第6話 初めて傘をさした日
何日かが過ぎ去った後のとある日のこと、その日は雨だった。
ウサギ「雨は嫌。」
ウサギはココアを一口飲んではテーブルに突っ伏し、一口飲んでは突っ伏しを繰り返していた。
ウサギ「はふーっ。」
ウサギは、雨にシトシト濡れている木の葉を窓から見るたびにため息がでてしまう。
ウサギ「雨でも星ウサギさんいるのかな?」
雨音を聞きながら天井を見上げていると、ふと頭にそんな言葉が浮かび、それがそのままウサギの声になった。
急に好奇心が湧いたウサギは、不意に立ち上がり、家のドアをバーンと開けて、雨の中をタカタカと走り出していた。
いつもの時間、いつもの山道。地面は雨で少し滑りやすくなっていたが、ウサギは上手に走っていた。
いつもの山の頂上。今日は星ウサギは座っていなかった。ウサギはガッカリとしてしまったが、とりあえず星ウサギに遭遇すべく、近くに落ちていた枝を踏んでみた。
バキッ!
しかし星ウサギの声は聞こえてこない。
それでもウサギはしばらくの間、雨の降る山の頂上で、なんとなく星ウサギを待っていた。強い雨ではなかったが、ウサギは上から下まで雨で濡れてしまっていた。
ウサギ「星ウサギさんも雨は嫌いなのかな・・・。」
ウサギは何だか寂しい気持ちになってきてしまった。
ウサギ「お腹減った・・・。」
走る元気もなく、とぼとぼと山の頂上を去ろうとするウサギ。ちょっとフラっとした拍子に、さっき踏んだ枝をもう一回力強く踏んでしまう。
バキッ!
星ウサギ「やあ!」
ウサギ「!?」
びっくりして振り返ると、そこには傘をさした星ウサギが立っていた。
星ウサギ「今日は雨だから座っては食べられないけど、おにぎりいるかい?」
黙ってうなずくウサギ。星ウサギはゆっくり布袋からおにぎりを出して、ウサギに優しく渡した。
星ウサギ「今日はオカカを入れてみたんだ。おうちで食べてね。」
ウサギはまた黙ってうなずき、雨で濡れてしまわないように両手で大事におにぎりを抱える。
星ウサギ「大分雨に濡れてしまったね。」
しばらく雨にうたれて、上から下まで濡れてしまっているウサギを見ながら、星ウサギはつぶやく。
星ウサギ「はい。どうぞ。」
星ウサギがさしている傘をウサギにわたそうとする。
ウサギは傘を初めて見るが、なんとなくそれは雨を避けるための道具であり、なんとなくそれをウサギに渡してしまったら、星ウサギが雨に濡れてしまうことがわかった。
ウサギ「あなたが濡れちゃうよ。」
星ウサギ「自分は大丈夫。家もそんなに遠くないから。」
星ウサギはそう言って、わりと強引にウサギに自分のさしている傘を渡す。
星ウサギ「じゃあ、またね。」
そそくさと走り去ろうとする星ウサギ。
ウサギ「あの!」
星ウサギ「うん?」
初めて傘をさしているウサギが星ウサギを呼び止める。
ウサギ「あなたは、雨は嫌ですか?」
星ウサギ「雨ねぇ・・・。」
雨にうたれながら、空を見上げて少しだけ星ウサギは考える。
星ウサギ「自分は・・・好きだよ、雨も。」
星ウサギはそう言って、ニッコリ笑い、そして去っていった。
ウサギ「私も・・・好きになれるかな・・・雨。」
星ウサギを見送ったあと、ウサギはボソッとつぶやき、少しだけ遠回りして家に帰った。
家に帰り、身体をタオルでゴシゴシと拭いた後、ウサギはさっそく星ウサギにもらったおにぎりを頬張る。するといつもの地味で優しい味がする。
ウサギ「むむむ。」
ウサギの二口目はオカカに到達した。オカカはしょっぱい、甘いの二重構造で、とにかくお米の部分をどんどん食べたくなった。
ウサギ「あっという間だ。」
ウサギは一気に食べきってしまった。
玄関には、たたみ方のわからない傘が開いたままで置いてある。改めて見てみると、青い傘には大きな黄色の星のマークがついていた。
ウサギ「雨の日は枝を二回踏めば星ウサギさんに遭遇できるんだな。」
ウサギは今日も何だかよく眠れるような気がしてちょっと幸せな気持ちでおふとんをかぶった。
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