第52話 政府系シェルターの惨事
東京ドームでの惨事は、神に希望をたくしていた日本国民の心を折った。
目の前で神々が大地に封印されたところを見せつけられ、さらには今まで見ていた魔人類との闘いが、すべて茶番で一人の魔人類も倒せておらず、その数は数万人にまで膨れ上がっているとしり、心の底から絶望するのだった。
その絶望は怒りへとかわり、弓たち『高人類(タカビー)』に向かう。
このままでは暴徒に襲撃されると判断した日本政府は、弓たちを政府高官用のシェルターに匿った。
「なぜ彼女たちを匿うのですか?」
ある官僚が岸本首相に詰め寄るが、彼は儚い希望にすがるように告げた。
「物語にもよくあるだろう。正義の味方は絶体絶命のピンチに陥っても、奇跡が起こって復活するのだとな」
それを聞いて、官僚は何を言っているんだという顔になる。
「そ、それば都合のいいご都合主義の物語での話ですぞ。我々は現実に神々が地獄に送られるのを見てしまいました。とても奇跡が起こるとは考えられません」
「それでも、もしかしたら、神々が蘇って魔人類たちを倒してくれるかもしれん。その時のために、彼女たちは確保しておかねばならんのだ」
それを聞いていた官僚たちは、神頼みにすがる首相を見て、日本の終わりを確信してしまった。
「……ですが、そんなことをしている間に、日本が滅んでしまうかもしれません。地上の様子を見て下さい」
政府高官用のシェルターのモニターに、地上監視用に設置されたカメラが市民たちの様子を映し出す。
地上は大破滅が実際に起こる前から、すでに大混乱の様相を迎えていた。
「もう売るモノがないとはどういうことだ!金ならいくらでも払う。売ってくれ!」
「お願い。せめて子供のミルクだけでも!」
都市部では、多くの市民たちがスーパーや商業施設に押しかけている。神々の破滅を見た市民たちは、大破滅が来ることを確信してしまい、物資の確保に走った結果、瞬く間にモノ不足に陥ってしまったのだった。コメ10キロが三万円まで値上がりするなど、物価が十倍以上に暴騰し、あっという間に日本円の価値が下がってしまう。今まで豊かな生活を享受していた都市部の市民たちはたちまち困窮し、やがて暴徒と化して商業施設を襲っていた。
さらに、栄養状態が悪化したことが原因なのか、国民たちの間に風邪が流行り始める。
「ゴホゴホ………」
その風邪は咳をするたげの軽い症状のものだったが、だからこそ人々は平気で外を動き回り、結果として感染を拡大させる。
「もう病院はいっぱいです。よそに行ってください」
あっという間に医療崩壊が発生し、国民の間にさらなる不安が広がるのだった。
「あさましいものだな。一般庶民というものは」
「所詮は獣よ。我々のように常日頃から準備をしてないから困る事になるのだ」
そんな様子を、政府のシェルターに避難できた上級国民たちは嘲笑う。
彼らは平素からシェルター避難枠を維持するために一定額を政府に納め続けていた本物のセレブたちと、芸能人やプロ野球選手など有名人たちである。一般国民たちが困窮している中、自分たちだけはため込んだ物資と自衛隊の庇護による安全により平穏な生活を続けていた。
地上の混乱を見物していた、あるセレブの男が咳をする。
「こほこほ……」
「おや、井上さん。どうなされましたかな?」
友人の資産家に聞かれ、咳をした男、井上剛三はごまかすように゛既払いをする。
「こほん。いや、最近少し調子が悪くてね」
「そういえば、娘さんはどうなされたのですかな?姿が見えないようだが」
そう聞かれた剛三は、悲しそうな顔になって告げた。
「それが、魔人類に襲撃されて動けなくなってしまいましてね。屋敷に残してきているのですよ」
「そ、それはお気の毒に……」
「何、これも運命なのでしょう。大破滅が来て娘が死んでも、私さえいればいくらでも子供は作れます。シェルターには若い女もいるようですし」
剛三はそういって皮肉そうな視線を向ける。その先には、引きつった顔の東京69のメンバーをはじめとする芸能界の美女たちがいた。
剛三の言葉に、友人の資産家は鼻の下を伸ばす。
「そうですな……ははは,お嬢ちゃんたち、安心していいからねー。ここにいる上級国民たちを守るために自衛隊も配置されている。魔人類たちや、バカな一般庶民では、どうあがいても入ってこれないだろうからねー。ぐふふ」
いやらしそうな目を向けてくるおじさんに、東京69のメンバーたちは早くも後悔しつつあった。
(弓様についてここまできたけど、もしかして選択を間違えたかも)
そんな思いが脳裏をよぎるが、今更シェルターを出るわけにもいかない。
彼女たちは不安を感じながらも、流れに身をゆだねるしかないのだった。
そして数日後、異変が起き始める。
「ぐぅぁぁぁぁぁぁ」
咳をしていた剛三が、いきなり叫び声を上げ始めた。
「ど、どうなされた?」
上級国民たちが見守る中、どんどん剛三の身体が変わっていく。
「ぐらぁぁぁぁぁぁぁ」
あっというまに、全身が褐色の皮膚と、鋭い爪と牙を持つリザードマンに変わっていった。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!」
「い、井上君!その姿は?」
東京69のメンバーたちが叫び声をあげ、岸本首相が呼びかける。
リザーマンとなった剛三は、爬虫類の目で彼らを睨みつけ。
「ムスメはすでにマサシ様のシェルターにオクッタ。ワタクシは最後のツトメを果たす」
そうつぶやくと、首相に襲い掛かる。
彼だけではなく、このシェルターに入れた石田防衛庁長官や三越銀行の頭取も、みるみるうちに化け物に姿が変わっていった。
「マサシさまのメイレイだ……」
「二ホンセイフ……すべてコワス……」
正志により、大破滅が来たら怪物化して日本政府に止めを刺すようにソウルウイルスを調整されていた彼らは、いっせいにシェルター内部の上級国民たちに襲い掛かる。
たちまち政府内のシェルターは阿鼻叫喚の地獄へと変わった。
「ゆ、弓さまたち。なんとかしてください」
怪物化された者に襲われた上級国民が、次々と怪物化していくのを見た東京69のメンバーたちは、最後の希望である『高人類(タカビー)』にすがりつく。
しかし、弓たち三人は真っ青な顔をして首を振った。
「ダメなの……」
「どうしてですか!いつもみたいに聖なる光でびかーって照らせば……」
殺気だったメンバーに責められ、ついに告白してしまう。
「イザナミ様たちが封印されてから、「高人類(タカビー)」に変身できないんだよ」
美香は絶望した顔で言い放った。
「そんな……どうしてくれるんですか!今まであなたたちを信じて、こんなところまでついてきたんですよ!」
勝手に責任を押し付けてくるメンバーたちに、里子は告げた。
「知らないわよ!なんでもかんでも私たちに押し付けるんじゃないわよ!」
そういうと、里子は一目散に逃げだしていった、
続いて、弓と美香も出口に向かって走っていく。
「逃げた!」
「ひ、ひどい!」
東京69のメンバーたちも慌てて逃げ出そうとするが、気が付けば怪物化した大人たちに取り囲まれていた。
「た、助けてーーーーーーーお願いします、正志さま―!」
東京69のメンバーたちは、今更ながら正志に助けを求めるが、その声は誰にも届かない。
(こんなことなら、星美ちゃんみたいに悪魔教に入信していればよかった)
怪物たちに襲われながら、彼女たちの心によぎったのは深い後悔だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます