第11話 クーたんと自転車に乗った日


 またとある日。今日もまだ、とても暑い日だった。


 おにぎり山でクーたんと別れた後、フツウサは今日もいろんなところに走って探検に行く。


フツウサ「ふぅ、さすがに暑いや。」


 いつもより早い休憩。木陰に入って水筒の冷たいお茶を飲む。ポショエットからブルーベリーを出してパクリ。栄養補給をする。


フツウサ「よし、また行こう。」


 フツウサはまたタカタカと走っていった。


 それなりの時間が経過し、お日様がゆっくりと沈んでいった。


フツウサ「よし、そろそろ帰ろう。」


 フツウサが自分の家がありそうな方向に向かおうとすると、


クーたん「やあ。」


 あの声がする。


フツウサ「やぁ、クーたん、あれ?」


 フツウサが声のする方向を見て、挨拶をすると、見慣れたクーたんが、見慣れない何かにまたがっていた。


フツウサ「ク、クーたん!な、な、な、何、それは?」


クーたん「ふふ、これかい、これは自転車さ。」


 得意気に答えるクーたん。


フツウサ「ジテンシャってなに?クーたんそれに乗って空を飛ぶの?」


クーたん「ふふっ、これはね、自転車といって、二つの車輪で、地面をスィーって走るものなのさ。」


フツウサ「ふむぅ。」


 フツウサはおっかなびっくりしながら、クーたんの自転車に近寄り、まじまじと見つめている。


フツウサ「黒いね。」


クーたん「ふふ、ブラックサイクロン号って名前をつけたんだ。だがしうましにおいてあるワンダーガチャで当たった、魔法の自転車なんだよ。説明書には、練習すれば、マッハも出せるって書いてあったんだよ。」


フツウサ「はぁ・・・まっは・・・?」


 興奮して語るクーたんに、フツウサは圧倒されてしまっていた。


クーたん「フツウサ、一緒に乗らないかい?」


フツウサ「いいの?」


 一気にフツウサの目が輝く。


クーたん「うん、昨日本で調べたんだけど、この星では、自転車の二羽乗りをしても大丈夫みたいなんだ。後ろに乗って!」


フツウサ「うん!」


 クーたんの自転車の後ろにピョンと飛び乗るフツウサ。


クーたん「よし、行くよ!」


 ゆっくりと自転車をこぎだすクーたん。自転車は徐々にスピードに乗る。


クーたん「さぁ、スピードあげるよ。」


フツウサ「ぴゅー!フツウサが走るのよりも早いー!」


 二羽は自転車で颯爽と走り抜けていった。


 しばらく自転車で走っていると、


?「やあやあ。」


 後ろから音を立ててバイクが近づいてくる。


フツウサ「あっ。やぁ。」


クーたん「ぜは、ぜは、やあ。」


 バイクに乗っていたのはさいこうさ。毛の色は白。いつもオシャレでキザな風貌。首に巻いた赤いスカーフをなびかせている。自分のことを何かと最高のウサギだと思っていて、その立ち振る舞いは、優雅。今日は自慢のバイクでツーリングしているところだったよう。


さいこうさ「自転車の二羽乗りとは仲が良いね。」


フツウサ「うん、仲が良いんだ。」


 自転車をこいでいるクーたんの後ろで、胸を張って答えるフツウサ。


 さいこうさは、クーたんの自転車をグンと追い抜いたところでバイクを止めて、得意顔で近寄ってきた。


さいこうさ「そんな君たちには、この最高の王冠をあげよう!」


 どこからか出した瓶の蓋を、自慢げに見せるさいこうさ。


クーたん「ふぅ。」


 クーたんも、一旦自転車を止めて、下を向いて一休みしている。


フツウサ「王冠?ジュースの瓶のフタだね。」


さいこうさ「そうさぁ。僕は最高だからね。最高な王冠を集めているのさ。そして、最高な友達に最高な王冠を配らなければならないのさ。」


フツウサ「はぁ・・・そうですか。」


さいこうさ「ほら、クーたんの分も君にあげるよ。二つの王冠受け取って。」


フツウサ「はぁ、どうも。」


 割と強引に瓶の蓋を二つ渡されるフツウサ。


さいこうさ「ふふっ。本当に僕は最高だなぁ。じゃ、またね、二羽とも。最高の日々を!」

 

 さいこうさは、スタッと優雅にバイクにまたがって、グンとスピードを上げて走り出し、あっという間に見えなくなってしまった。


フツウサ「はぁ、行っちゃった。」


クーたん「行っちゃったね。」


 ちょっと、ポカンとしている二羽。


クーたん「さて、行こうか。」


 ふたたび自転車をこぎだすクーたん。


フツウサ「瓶のフタもらっちゃった。」


クーたん「ぜはぜは。王冠だって言ってたね。」


フツウサ「これ持ってたら王様になれるかなー。」


クーたん「ぜはぜは。なれないだろうねぇ。王冠をかぶっている者が王様なのではなくて、王様のかぶっている物が王冠なだけだからね。」


フツウサ「ふむぅ。」


クーたん「フツウサは王様になりたいと思うかい?」


フツウサ「うーん。わかんない。王様になったら、なんかいいことあるかな?」


クーたん「そうだね、なんでも自分の思い通りにできるようになるかもしれないよ。」


フツウサ「なんでも自分の思い通りか・・・。それって楽しいのかな?」


クーたん「うーん。最初は楽しいかもね。でも、意外とすぐに退屈になってしまうものかもね。」


フツウサ「退屈か・・・。クーたんは王様にはなりたい?」


クーたん「そうだねぇ・・・。物語に出てくるような優しい王様になれるのなら、一度はなってみたいかなぁ。」


フツウサ「うふふ。それじゃ、クーたんの王冠、クーたんのリュックに入れといてあげるね。」


クーたん「ぜは、ぜは、ありがとう。」


 辺りはもう大分暗くなってきてしまっていた。


クーたん「家まで送るよ。ぜはぜは。」


フツウサ「ありがとう、クーたん。」


クーたん「フツウサの家はどっちのほう?」


フツウサ「わかんない!」


 元気に答えるフツウサ。


フツウサ「でも・・・たぶんあっち!」


 自信満々に方向を示すフツウサ。


クーたん「オッケー、さ、帰ろう!」


 クーたんも、何の迷いもなく、その方向を目指す。


フツウサ「優しい王様・・・。」


 クーたんの後ろで揺られながら楽ちんなフツウサ。手の中で鈍く光る王冠をニコニコと眺めていた。

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