第21話 税金


「ま、でもいいか。結局、諸経費を合わせても200万くらいは儲かったんだし。色々不安にさせられたけど、終わりよければすべてよしだな」

札束を見てニヤける新人だけど、世の中そんなに上手くはいかない。

半年後、思いもよらない悲劇が彼に訪れるのだった。


それから半年後……三月になり、少しずつ暖かくなってきたころ。

新人は確定申告を経験することになった。

「えっ? 短期譲渡所得って? 」

税務署で確定申告をする際に、職員から追加で税金を払うように言われてしまう。

「はい。大矢さんは去年家を買って、同じ年に売ってますよね」

「はい……」

職員に金の流れを指摘されて、素直に認める。

「5年以内に不動産を売買して、利益を出した場合、その利益に対して税金がかかるのです」

職員の無表情な説明を聞いて、真っ青になる新人。

てっきり、利益は全部自分のものになると思っていたのである。

「た、たとえばどんな税金が?」

「そうですね。まず経費を引いた利益に、所得税が30%、住民税が9% そして所得税に追加の復興特別所得税が加算されます。約四割程度の税金となりますね」

「つまり、経費を引いた利益が約200万だから……」

「80万円ほど税金を納めていただくことになりますね」

「……」

あまりにも酷い話で、新人は絶句する。

「そ、それっておかしいじゃないですか! こっちは損するリスクをかぶって、散々不安に思いながらやっと利益を出したのに、何もしてない国が税金を持っていくなんて! 」

「法律で決まっていますから」

あくまで無表情で言う税務職員。

「……なんでこんな法律が……」

「バブルの頃、あまりにも不動産取引が過熱したので、それを抑えるために今の税率に決まったそうです。お気の毒ですが、納めていただかないと」

「でも……」

新人はそれでも渋っている。傍から見たら不動産ころがしで濡れ手に粟で大儲けに見えるが、それなりにリスクを被って投資した結果の正当な利益である。

半分近くも持っていかれる事には、なかなか納得できなかった。

そんな新人に、職員は諭すように説得を続ける。

「誰でも利益が居出た時は、それに見あった額の税金を納めていただいているのです。株とかの金融商品で儲かったときにも、ちゃんと税金は払っていただくようになっています。納めていただく以外に方法はありません」

「わかりました……」

相手は国家権力である。逆らっても勝ち目はない。

新人は諦めて、80万を納めるのだった。


コールセンター

新人の話を聞いた新庄さんが笑っている。

「ふふふ……それは残念だったね」

「本当ですよ! 国って奴は泥棒みたいなもんですよ。俺みたいな貧乏人から税金を巻き上げて」

ブンスカと怒っている新人。やり場のない鬱憤を新庄さんに聞いてもらうことで解消していた。

「でも、結局120万も儲かったんでしょ? それも半年で。良かったじゃん」

「……それはそうなんですけどね。リスクに合わないというか……」

新人は不満そうである。

今回はたまたま買い手が早く見つかってラッキーだったが、いつも上手くいくとは限らない。

下手をしたら使い道のない物件をずっと抱え込んで、延々と管理費を払う目にあったかもしれないのである。

不動産投資には「負産」になる危険性もあると、改めてその危険性を感じていた。

「でもさ、120万円以外にも大事なものを手に入れたんじゃない?」

「大事なもの?」

新人は首をかしげる。

「人間って失敗を経験するたびに、賢くなるんだよ。同じ経験を繰り返さないようにと骨身にしみるから。これで大矢君はもうマンションに手を出す気はなくなったでしょ?」

「確かに……」

言われてみればその通りである。

いかにマンションが金食い虫であるか、そして短期での不動産ころがしに高い税金がかかるかを経験して、もう二度とおなじ事はしないと心に誓っていた。

「がんばって。そうやって失敗を繰り返してみんな成功していくんだよ」

一つ新人の肩を叩いて励まして、新庄さんは仕事に戻っていく。

「確かに……これからもがんばろう。いい経験をしたと思えばいいか」

新人もようやく気持ちを切り替えることができた。

しかし、新人は次の物件で今までとは比べ物にならないくらい、恐怖を感じるのであった。


四月に入り、競売にかかる不動産の物件も増えてきた。

「なんでかな……この時期に増えるのかな?」

そんなことを思いながら、新聞チェックをする。

前回のマンションで懲りたので、今度は一戸建てをメインに探していた。

「おっこれは?」

例によって100万円台の物件を探していたら、ちょうど手ごろな家が見つかった。

述べ床面積 70平米

二階建て3LDK

築35年。駐車場あり。

買受可能価格 120万円

「うーん。小高い丘の上にある物件か。ちょっと遠いな……」

同じ市内にあるが、原付で一時間ほど離れている場所にある。

「まあいいか。見に行ってみようか」

次の休みを利用して、見学に行く新人だった。


「うーん……」

くすんだ壁をした小さい一戸建ての前で、新人はうなる。

以前購入した一戸建てに勝るとも劣らぬ汚れっぷりだった。

「この辺りのことは良くわからないけど……でも、一応そこまで田舎でもないんだよな……」

車で少し行ったところにはショッピングセンターが並んでいて、物件の近くにはバス停もある。

バスに乗って数分で駅までいけて、歩いても15分程度だった。

「たしかに汚いけど、リフォームしたらなんとかなるし」

家の周りを一回りして、そう結論付ける。

小さい家ではあったが,一階には台所と六畳間、二階には四畳半の洋間と六畳の和室がある。

なんとか住めないことはなさそうだった。

「それに……車が二台置ける」

そう。この家には申し訳程度庭があるが、道路に接していて二台車が置けるのである。

そこにはもはや動かなくなったような普通車と、まだ動きそうな軽自動車があった。

「生活保護の人に貸せば、なんとか借り手があるか」

そう結論づけて、入札することを決める。

このときに周囲の環境をよく確認しなかった事が、後々の後悔につながるのだった、

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