第66話 襲撃
泣き叫ぶ利光に首輪をかけ、駐屯地に作られた牢屋に収納する。
「あいつは旨そうだな」
「ああ、せいぜい太らせて、丸焼きにして食ってやろうぜ」
「いや、生の刺身なんてどうだ?」
彼らは舌なめずりしながら、利光をどんな料理にするか相談し合うのだった。
「だけど、ちょっと食料が物足りないな」
「ああ。この辺りは田舎だから、生き残っている人間が少ない。今ある食料を食いつくしたら、餓死することになるぜ」
厳しい現実にぶちあたり、怪人類たちは考えこむ。彼らは肉食なので、コメなどの穀物や野菜から栄養を取る事ができない。なので常に新鮮な獲物を確保しておく必要があった。
「そうだ。俺の叔父貴が山内組のヤクザでよ。そこから聞いたんだが、この近くに魔人類たちのシェルターがあるらしい。そこには旨そうな若い女がいっぱい収納されているんだと」
「マジか?」
それを聞いて、怪人類たちは目の色を変える。
「それはいいな。だったらそれを探してみよう」
「ああ。百万人ぐらい収納されているみたいだから、食い放題だぜ」
怪人類たちは涎を垂らしながら、若い女を思うさま貪り食う有様を想像するのだった。
青木ヶ原樹海
溶岩でできた岩の隙間に、シェルターの入り口があった。
「ここに多くの人たちが眠っているのですか?」
「そうだ。十代前半から20歳くらいの、子供を産める健康な男女が冬眠している。新世界の住人たちだ」
正志は、忍隠村の住人に告げる。
「お前たちには使命を与える。中の者たちが目覚める30年後まで、このシェルターを侵入者から守りぬいてほしい」
それを聞いて、住人たちは頷いた。
「微力を尽くしましょう。私たちを救ってくださった師匠への恩返しです」
「俺たちの手で、新しい世界に生きる日本人を守るんだ。やりがいのある仕事だぜ」
それを聞いて、正志もうれしそうな顔になる。
「そうか。なら、怪物と戦えるようにもっと鍛えてないとな。よし、実践訓練始め!」
「ひいいっ」
スパルタ式訓練が始まり、住人たちは悲鳴を上げるのだった。
正志が若い男を連れて外で戦闘訓練をしている間、村を守るのは女たちの仕事である。
彼女たちも村を覆うバリケードの構築や食事の支度、子供の世話など、日々忙しく仕事をしていた。
そんなある日、村の外を監視していた子供が大声をあげる。
「自衛隊員だ!」
それを聞いて、女も子供も我さきにと村の外をみる。
迷彩服を着た男たちが、村を取り囲んでいた。
「くくく……シェルターを探していたら、旨そうな女子供たちがこんなにたくさんいたぜ!」
「ヒャッハー!おい!助けに来てやったぞ!門を開け」
迷彩服をきた男たちは、村の門を開くように騒ぎ立てる。
「ねえ……なんか自衛隊員にしては下品じゃない」
「でも……恰好は間違いなく自衛隊だよ。もしかして本当に救助に来てくれたのかもしれない」
不信に思いながらも門を開けようとする女たちを、穂香が止めた。
「待って。あいつらおかしいわ。なぜか変なバイクに乗っている」
穂香は迷彩服の男たちが乗っているバイクを指さす。確かに自衛隊で正式採用されている地味な偵察用バイクとちがい、まるでヤンキーが乗っているような派手なバイクばかりだった。
「陸上自衛隊の装備に、あんなバイクなんてなかったはずよ!あいつらは偽物だわ!」
穂香はそうって、弓矢を構える。
「どこかに行きなさい。あんたたちを入れるつもりはないわ」
そういって矢を放つのだった。
穂香が放った矢は、的を外れて地面に突き刺さる。迷彩服の男たちに被害はなかったが、この行動に男たちは激怒した。
「そうか。俺たちとやろうってんだな」
「上等だぜ!美味しく食ってやる!」
歯をむき出してがなり立てる。その尖った歯を見て、村の女たちは彼らがまともな人間ではないことを改めて悟った。
「みんな。村を守り切るのよ。あと少ししたら、正志君たちが帰ってくるわ」
