第10話 クーたんと月饅頭屋に行った日


 またとある日。


 今日もパラパラと雨が降っていた。そしてこの日はとても久しぶりに強い風が吹いていた。


クーたん「強い風だな・・・。」


 テクテクと歩いていくクーたん。山の道には青々と草花が茂っている。


クーたん「こんなに暑いのに、植物は元気だなぁ。」


 昼の修業も終わり、傘を差して歩いているクーたんは今日もどこかへ向かっている。


クーたん「ちょっと山の方を回って行こう。」


 のんびりのんびり歩いて、山の頂上付近にたどり着くクーたん。


クーたん「うん?」


 そのとき、何か聞こえた気がして、ピクピクさせながら耳をすますクーたん。


フツウサ「やーっほークーたぁーん。」


クーたん「やあ。」


 いつものようにヒラヒラと手を振って挨拶するクーたん。視線の先、ちょっと遠くの空には、フツウサがフワフワと空を飛んでいた。


 あれは、フツウサの意志で飛んでいるのだろうか?いや、あれは強い風を傘に受けて飛ばされてしまっているようである。ちょっと楽しそうにも見えるようだが・・・。


クーたん「フツウサ、風に飛ばされちゃってるんだねぇ。」


 落ち着いてつぶやいたあと、クーたんは自分の傘をクルクルと綺麗にたたんで、走ってすぐさまフワフワと風に飛ばされているフツウサを追いかけた。


 ちょっと小高い丘の上からフツウサに向かい、思い切ってジャンプするクーたん。思ったよりも飛距離に余裕はなかったが、なんとか傘とフツウサを捕まえる。


フツウサ「捕まった!」


クーたん「捕まえた!」


 二羽分の重さで、やっとフワフワと地面まで下りてくることができた。


 少しの間、雨をしのぐために、近くにあった小さな洞窟で雨宿りする二羽のウサギ。


 クーたんは、リュックの中に入れて持ち歩いていた星のマークが入った小さなタオルでゴシゴシとフツウサの頭を拭いてあげた。


フツウサ「たんぽぽのタネの気分だったよ。」


 鼻水を流しながらフツウサはニコッとした。


クーたん「ふふっ。ちょっと心配したよ。」


フツウサ「ごめんね。あ、クーたんも拭いてあげる。」


 フツウサは微笑むクーたんからタオルを借りて今度はクーたんの頭をごしごしタオルで拭いてあげた。


フツウサ「クーたん、今日もこれからどこかへ行くの?」


クーたん「うん、今日は、月饅頭屋に饅頭を買いに行くんだ。」


フツウサ「饅頭屋!一緒に行くよ!」


 濡れた体を拭いた二羽は、なかなか止まない雨を待たずに、傘をさして、月饅頭屋に向かって歩き出した。


 月饅頭屋出張所。月に住んでいる月ウサギ達は、月の女王の命令で、月で大量生産している饅頭をいろんな星に出張して販売している。この星に来ている月ウサギたちは、ワゴン車とのぼり旗を使ってシンプルに販売しているようだ。大人気!月饅頭と書かれた紙が貼ってあるワゴン車に、饅頭の入った箱が並べてある。


 店員さんは二名。今日は雨も降っているし、風も吹いているのでお仕事がとても大変そうだ。二羽とも耳までスッポリ被れる専用の販売服を着て作業している。


月ウサギ一「いらっしゃせー!」


クーたん「こんにちは。二箱ください。あとバラで二つ。」


月ウサギ二「ニンジン二本になります。ありがとでーす。」


フツウサ「天気悪い日は大変だね。」


月ウサギ一「いやぁ、販売ノルマがきつくてそんなこと言ってられないっすよ。」


クーたん「あー、ノルマがあるんだね。それは大変だ。」


月ウサギ二「ノルマを達成できずに、月の女王を怒らせたら大変です。ウサギの首どころか、星ごとフッ飛びますです。」


 二羽の月ウサギは、月の女王の姿を思い浮かべながら、震えたり、涙を流しながら愚痴をこぼす。


フツウサ「うわー月の住民にはなりたくないな。」


クーたん「それじゃ、がんばってください。」


月ウサギ一、二「また是非おこしくださーい!」


 月饅頭屋を後にするクーたんとフツウサ。バラで買った二つの饅頭のうちの一つをフツウサに渡すクーたん。


フツウサ「ありがとう。」


クーたん「この饅頭おいしいんだよ。」


 パクリと頬張るフツウサ。


フツウサ「優しい甘さだね。」


クーたん「優しい甘さだね。」


 二羽は饅頭を食べながら、のんびり歩いておうちに帰っていった。


 雨も風もなかなか止まず、傘をさしていてもフツウサは濡れてしまっていたが、クーたんと食べながら歩く道は、とても楽しく、とても優しかった。

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