第3話
一方。とある近代的な建物の中では、電話を切ったサクラが自分の腕をさすっていた。
「気持ち悪い。オタクって大嫌い。何であんな奴に電話なんか……」
「仕方ないだろう。彼にもアンゴルモアの子である可能性がある」
そう話しかけてきたのは、ビシッとスーツを着た男だった。
金髪碧眼で超絶イケメン、まるで王様のような威厳がある。
「マルス司令官……彼はたぶん違うと思いますよ。小さいころから、何をやっても平凡で特徴のない子だったもの。おまけに、今は不登校でひきこもってゲームばかりしているし」
そういうサクラの顔には、太郎に対する嫌悪感が浮かんでいた。
「サクラ君。私たちの目的を忘れたのかな?」
マルスがこわい顔になったので、サクラはビクっとなる。
「は、はい。私たち『ソーサリー』は、今の社会を守り、発展させていく守護者なんですよね!」
「そうだ。我々は特別な能力を持つエリートとして、下々の者たちを導かねばならん。才能にはいろいろな形がある。一見平凡そうに見えても、思いもしない才能があるのかもしれないんだ」
マルスとよばれた男の顔には、社会の守護者であることの誇りが現れていた。
「二度とフジョーシのような、裏切り者は出してはいけないのだ。そのためには、我々アンゴルモアの子同士、仲良くしなければならん。差別などしてはならないのだ」
「は、はい。お兄様……」
マルスを見つめるサクラの顔には、彼に対する尊敬と信頼が浮かぶのだった。
日曜日
精一杯お洒落をして、太郎は秋葉原に向かう。
「よし。新しいプリントシャツに白のチノパン。頭にはバンダナ。背中にはリュック。完璧だ」
そう、完璧なオタクファッションだったが、太郎は気にしない。
指定された秋葉原の会場に行くと、OL風のスーツを着こなしたサクラが壇上でトークをしていた。
「みなさん、来てくれてありがとう。今日は大人っぽい格好で決めちゃいました!」
黒縁メガネ、白いシャツに黒のスーツ、ストッキングをはいたサクラが叫ぶ。その幼げな甘いマスクとかわいい声とのミスマッチに、集まっていたファンたちはメロメロになった。
「ゲームでの私は、主人公の上司になります。ビシビシ指導しちゃうぞ!」
雰囲気重視でちょっと怖い目つきをするサクラに、ファンたちは歓声を上げる。
「こんな上司の下だったら、何時間でも働ける!」
「一生懸命働いて、社会を支えるんだ!」
そんな叫び声があがり、太郎はちょっと怯えてしまった。
(ま、まずいな。不登校なんかしていたら、サクラに怒られるかも。まじめに学校いこうかな?)
その場の雰囲気に押されて、殊勝な考えを持つ太郎だった。
イベントが終わった後、スーツを着たスタッフに呼び止められる。
メガネをつけた秘書風の美女は、太郎を見ると丁寧に頭を下げた。
「風間太郎さんですね。サクラが会いたいといっています」
「は、はい!」
サクラに呼ばれて、太郎はウキウキしながらスタッフルームに入る。
そこにはサクラはおらず、厳つい顔をしたおっさんがいた。
「あ、あの。サクラは……」
「彼女はちょっと席をはずしているよ。そこにかけたまえ」
有無を言わさず命令してくる。太郎はびびりながらも、粗末なパイヌ゜椅子に座った。
「あ、あの……」
太郎は声をかけるが、男は黙ったまま彼をにらんでいる。その手には奇妙なものがあった。
白地に笛を吹いた天使の絵が描かれいるカードを握りしめていめのである。
しばらく太郎をにらんでいた男は、ため息をつく。
「ふむ。アンゴルモアの子の一人ではあるな。仕方ない。面接といくか。太郎君だったね。まずは挨拶をしたまえ!」
いきなり大声を出されたので、太郎は硬直する。
「か、風間太郎です。よろしくお願いします!」
なぜか深々と御辞儀をしてしまうのだった。
「ふむ……。私はマルス様の下。社会を正しい方向に向かわせようとしている「ソーサリー」という祖組織の幹部。面田節夫だ」
「よ、よろしくお願いします」
太郎は丁寧に頭を下げる。
セツオと名乗った男は、無言で何かの紙を取り出して、ジーっと眺めた。
「あ、あの……その紙は?」
「君の調査書だ。父親は有能弁護士として活躍中。母親は女優として人気の風間真紀。兄は現在日本最高学府の東都大学法学部に在学。妹は二世タレント、風間ミキ。アイドル候補生として大手芸能事務所に所属……ふむふむ」
そこまでは興味深そうに見ていたが、肝心の太郎の項目を見て顔をしかめる。
「何だこれは。両親の金で私立名門校の襟糸学園に通うものの、勉強についていけずにいじめられて不登校。趣味はゲームで、ほとんどネットに入り浸りでニート状態……」
セツオは忌々しそうに太郎をにらみ付ける。怖そうな成人男性にそんなことをされて、太郎は縮み上がった。
「君のような子は、わが「ソーサリー」に必要ない!」
「さっきから何を言っているんですか?俺は変な組織なんかに興味ないですよ!」
勝手に罵声を浴びせられて、ついに言い返してしまう太郎だった。
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