第15話 あまり思い出したくない日
次の日、昨日の森に走って向かうフツウサ。迷わずに行けるかどうかちょっと心配だったが、自分の勘を信じて走っているうちに、難なくたどり着いた。
キノコの椅子の近くにくると、自然に忍び足になる。そろーり、そろーりと近づき、パッと覗くと、昨日の小さなウサギはいない。
フツウサはホッとしたような、残念なような、不思議な気持ちになっていた。
ちょこんとキノコの椅子に座ってみる。そのキノコの椅子の周りにはちょっとしたスペースがあり、休憩する場所として丁度よかった。
鳥がさえずる声と、鈴虫の鳴く声が聞こえる。日差しは背の高い木が程よく遮り、小さな風が吹き抜けている。
フツウサ「良い場所だな。今度クーたんにも教えてあげよう。」
フツウサがのんびりと幸せな気持ちに浸っていると・・・。
?「あたしのだもの。」
何かの声が聞こえたと思ったその瞬間・・・。
ドーーーーン!!
フツウサに今まで味わったことのないような、強烈な衝撃が走る。
ゴロゴロゴロゴロッ
信じられないくらいの力で突き飛ばされ、フツウサは森の入り口まで転がってしまった。
フツウサ「なに?・・・なに?・・・なんなの?」
ゴロゴロ転がってしまったフツウサは泥だらけの傷だらけ。目は回っているし、びっくりしちゃってわけがわからない。
しばらく呆然としたあと、やっと痛みと悲しみがやってきた。
フツウサ「クーたん・・・痛いよぅ。」
フツウサは泣きながら起き上がり、クーたんの居そうな方向に走っていった。
森のキノコの椅子には、フツウサを信じられない力で突き飛ばした、頭に花飾りをつけた小さなウサギが、大きな棒付き飴を舐めながら座っていた。
?「あたしのだもの。」
小さなウサギは、何度もそうつぶやき、棒付き飴を舐め終わった後も、そのキノコの椅子から離れようとしなかった。
その日の夕方。
フツウサは、クータンのリュックに入っていた絆創膏と包帯で手当てをしてもらっていた。
フツウサ「痛いよ、クーたん。」
クーたん「痛いのね。フツウサ。」
フツウサ「悲しいよ、クーたん。」
クーたん「悲しいのね。フツウサ。」
なかなか涙が止まらないフツウサ。足元には金と、銀の涙コインが一枚づつ落ちていた。
フツウサ「あのキノコの椅子はあの子だけのものなのかなぁ?」
クーたん「あのキノコの椅子はあの子だけのものなのかな・・・。」
フツウサはクーたんに借りた星印のついたタオルで涙を拭きながらつぶやいた。
しばらくクーたんのそばで泣くことができて、少し落ち着いたフツウサ。
フツウサ「クーたん、今日は聞いてくれてありがとう。」
フツウサはそう言ってトボトボとおうちに帰っていった。
小さく手を振って見送るクーたん。
クーたん「友達に・・・なれるといいね。」
クーたんは、少し心配そうに笑って、ポツリとつぶやいた。
家に帰って、すぐにおふとんに潜り込んだフツウサは、不思議なほどぐっすり眠れた。
とても長い時間眠った後、目が覚めたフツウサは少し元気になっていた。
フツウサ「ちょっと、実験をしてみよう。」
フツウサは張り切ってなにやら作業を始める。
家にあった、スポンジと、家の周りに落ちていた木の枝を組み合わせて、器用にキノコの形を作っていくフツウサ。
手を動かすたびに身体の傷は痛んだが、フツウサは、夢中で作り続け、あっという間にキノコの形を完成させる。
そして、最後に絵の具でさっと模様を描く。
フツウサ「じゃーん!キノコ椅子の完成!」
フツウサはパパッとキノコの形の椅子を手作りしてしまった。
フツウサ「これで、どうなるかなぁ・・・。」
フツウサは明日朝早く出かけるために、今日は早くおふとんにもぐった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます