大破滅編

第50話 神々の死

東京ドームを借り切って、盛大な「高人類オーディション」が行われようとしていた。

高人類になりたいという信奉者はグラウンドに集められ、そこで神々の祝福を受けることになる。

また、その神秘な儀式を見たいという希望者は、警察の審査を受けた上で抽選で選ばれて観客席に入ることができる。

グラウンドには巫女として弓たち三人と、彼女たちに選ばれた者数百名が集められていた。

その中には弓の幼馴染の吾平正人、澄美兄妹、そして東京69のメンバーもいる。

そのほかの者も、容姿の美しさに加えて学業やスポーツなども優れていると信じる自称「勝ち組」たちだった。

彼らを警備するために、警察特殊部隊『超人類(スーパーレンジャー)』たちも参加している。

魔人類たちの襲撃を避けるため、多くの集会を禁じられた日本国民にとっては、久々のビックイベントとなるのだった。


「グラウンドと祭壇の設営が終わりました」

『超人類(スーパーレンジャー)』のリーダー、レッドレンジャーが弓たちに報告に来る。

なぜか会場の設営や仕切りは、警察の特殊部隊である彼らが主体となって行っていた。

「ご苦労。あんたたちは邪魔だからさがっていなさい」

見下した態度で弓が告げる。なぜか彼女は、レッドレンジャーを名乗るこの男が嫌いだった。どこかで聞いたことがあるような不快な声だったからである。

「かしこまりました」

レッドレンジャーは覆面の下で含み笑いをしながらさがる。

弓たちは、気を取り直して祭壇に向かった。

「弓様。私たちを選んでくれてありがとうございます!」

「美香さま、魔人類なんかやっつけちゃいましょう」

「里子さま。なんでも命令してください」

弓たち三人は、全国に向けてテレビ放送されながら、『高人類(タカビー)』志望者たちの間を歩く。

彼らの歓声を浴びながら、弓たちは次第に気分が高揚してきた。

(そうよ。こうやって崇められるのが、『高人類(タカビー)』の始祖で神の使いである私たちにふさわしいわ。みんなもっと崇めなさい)

女王様になった気分で、祭壇までの花道を歩いていく。

しかし、なぜか観客席からは、皮肉そうな視線でみられていた。



最大に立った弓たち三人は、空を仰ぎ見て一心不乱に祈る。

「日本を守護する神々よ。今ここに現れたまえ」

「私たちの僕に神の恩寵を」

「お願いします」

彼女たちが祈り始めると、聖なるオーラがその体から立ち昇る。

それが天空に届いたとき、空から光輝く神々が降臨してきた。

「我はイザナギ。日本を守護する高天原の神なり。そなたたちの祈り、確かに我らに届いた」

髭を生やした偉そうな男神が、威厳のある声を響かせる。

「我が忠実なる信者たちよ。あなたたちの祈りに答え、女神イザナミの名において、「高人類(タカビー)」へと進化する力をさすけましょう」

男女二人の神々から、聖なる光が『高人類(タカビー)』候補へ降り注ぐ。

彼らが歓喜の声をあげた時ー。

「今だ!神々を捕らえよ!」

レッドレンジャーの声が響き渡り、会場を警備していた『超人類(スーパーレンジャー)』たちが一斉に銃を構えた。


「ジャスティスガン」

「超人類」たちの銃から、上空に現れた女神イザナミをはじめとする神々にむけてエネルギー波が放たれる。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ」

一斉砲撃を受けた神々は、ジャスティスガンからでる光の線に拘束された。

「な、なに?何がおこっているの?」

突然の意外過ぎる行動に、弓や候補者、政府関係者や報道していたマスコミたちがパニックになる。

そんな彼らを無視して、次は観客席にいた五万人の観客たちが一斉に動き始めた。

全員で肩を組み、マスゲームの要領で決められた位置に移動し、自分たちの身体で巨大な図形を描きあげる。それは上空から見ると、東京ドームのグラウンドを取り囲む魔方陣のようなものだった。

