事・・・?ヒーローだよ。」
「ヒーローってなんだもの?」
「そりゃぁ、悪いやつたちをやっつけるやつのことさ。」
「ニーがやっつけているのは悪いやつなのか?」
「そりゃぁそうさ、ヒーローの敵は悪いやつに決まっているだろ。」
あたしはニーの本当の仕事を知っている。
ニーの本当の仕事はケイエイがうまくいかなくなって、フリョウサイケンってやつで大変になってしまって、破棄しなくちゃならなくなった星を破壊する仕事。
‟星破壊屋”だ。
あたしと、二ーは、宇宙でも珍しい強ウサギ種。
生まれた時から、信じられないほどの身体の力を持っている。
星を破壊する仕事はそういった珍しい力を持った生き物にしかできない。
ニーはその身体の力と仕事を誇りに思っている。
この広い宇宙では、星破壊屋の仕事は必要なことなんだと思う。
そしてあたしもいずれは星破壊屋の仕事をするようになるのかもしれない。
それはあたし達のような者にしかできない仕事だし、何よりあたしはまだこの身体の有り余る力の使い道を見つけられていないんだもの。
「さて、今月はあと二件悪いやつらをやっつけなくちゃならないんだ」
「ニー、もう行くの?」
「ああ。大人しくしているんだよ、おチビちゃん。それじゃね!」
シュババーン!!
その傷だらけのウサギは、カバンから出したライオンのお面をかぶり、森から、信じられない脚力だけで、宇宙に飛び出していった。
「大きすぎる力は、守ることよりも、奪うことに適している。オチビよ、貴様には奪う覚悟ができているか?」
ふと、死んだジーの言葉を思い出す。
「ジー。あたしたちはきっと、ヒーローなんかじゃないんだもの。あたしたちは・・・、あたしたちはたぶん・・・ただ奪うもの、だもの。」
傷だらけの兄が飛び立った後、キノコ椅子にちょこんと座っている、頭にお花の飾りをつけた小さなウサギさんは、一羽で悲しそうにつぶやいたのだった。
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