第49話 高人類(タカビー)オーディション
「荷物は何ももたなくていいぞ。どうせ体一つでシェルターに入るんだから」
史郎の言葉に従い、黄泉比良坂49のメンバーは目立たない格好に着替えて、寮を出ようとする。
しかし、その前に何者かの影が立ちふさがった。
「大胆だねぇ。アイドルに手をだすなんて」
腕を組んで仁王立ちしているのは、『高人類(タカビー)』の愛李美香だった。
傍らにはマネージャーもいて、史郎を怯えた目で見ている。
「み、美香さま。なんとかしてください。黄泉比良坂49には莫大な金をかけて売り出す予定なんです。メンバーをさらわれたら、会社が……」
「ふん。そんなの私には関係ないよ。『ホーリーショット』」
美香のステッキから放たれた聖なる光が、メンバーたちを襲う。かろうじて交わしたものの。壁には大穴が開いていた。
「何すんのよ!私たちを殺す気?」
「ふん。悪魔に魂を売った女なんていらないわよ。所詮は私のバックで踊っているだけの引き立て役だしね」
そういうと、美香は残酷な笑みを浮かべてステッキを突きつける。
(まずいな。このままじゃメンバーたちまで危険にさらすことになる)
そう思った史郎は、美香を煽って自分に憎しみを集中させようとした。
「そうかな。練習をみたかぎり、お前の方がお荷物だったけどな。歌もダンスも所詮ど素人のアイドル芸にすぎなかったよ」
事実を指摘されて、美香の顔が憤怒に染まる。
「ふざけんじゃないわよ。この変態オタクが!」
ステッキが自分に向けられるのを確認した瞬間、史郎は黄泉比良坂49たちに命令した。
「逃げろ!」
史郎の号令により、メンバーたちはすばやい動きで逃げ出していく。あっという間に練習所には、美香たち以外誰もいなくなった。
「はっはっは。メンバーがいなくなったら、君のアイドルデビューの夢も終わりだな」
「なにを!」
激昂した美香は、容赦なく聖なる光を放つ。
史郎は皮肉そうな笑みを浮かべながら、美香から放たれる光をまともに受けて消滅していった。
「あーっはっはっは。正義は勝つ」
気持ちよく高笑いする美香の傍らで、マネージャーは絶望してへたり込む。
「ああ……メンバーたちが逃げていった。会社にどう説明したらいいんだ……」
マネージャーはこれからのことを考え、頭を抱えて困り果てるのだった。
それから数時間後、どことも知れない山の中から、一つの繭が動き出す。
「ぷはっ。何回やっても慣れないな。殺されるのって」
山中の地中に自分の細胞からクローン培養した分身を残していた史郎は、新たな肉体にやどって活動を再開する。
「さーて。他のアイドルたちを勧誘にいくか」
史郎は次のハーレム要員を確保するために、夜の闇に消えていく。
次の日、黄泉比良坂49のメンバーが行方不明になったと報道され。大きな話題になるのだった。
魔人類による現代社会への襲撃は続き、ついに四回目を迎える。
それによって魔人類の数も増殖し、その数は5万人を超えるまでにいたった。
同時に悪魔教による信徒獲得も順調に進み、10万人がシェルターの中で眠りについている。
「よし。シェルターも完成したし、今までの襲撃で全国の800の大学、5000の高校、10000の中学の大部分を網羅することができた。ソウルウイルスによるワクチン接種も終了だな」
正志はシェルターに眠る繭の列を見て、満足の笑みを漏らす。
四回目の襲撃で、地方の過疎地にある学校を除いて、それなりの数の学生がいる学校のほとんどを征服することができていた。
その間、弓たち『高人類(タカビー)』たちはほとんどなすすべがなく手をこまねいいる。警察の特殊部隊のおかげで怪物化した生徒たちは元に戻すことができたが、魔人類たちの襲撃が収まる気配もなく、むしろどんどん規模が拡大することに社会不安が広がっていった。
さらに、日本中で『魔人類』による少女の誘拐が頻発し、行方不明者の数も十万人を超えた。
さすがに国内でも問題になり、その事態を止められなかった弓たちにも批判が集まってくる。
