第9話 クーたんとだがしうましに行った日


 また別の日。今日は雨が降っていた。最近は雨の日はおにぎり山でのクーたんとのランチは素直にお休み。


フツウサ「傘をさしてると、カゼノテイコウってやつで、うまく走れないんだよな。」


 フツウサはクータンからもらった傘をさしてスタスタと歩いて出かけていた。


 雨の日の川はゴウゴウと流れがはやくて、ちょっと怖い。だけどいつもは見られものじゃないから、傘を手に入れてからのフツウサは、雨が降るといつもなんとなく見にきてしまう。


 道にはカタツムリがいたり、カエルがいたり晴れの日とは違う生き物がたくさんいる。


 傘があると、あまり濡れずにそれらを眺めることができるので、フツウサは得意顔だった。


 フツウサが雨の日の日常に夢中になっていると、いつの間にか雨は上がり、辺りが少し薄暗くなってきた。


フツウサ「雨がやんだ・・・。よし、帰ろうかな。」


 いつも通り、ここまでどういう道筋で歩いてきたかはわからないが、自分の家がどこにあるのかはなんとなくわかる。自分でも理由がわからないが、フツウサはこれまで、道に迷ったことがない。


 フツウサが口笛を吹き、たたんだ傘をクルクル回しながら、家に帰ろうとすると、


クーたん「やあ!」


 聞きなれた声が聞こえた。


フツウサ「あ、またクーたんだ!」


クーたん「よく会うねフツウサ。今から帰るところかい?」


フツウサ「そう、雨もやんだし、これからおうちに帰るの。」


クーたん「また、ちょっと一緒に歩かないかい。」


フツウサ「うふふ。いいね!クーたん、今日はどこいくの?」


クーたん「今日はだがしうましに行ってうまいぞうを買おうと思ってね。」


フツウサ「だがしうましだね。一緒に行くよ。」


 フツウサはクーたんについて歩き出した。


クーたん「今日は雨がいっぱい降ったね。」


フツウサ「今日ね、道にね、きれいなカエルがいたんだよ。」


クーたん「へぇ。道にきれいなカエルがいたんだねぇ。それは縁起が良さそうだなぁ。」

                                      フツウサ「クーたん、今日は蒸し暑い日だったね。」


クーたん「うん。蒸し暑い日だったね。」


フツウサ「クーたんは暑いの好き?」


クーたん「うーん、あんまり暑すぎると嫌になっちゃうかなぁ。」


フツウサ「そうなのかぁ。フツウサは暑いの好きだなぁ。」


 二羽がお喋りしながら歩いていると、道の途中で一羽のウサギと出くわす。


クーたん「やあ!」


フツウサ「やあ!」


?「しくしく・・・しくしく・・・。」


 耳がとーっても短いウサギ。毛の色は濃い茶色。とにかくいっつも泣いていて、目は常にウルウルしている。自分でも何が悲しくて泣いているのかわからない。ただただ涙が出て涙が出て仕方がない。みんなには、なきうさと呼ばれている。


フツウサ「これからだがしうましに行くんだけど、一緒にいく?」


なきうさ「しくしく・・・しくしく・・・。」


 なきうさは涙を流しながら大きく頷いた。




 横を川が流れている道の先にある、とても古い佇まいの小さな駄菓子屋‟だがしうまし”。


 お店の中にはいろんな駄菓子が置いてある。飴玉や、お煎餅、チョコレートにアイスクリーム。なかでもサクサクした棒状のお菓子、うまいぞうはウサギ達の間でも人気がある。


 この星の経済は大体ニンジンでの物々交換で回っているのだが、この‟だがしうまし”だけは、通貨で取引をしている。


 この店の主はウサギではないらしいという噂があるのだが、店主がウサギ達の前にその姿を見せたことはない。


 この駄菓子屋‟だがしうまし”が扱っている通貨は、笑顔コイン。笑顔コインはウサギ達にとても嬉しいことがあって、笑顔になると、どこからかウサギ達の足元に落ちる不思議なオレンジ色のコインである。


 駄菓子屋‟だがしうまし”の駄菓子を買うにはこのオレンジの笑顔コインが必要だった。


 だからウサギ達は駄菓子を手に入れるためには、嬉しいことや、楽しいことを探して、笑顔にならなくてはならないのである。


 この日、クータンは笑顔コイン三枚で、うまいぞうを三十本買っていた。


フツウサ「結構買うんだね。」


クーたん「うん。ちょっと多めの備蓄が必要でね。」


 フツウサは自分も何か駄菓子を買おうか迷ったが、今日のところは、何も買わずに、ただ店内をグルグルと見まわすことにした。


フツウサ「あれ、なきうさは?」


クーたん「いつものところじゃないかな。」


 クーたんとフツウサが店の外に出てみると、なきうさが、ガチャガチャを泣きながら回している。


なきうさ「しくしく・・・ガチャガチャ、しくしく・・・ガチャガチャ。」


 足元にはガチャガチャの空のカプセルと、三つ葉のクローバー。そして野菜のキーホルダーがたくさん、たくさん転がっていた。


フツウサ「わぁ、すごい・・・いっぱいだね。」


クーたん「ほんとだ、いっぱいだ。」


 駄菓子屋‟だがしうまし”の店の前、入り口の脇には昔ながらのガチャガチャが置いてあり、ワンダーと手書きで書かれた紙が貼られている。


 このワンダーガチャは、今そのウサギに本当に必要な魔法のアイテムを出してくれることがある、文字通りワンダーなガチャガチャ。


 ただし、ウサギが自分で必要だと思い込んでいる物が出るとは限らない。


 基本的にはどんな魔法のアイテムが中に入っているかは誰も知らない、不思議な不思議なガチャガチャなのである。


 この不思議なガチャガチャを回すのには涙コインが必要である。


 涙コインとは、ウサギ達にとても悲しいことがあって涙が流れると、どこからかウサギ達の足元に落ちる不思議なコイン。


 笑顔コインは一律オレンジ色だが、涙コインは、涙を流したときの感情の強さによって金、銀、銅とコインの色が分かれる。


 ちなみにワンダーな魔法のアイテムは、ほとんど金の涙コインを使わないと出てこない。


 銀の涙コインだと、あれば便利な日用品が出ることが多い。銅の涙コインだと、三つ葉のクローバーが一枚か、野菜のキーホルダーが一つ出るというのが定番である。


 ちなみにウサギ達はハズレとはいえ、ニンジンのキーホルダーが出るとちょっと嬉しくなるらしい。


 なきうさは泣きながら、たくさんの銅コインでガチャガチャを回し続けている。


なきうさ「しくしく・・・ガチャガチャ・・・しくしく・・・ガチャガチャ。」


クーたん「・・・行こうか。」


フツウサ「そうだね、またね、なきうさ。」


 クータンとフツウサは、夢中でガチャガチャを回し続けているなきうさに挨拶をして、テクテクと歩いて帰って行った。


なきうさ「しくしく・・・ガチャガチャ、しくしく・・・ガチャガチャ・・・あ、ニンジンのキーホルダーが出た。」


 チヤリーン


 なきうさが持ってきた、たくさんの銅ばかりのコインに、一枚オレンジ色のコインが新しく加わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る