第5話 私がウサギになった日
またある日、何かは今日も山の頂上に向かって歩いていた。
何か「今日も会えるかな。」
いつからか、朝の修業と昼の修業の間の短い時間、日当たりの良い山の頂上でおにぎりを食べるのが習慣になっていた。
その山の頂上で、ちょっと前から自分とは違うウサギに出くわすようになった。何かはそのウサギと会ってお話しするのをとても楽しみにしていた。
期待に胸を膨らませながら何かはいつも通りおにぎりを二つ布袋に詰めて、スタスタと山への道を歩いた。
何か「おっ。」
山の頂上にはすでに一羽のウサギが座っていた。
何かがウサギにどう声をかけようか迷っていたら、
ウサギ「大きい枝そこにあるよ。」
ウサギは親切に教えてくれた。
何か「ふふっ」
何かは少し笑って、
バキッ!
大きめの枝を踏み抜いた。
ウサギ「やあっ!」
何か「やあっ。こんにちは。」
何かはウサギのすぐ隣に腰かけた。
そして何かはゆっくりと布袋からおにぎりを出す。
何か「今日もおにぎり二つ持っているんだ。一緒に食べよう!」
ウサギ「じゃーん!」
何か「うわっ!」
肩にかけてきた水筒をすごい勢いで何かに見せるウサギ。びっくりして何かはひっくり返りそうになる。
何か「おっとっと・・・山から転げ落ちちゃうところだった。それはなんだい?」
ウサギ「ココア!」
ウサギの目はキラキラと輝いている。
何か「ふむ。ココア・・・。」
ウサギ「知ってる?ココア。うんと甘いやつ。」
ウサギの目の輝きは増すばかり。
何か「うん・・・。本で読んだことはあるよ。だけど、飲んだことはないな。」
ウサギは持ってきたマグカップにアツアツのココアをそーっと注ぐ。
ウサギ「あい!」
ウサギこぼさないように、でも元気よくマグカップを何かに渡す。
何か「おお。ありがとう。」
湯気の立ち昇るマグカップを受け取り、何かは火傷しないようにゆっくりと、ひとくちココアを飲む。
何か「うん・・・。甘いねぇ。」
ウサギ「うふふふ。甘いねぇ。」
何かはとにかくキラキラと嬉しそうにしているウサギを見ながら、ココアの甘さに幸せな気持ちになっていった。
何か「今日はおにぎりの具を二つともシャケにしてきたんだ。」
ウサギ「シャケ・・・。」
何か「うん、おいしいよ。」
何かは優しくウサギにおにぎりを渡す。
ウサギは躊躇なくおりぎりをパクリとほおばる。相変わらず地味だけど、どこか優しくて元気の出る味だった。
ウサギ「ふむむ。」
ウサギの二口目はおにぎりの中のシャケに到達した。シャケの塩気はお米の優しい甘みを引き立て、ウサギに十分な旨味を与えてくれた。
ウサギ「おいしいね。」
何か「おいしいね。」
二羽はゆっくりとおにぎりを味わって、幸せな時間を過ごした。
ウサギ「ウサギ・・・星・・・ウサギ・・・。」
ウサギはボソボソとつぶやいた。
何か「うん?」
ウサギ「私は・・・ウサギ?」
何か「そうだね。白くて耳の長い、可愛いウサギさんだね。」
ウサギ「ウサギ・・・。私は可愛いウサギ?・・・あなたもウサギ?」
何か「うん。自分もウサギ。自分は星ウサギ種っていう種類のウサギなんだ。」
ウサギ「星ウサギ・・・。星、ついてるもんね。ほっぺに。」
星ウサギ「うん。星ウサギ種は身体のどこかに星のマークが必ずあるんだ。」
ウサギ「私も・・・星ウサギ?」
星ウサギ「身体のどこかに星のマークは入っているかい?」
ウサギはブンブンと首を横に振る。
星ウサギ「ないんだね。それじゃ、星ウサギじゃないかもね。」
ウサギ「そか・・・。」
星ウサギ「この世界にはいろんな種類のウサギがいるからね。・・・さて、自分はもう行くね。」
ウサギ「あ、うん・・・ありがとう。」
星ウサギ「こちらこそ、ありがとう。またね。」
星ウサギはウサギに向かって小さく手を振ってスタスタと山を下りて行った。
ウサギ「私はウサギ・・・なのか。何ウサギ・・・なのかな・・・?」
ウサギはボンヤリと空を見上げながら、呟いた。
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