「弓様、どうして魔人類たちの襲撃はおさまらないんですか?大魔王である正志は死んだはずですよね?」
「私たちの子供はどこにいったの?返して!」
被害者や行方不明者の親たちからそう責められても、弓たちにはどうすることねできない」
「何よ!本来は警察とか政府とか仕事でしょ。私たちに押し付けないでよ」
マスコミがいないところでそう怒鳴って追い返すが、今の時代はSNS全盛である。たちまちその発言がネットにリークされて、さらに非難を浴びることになった。
「警察はよくやっているだろ。四回目の何千人にも及ぶ魔人類の襲撃を退けたのは、警察の特殊部隊『超人類(スーパーレンジャー)』だぞ」
「そうだ。弓たち『高人類(タカビー)』は威張っているだけで、結局何の役にもたたなかったぞ。神の使いなんて言っているけど、嘘なんじゃないか?」
最初はヒソヒソとしかささやかれてなかったそんな声が、魔人類たちの襲撃の激しさが増すにつれてどんどん大きくなっていく。
「それに最近、魔人類と闘っているのは「超人類(スーパーレンジャー)」ばかりで高人類は何をしているんだ。アイドル活動なんてやっている場合じゃないだろ」
そんな不満もでて、徐々に弓たち『高人類(タカビー)』の評判はどんどん落ちていった
「まずいわ。このままじゃみんなから見捨てられてしまう」
弓は、井上学園でクラスメイトたちから裏切られて孤立した時のことを思い出して恐怖する。もう二度とあんな思いはしたくなかった。
「でも、どうすればいいのかしら……」
考え込むが、解決案が思い浮かばない。他の美香と里子も不安そうな顔をしていた。
「え?倒したはずの魔人類が、生きているっ?」
「そうよ。あんたが倒したベルゼブブ田中が復活して襲って来たわよ。どうなっているの?」
里子はそういって、弓を責める。
「あー。私も超人類にやられたはずのメフィスト木本とやらと会ったよ。ま、一蹴してやったけどね。でも、あいつらってゴキブリみたいに次から次へと沸いてきて、私たちだけじゃ手が足りないよ」
美香も疲れた顔で、そうつぶやく。
「女神様に頼んでみようよ。もっと仲間を増やしてくださいって」
美香の提案に、弓は首を振る。
「何言っているのよ。私たちは特別に神に選ばれたエリートなのよ。仲間を増やすなんて……」
自分たちと同じ「高人類」を増やせば増やすほど、稀少性が薄まって人類の救世主としてもてはやされなくなる。弓はそんなことは嫌だった。
「でも、奴らは大勢いる。私たち3人だけで全員倒すのは無理があるのよ。少なくとも私はもううんざり。いつまでもあんな奴らと戦ってられないわ。やるならあんた一人でやれば?」
里子も、疲れ切った様子で、弓に冷たい目を向ける。魔人類の襲撃があるたびに全国を引っ張りまわされて、好きなこともできずにストレスが溜まっていた。
2人に見限られそうになり、弓はついに癇癪を起す。
「わかったわよ。女神さまにお願いすればいいんでしょ。もっと仲間をふやしてくださいって!」
そう怒鳴りつけると、弓は瞑想して女神イザナミにコンタクトをとった。
「たしかに、あなたたち三人だけでは手が足りないのも事実ですね。いいでしょう。『高人類(タカビー)』に進化したいと思う優れた人々を集めなさい。我々が力を授けましょう」
こうして、「高人類(タカビー)」を増やすための儀式の開催が決定される。
このことはマスコミやテレビを通じて、広く国民に周知された。
「なに?『高人類(タカビー)』オーディションだって?」
その応募条件は、若く、容姿端麗で、頭脳明晰でスポーツ万能であること。要するに「勝ち組」であることが掲げられていた。
「そういう人間じゃないと神の恩寵が受けられない……だって?うーん」
自分で自分は勝ち組だ、エリートだと億面もなく信じ込める人は、よほど傲慢で自分に自信があるか、または勘違いしたナルシストである。
『高人類(タカビー)』オーディションには、全国からそういう人間が集まってくるのだった。
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