第3話 自らの意志で枝を踏んだ日

 それから何日か後の、とある晴れた日。ウサギは今日も、何も考えずに、歩いたり走ったりしようと思って出かける。今日も特に行先を決めずにどんどん走る。しかし、たまたま足の向いた今日のこの道は、あの何かと遭遇した山の頂上への道につながっていそうだ。


ウサギ「違う道にしておこうかな・・・。」


 いつも気の向くまま、身体の向くままに道を進んでいる。気にかかることがあるからといって、自分の今日の道を変えるのも何だか悔しい。ウサギは考えるのをやめて、そのまま進み続けることにした。


ウサギ「あっ。」


 山の頂上には、このあいだ遭遇した何かがまた座っていた。


 しかし、今日はウサギの身体は止まらなかった。ずんずんと山の頂上への道を進み、その何かに近づいていく。ウサギは早くも遅くもない速度で進み、何かが座っている山の頂上付近に到達。


 あの何かはまだこちらに気づいていない。そこで今日も足元に転がっている大きめの枝をジーッと見つめるウサギ。


バキッ!


 今日は自らの意志でその大きめの枝を踏み抜いた。


 山の頂上に座っていた何かが、その音に敏感に反応し、もう、すぐ近くまで来ていたウサギの方を見た。


何か「やあっ。」


 何かはこの前と同じようにヒラヒラと手を振って、大きくも小さくもない声でとても簡単に挨拶をした。


 ウサギはズンズンと何かに近づき、何かの目の前でピタッと止まる。


ウサギ「あ、あ、あ、あなたは誰ですか?」


 突然ウサギが、震えた声でその何かにたずねる。


何か「・・・。」


ウサギ「こ、こ、こわい何かですか?」


何か「こわい何かではないよ、たぶん。」


 ウサギは注意深く、その何かを隅から隅まで見つめる。そして、その何かが手に持っている白い三角の物に目がいくと、そこで目が釘付けになった。


何か「・・・うん?」


ウサギ「それは何ですか?」


 ウサギは真っ直ぐ白い三角の物を指さし、何かにたずねる。


何か「これかい?これはおにぎりだよ。」


ウサギ「おにぎり・・・。」


何か「そう。ふふふっ。」


ウサギ「ウ・・・サギ・・・星・・・星ウサギ・・・おにぎり・・・。おにぎりー!」


 何かの返答を聞き、ブツブツと独り言をつぶやいたウサギは、急に叫び声をあげ、また、タカタカと逃げるように走り去ってしまった。


何か「あれ、あ・・・。またね。」


 その山の頂上に座っている何かは、ちょっと残念そうに小さくつぶやき、走り去るウサギの背中を見送りながらヒラヒラと手を振った。




 ウサギは家に帰り、いつものようにマグカップでココアを飲んでいた。


ウサギ「よくわからないけど、あの何かはこわくない・・・かもしれない。」


 ウサギはよくわからない不思議なワクワク感を感じていて、なんだか今日は気持ちよく眠れるような気がしていた。

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