第18話 あの子の名前が決まった日


 次の日、朝の森。


 キノコ椅子のあるスペースの草陰で隠れているクーたんとフツウサ。


 しばらくすると、小さな小さなぬいぐるみを持った小さなウサギがやってきた。


?「あたしのだもの。」


 ぬいぐるみを一つのキノコ椅子におき、ぴょいっと残り二つのキノコ椅子を占領する小さなウサギ。


 フツウサがクーたんを見ると、クーたんは優しく頷いている。


フツウサ「よし!」


 ガサッ


 一気に草陰から飛び出すフツウサ。スタスタと三つのキノコ椅子を占領している小さなウサギに近づいていく。


?「ビクッ!」


 さすがにちょっと慌てる小さなウサギ。


?「あ、あ、あたしのだもの!」


フツウサ「あたしのだもの、なんだね。」


?「・・・?」


 ガサッ


 クーたんも草陰から出てくる。


?「あ、あ、あたしのだもの・・・。」


クーたん「あたしのだもの、だね。」


?「・・・。」


 小さなウサギは、目をパチクリしている。


フツウサ「あなたお名前は?」


?「名前・・・ない。・・・あたしは・・・ただ・・・奪うもの・・・。」


クーたん「ただ奪うもの。うばう・・・ウサギさんか・・・。」


フツウサ「じゃぁ、ウバウサだね。」


?「うば・・・うさ・・・?」


フツウサ「そう、あなたの名前は今日からウバウサちゃんね。」


クーたん「クーたんと言います。よろしくね。」


フツウサ「フツウサだよ。よろしくね。」


ウバウサ「・・・クー。・・・フー。」


クーたん「お近づきのしるしに。」


 クーたんはリュックからゆっくりとおにぎりを取り出して、ウバウサの近くにそっと置いた。


クーたん「それじゃ、またね。ウバウサ。」


フツウサ「またね。ウバウサちゃん。」


 頑なにキノコ椅子を占領したままのウバウサに別れを告げ、クーたんとフツウサは森を後にした。


 また静かになった森。ウバウサはそっと置いてあるおにぎりに目をやる。


 ピョコンとキノコ椅子からおり、おにぎりを手に取り、パクリと一口食べてみる。


 おにぎりは優しい味だった。中の具はタラコで、程よい塩気と、独特の粒々感が楽しかった。


ウバウサ「またね・・・だもの。」


 ポツリとつぶやくウバウサ。


 チャリーン。


 足元にはオレンジ色のコインが一枚落ちた。

 


 キノコ椅子の森からの帰り道。のんびりおしゃべりしながら歩いているクーたんとフツウサ。


 ヒュン グサ!


 どこからか信じられないスピードで何かが飛んできて地面に刺さった。


クーたん「どわ!」


 思わず飛びのくクーたん。


フツウサ「なんだろ?」


 フツウサが見てみると、


「あたしのだけど、かしてあげる。」


 可愛い字でそう書かれた葉っぱがくくりつけられていた、大きな棒付き飴だった。

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