第51話 最後の審判ゲーム 最終章

数万人の魔人類たちに取り囲まれ、グラウンドにいた人間たちは恐怖に震える。

「ばかな……」

「あんなにたくさんの魔人類たちが……もう終わりだ……」

誰もが絶望を感じて立ち尽くす中、この式典に招かれていた日本政府の代表、岸本首相が、勇気を奮い起こしてレッドレンジャーに対話を呼びかけた。

「き、君が現在の魔人類たちのリーダーなのかね?」

「いかにも」

レットレンジャーは傲然と胸を張る。

「その。顔を見せてくれないか」

「いいとも」

レッドレンジャーがゆっくりと覆面を外す。

全国民が見守る中、現れた顔は、死んだはずの吾平正志だった。

「あ、あんた、生きていたの?」

「くくく。俺だけじゃないぞ」

正志が合図すると、周囲にいた「超人類」たちが一斉に覆面を外す。

彼らは『高人類(タカビー)』に倒されたはずの魔人類たちだった。

「ば、ばかな……あんたたちは確かに倒したはず」

「バカめ。俺たちは地球をバックにしている。魔人類を繁栄させるという使命を果たすまでは、復活が許されているのさ」

魔人類たちはそういって、弓たちを嘲笑った。

「ねえ、どんな気持ち?正義の味方気取りで常に勝利し続けていたのに、単に俺たちに踊らされていたピエロだったと知った気分は?お前たちにやられた魔人類なんて、ただの1人もいなかったんだよ」

ねえどんな気持ち?どんな気持ちと足をトントン踏み鳴らしながら、あっはっはと数万人の魔人類が笑い声をあげる。

弓たち三人は、屈辱のあまり全身をプルプルと振るわせていた。

そんな彼らを制して、正志が諭すように告げる。

「そもそもお前たちのやっていたことは、最初から無意味だったんだよ。大破滅を止める方策もせずに、俺たちと戦ってなんになる」

その言葉に、弓は真っ赤になって反論した。

「あ、あんたたちを倒せば、大破滅も止まるはず」

「それは無意味だといっただろう。大破滅を引き起こすのは俺ではなく地球自身なのだからな」

今度は憐れむような視線で見られてしまった。

「嘘」

「嘘じゃないさ。その証拠に世界中で俺と同じ地球から使命を受けた『魔人類(デモンズ)』の始祖が現れている。人種や民族、国籍に拘わらず救いの手を差し伸べるためにな」

アメリカのピーター、中国の沈余計、オーストラリアのジョンソン、ロシアのアレクセイ、欧州のバイエル、中東のシャヒール、アフリカのシシカカブーなどの名前をあげる。

「彼らを抑えるために、各地の『神々』も下僕を遣わせているようだが、どこもうまくいってないみたいだな」

欧州やアメリカでは「天使」、中国では「仙人」、東南アジアやアフリカでは「精霊」という「加護を与えられた僕」たちが奮闘していたが、日本と同様に軽くあしらわれていた。

東京ドームの巨大モニターに、複数の顔が映りだす。彼らは世界中で暴れている魔人類の始祖たちだった。

「ハーイ。マサシ。見せてもらったぜ。神々の始末、お見事だった」

金髪の軽薄そうな顔をした白人が、正志に親し気に声をかける。

「どういたしまして。どうだ。参考になっただろう。ピーター」

「ああ。さっそくお前が開発した『封神魔獄陣』を使わせてもらおう。神々を倒すためにな」

そういうと、各国の魔人族の始祖たちの姿はモニターから消えた。

「今までの襲撃で、我ら『魔人類(デモンズ)』の数は日本だけでも五万人を超える。世界中だと数十万人以上だ。もはや神や人類に対抗する術はない」

「いいえ。始祖であるあんたを倒せば」

なおもあがこうとする弓を、正志はバッサリ切り捨てた。

「バーカ。だからお前たち正義の味方は浅はかなんだよ。始祖である俺が『魔人類』の中で一番強い大魔王で、俺さえ倒せばすべてうまくいくとでも思ってるのか?やすっぽいゲーム脳にありがちな安易な妄想だな」

正志は無情にも、弓たちの考えを否定する。

「俺はあくまで『魔人類』の始祖というだけであり、その中で一番強いというわけてはない。というか、『魔人類』のすべてが俺とほぼ同じ能力をもっているんだ」

そういうと、正志に侍っていた魔人類たちが頷いた。

「たとえ正志さまが途中で滅ぼされても、俺たちはその意思を引き継いで人類の救済を続ける」

「そうだ。俺たち全員が正志さまの後継者なんだ」

他の数万人もの魔人類たちが同意する。大魔王正志と同じ能力を持つものが魔人類のデフォルトだと聞いて、さすがの弓たちも絶句してしまった。



「そ、そんな馬鹿な……嘘よ!嘘よ」

駄々っ子のようにつぶやく弓たちを憐れみの目でみると、正志は今度はテレビカメラに向きなおった。

「まあいい。今更『高人類』なんかに用はない。俺がわざわざ現れたのは、このテレビをみている国民たちに最後の警告をするためだ」

テレビカメラを真正面に見据えて告げる。テレビの前の視聴者たちは、まるで直接睨みつけられたかのように動けなくなってしまった。

「今ここで、大破滅の開始と、『最後の審判ゲーム 最終章』を宣言する。プレイヤーは全国民だ」

「ぜ、全国民とはどういうことだ?」

何事かぶつぶつつぶやいている弓に代わって、岸本総理大臣が聞く。

「言葉の通りだ。あともう少しで大破滅が始まり、すべての国民が巻き込まれる。それから逃れる術はない」

正志の声が、冷たく響き渡る。

「俺たちは今までさんざん『魂を売れ』と警告してきた。だが、お前たちは俺たちを悪だと罵り、俺たちが差し伸べた手を振り払ってきた。今更救いを求めても、もはや無条件には救われない」

「無条件には……では、何をすれば救われるのかね」

岸本首相が聞いてくる。その声には媚びるような響きが込められていた

「ここから先、救われるかどうかは、お前たちの運と態度次第ってところだな」

「運……?」

全国民の頭上に?マークが浮かぶ。

「簡単なことさ。大破滅の最中に、俺たち魔人類と運よく出会って認められ、救いの手をさしのべられるかどうかだ」

正志の言葉に、観客席の魔人類はうんうんと頷いた。

「俺たちは今から始まる大破滅に際し、最後の救いをもたらすために全国に散る。大破滅が始まったら、若者はいままで通っていた学校にたてこもれ。余裕があったら助けにいってやろう」

正志は傲慢に言い放つと、配下の魔人類たちに命令した。

「では、散会!」

魔人類たちが一斉に東京ドームから出ていく。それに紛れて正志の姿も見えなくなり、やがて東京ドームには弓たちと見捨てられた信奉者たちが残された。

「こ、これからどうなってしまうの……?」

なすすべもなく立ち尽くすだけの弓たちを見て、テレビをみていた国民たちは不安を感じるのだった。



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