彼らの身体が光り輝き、魔方陣が輝きはじめる。

「みるがいい。これこそが、『あの世』と『現世』を繋ぐ『地獄門』だ」

中央のグラウンドの空間が裂け、巨大な門が現れる。ゆっくりと開いたその扉の中は、赤いマグマのようなもので満たされており、多くの人間たちがそこに墜ちてうごめていてた。

「『封神魔獄陣』」

『超人類』と観客たちが一斉に呪文を唱えると、拘束された神々がゆっくりと門に向かって落ちていく。

「ま、待って。お願い。まだ死にたくないの。私たちもあなた方『魔人類』に協力するわ。だから「地獄門(ヘルズゲート)」を閉じて!」

「そ、そうだ。我ら神々が味方すれば、お前たちの地上での覇権はきまった様なものだぞ!」

女神イザナミと男神イザナギが必死に命乞いをするが、レッドレンジャーは取り合わない。

「知るか。神を名乗る老害など、新しい世界では必要ない。何千年も霊体だけで現世にしがみついてきた旧き神々たちよ。自然の摂理に従い、地球意識の元に還るがいい」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

絶叫を残し、神々は地獄門の中に墜ちていくのだった。


魔方陣が消え、静寂が戻ってくる。

しかし、誰もが目の前で起きたことが理解できず。ただその場に立ち尽くしていた。

そんな中、真っ先に弓が我に返って、レッドレンジャーを糾弾する。

「あんた、何をやったのよ!」

「見た通りだ。神々を地獄に追放してやった。これでもう『高人類(タカビー)』は生み出せない」

レッドレンジャーは、薄笑いを浮かべて言い放った。

「あんた、自分がやったことわかっているの?神様に反逆したんだよ!」

怒り狂う弓を、まあまあと押しとどめる。

「まあまてよ。お前ら奴らを神々とあがめているが、その正体を知っているのか?奴らは元はといえば、ただの人間なんだぜ」

レッドレンジャーは、神々と呼ばれる存在の正体について語り始めた。

「「自我」を持つ現人類が生まれて、しばらくの間は自然のまま地球意識から生まれて現世の情報を収集し、死後にその情報を地球意識と同化して持ち帰るという輪廻転生のサイクルはうまくいっていた」

テレビを見ていた国民たちは、固唾をのんでレッドレンジャーの話を聞き入る。

「しかし、ある時、一部の人間がこう考えたのさ。「死んでも死にたくない。現世に残りたい」とな。あさましいことだ。ははは」

皮肉な笑い声が響き渡った。

「その者たちは、なんとか魂だけでも現世に留まりたいと考えた。そこで「宗教」を創る事で、自らを信仰させ、死後も信者たちの心に自分が残るようにした。そうすることで、現人類の集合意識の中に存在し続けられるようになる。それが神と言われる者たちだ」

レッドレンジャーは、神々の正体を全国民にたいして暴露するのだった。

「わかるか?神など所詮は人類の寄生虫なのさ。信仰する者がいなくなれば、存在しつづけることができなくなって、地球意識に飲み込まれてしまう。だから必死になって信者に信仰を強要していたのさ」

そこで言葉を切って、弓たちを皮肉な目で見る。

「だが、大破滅で多くの信者たちが滅びると、信仰の力がなくなって自分たちまで消滅してしまう。危機感を覚えた神々は、自らの僕である『高人類』を作り出すことで再び信仰を集め、大破滅を乗り越え生き残った人間の心に残ろうとしたのさ」

弓たちは、人類を救うために遣わされた正義の使者ではなく、ただ信仰を集めるためだけの客よせパンダだったことを指摘した、

「新しい世界に古い神々など必要なさい。さあ、祭りの始まりだ」

レッドレンジャーが合図すると、東京ドームの観客席にいる少年たちが黒い鎧をまとっていく。

あっという間に、グラウンドの弓たちは数万人の魔人類たちに取り囲まれてしまうのだった。


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