穂香がリーダーシップを取り、村に籠城することを決意する。
「お前ら!出てこい!」
男たちは外で騒ぎ立てるが、厚い木の壁に阻まれて、村に入ることはできなかった。
その時、ひときわ狂暴そうなリーターが出てきて、仲間たちを制する。
「まあ、待てよ。俺たちは人間なんだから、頭を使おうぜ」
そういうと、ガソリンを取り出して村を囲う木の壁に振りかけた。
「出てこないなら、いぶりだしてやる」
そういうと、ライターを取り出して投げつける。ガソリンに引火して、木の壁はあっという間に燃え上がった。
「ヒャッハー!狩りの時間だ!」
燃えてもろくなった壁を押し倒し、男たちは村の中に乱入する。
穂香たちは、襲撃してきた怪人類たちに捕虜にされてしまうのだった。
自営隊 富士駐屯地
捕虜にされた穂香たちは、怪人類たちによってここに連れてこられていた。
「ここに入っていろ!」
怪人類たちに尻を蹴られ、穂香と子供たちは牢の中に突き飛ばされる。中には老若男女の大勢の人間がいたが、誰しも絶望した暗い目をしていた。
意外なことに牢の中には水やコーラなどの炭酸飲料が山ほど積まれており、カップ麺なども山のように積まれている。中にはカセットコンロまであって、自由に食べられるようになっていた。
しかし、ほとんどの人はそれに手をつけようとしない。これらは獲物を太らせるための餌だとわかっているからである。
「もう終わりなんだ……こうなったら食いまくってやる」
しかし、中にはすべてを諦めてただ食べることを繰り返している少年もいる。
(ブヒヒ……コーラ甘え。カップ麺うめえ)
それは、ここに閉じ込められてから希望を失って現実逃避している島田光利である。彼はひたすら与えられたカップ麺をすすり、ぶくぶくと太っていた。
「私たち……これからどうなっちゃうの?」
希望を失って震える穂香に、ある中年男が話しかけてきた。
「あんたたちは、今までどこにいたんだ?まだ怪物に襲われていない人間が外にいたとはな」
「私たちは近くの忍隠村でコミュニティを作っていたんです。魔人類リーダー、正志君の指導の元で」
穂香が忍隠村のことを話すと、その中年男は目を輝かせた。
「そうか。正志君はコミュニティを作るのに手を貸してくれているのか」
「彼のことを知っているんですか?」
「ああ。娘を助けてくれた」
その男は、交通事故により片足になった娘を助けてくれた時のことを話した。
「ああ、あの時の……」
「ああ、父親の飯塚修だ。それだけではなくて、私に感染したソウルウイルスも調整してくれた。そのおかげで中年の私も怪物にならずにいるというわけさ」
ソウルウィルスによる怪物化は、年をとった者ほど発症しやすい。大破滅が始まって以降、多くの大人たちが怪物化したのに修が人間でいられるのは、正志のおかげだった。
「娘をシェルターに入れてもらって以降。私は大破滅を生き残るために、自衛隊の予備役に応募してこの駐屯地にいたんだが、そこでも幹部連中が怪物化してしまってね。その混乱で大部分の仲間が殺され、その後に起こった奴らの襲撃によりこのざまだ」
修は自嘲気味に、これまでのことを語った。
「その後、奴らは次々に生き残った人間を捕まえてきてここに収納している。何人かは連れていかれ、そのまま……」
その言葉を聞いて、穂香は身震いした。
「な、なんとかここから逃げ出しましょう。正志君に助けてもらえれば……」
「ああ。だが、正志君たちはこの場所を知らないだろう。なんとかして彼に伝える必要がある」
そういうと、修は牢内にいる人間たちに呼びかけた。
「皆も聞いてくれ。俺に一つだけ策がある」
捕虜にされた人々は、修の話に耳を傾けるのだった。
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