第17話 クーたんとヒソヒソ話をした日


 次の日の朝早く、フツウサはお手製のキノコ椅子を手に持ち、タカタカと森に向かって走っていった。


 さすがにこんなに朝早くに、あの小さなウサギは来ていないだろうとフツウサは思っていたが、森のキノコ椅子の近くにくると、やっぱりそろり、そろりとなってしまう。


 森のキノコ椅子スペースは、昨日と同じで、二つのキノコ椅子が並んだままだった。


フツウサ「良かった。壊されたりしてない。」


 フツウサは、チャチャッと三つ目のキノコ椅子を設置した。


フツウサ「むふふ。」


 草の陰に隠れて、あの小さなウサギを待つフツウサは、ワクワクを抑えきれないという感じだった。


 しかし、しばらく待っていると、昨日遅くまで眠れなかったこともあって、少し眠くなってきてしまった。


 しばらくは、地面にお絵描きしながら我慢していたが、どうしても眠くなって、ウトウトしてしまった。

 

 丁度そこにやってくる小さなウサギ。


?「ビクッ」


 昨日は二つだった、キノコの椅子が三つになっていることに、とても驚く。


?「あ・・・あたしのだもの。」


 一応やってみたが、やっぱり小さな体では、どんなに大きく使っても、三つのキノコ椅子を占領することはできない。


 しばらく、あたふたしていた小さなウサギは、やがてピーンと何かをひらめく。


?「あたしのだもの。」


 そういうと、小さなウサギは、砂煙を巻き上げながら、信じられないスピードでどこかへと走って行ってしまった。


 小さなウサギが走り去るときに生まれた凄まじい風圧で、フツウサは目を覚ます。


フツウサ「あ、寝ちゃってた。良かった。まだあの小さなウサギさんは来てない。」


 フツウサは目をゴシゴシこすり、涎をグイッと拭って、小さなウサギを待った。


 程なくして小さなウサギがまた砂埃を巻き上げながら信じられないスピードでやってきて、キノコ椅子の前でピタッと止まる。


 そのビューンという風圧は、草陰に隠れているフツウサのところにまで届くほどだった。


フツウサ「なんか・・・すごいウサギさんだな・・・。」


 フツウサは、小さなウサギの動きに目を白黒させていた。


フツウサ「あ。」


 フツウサが隠れて見ていると、なんと小さなウサギは、スッとキノコの椅子の一つに小さな小さなウサギのぬいぐるみを置いた。


 そして、残り二つのキノコ椅子を小さな身体を大きく投げ出して占領する。


?「あたしのだもの。」


 ガサッ


 思わず隠れていた草陰から顔を出してしまうフツウサ。


フツウサ「もーう!」


 フツウサはしてやられたと思い、森の入り口に向かって走り出す。


?「あたしのだもの。」


 繰り返し、そう小さくつぶやく小さなウサギ。


 一生懸命三つのキノコ椅子を占領し続けているその表情はどこか寂し気だった。

 



 その日のお昼。また一緒におにぎりを食べている二羽。


クーたん「そっかぁ。ぬいぐるみとはね。」


フツウサ「そうきたかぁって感じだよ。」


クーたん「さて、次はどうしようね。またキノコ椅子を増やすかい?」


フツウサ「うーん。あの子、何個ぬいぐるみ持ってるんだろう。」


クーたん「ふふっ、そうだね。ところでフツウサはあの子とどうしたいんだっけ?」


フツウサ「わかんない!」


クーたん「わかんないのね。」


フツウサ「でも・・・。」


クーたん「・・・でも。」


フツウサ「悲しくならないようにしたい。」


クーたん「悲しくならないようにしたいんだね。」


フツウサ「うん!」


クーたん「それじゃ、いいこと教えてあげる。ちょっと耳貸して。」


 他には誰もいない山の頂上でヒソヒソ話をする二羽のウサギ。


 そして、明日の朝、この山で待ち合わせて、あの森に一緒に向かう約束をした後、フツウサとクーたんは別れた。

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