第39話 山口麗奈
「それで、君は警視総監であるお父さんに話があってきたんでしょ?まず僕が先に聞くよ」
「わかった」
観念した正志は、この家に来たわけを話し始めた。
「つまり、僕みたいな家族を人質にとって、警視総監であるお父さんを脅そうってこと?」
「ま、まあ、そういうことだ」
「ふーん。まあいいけど、それで何を要求したいの?」
まったく恐れる様子もなく聞いてくる麗奈に、正志はつい正直に話してしまう。
「現在、警察は俺たち魔人類の襲撃犯への対処で手一杯だろ」
「うん」
「警察はバカなマスコミや国民向けに、このまま適当に奴らを相手をしてもらって、俺たちの真の目的には邪魔しないでもらいたいんだ」
それを聞いた麗奈は、首を傾げた。
「真の目的?」
「これから俺たちは、富士山の麓に地熱を利用した『シェルター』を作り、信徒になった若い女たちをそこに運び込んで大破滅をやり過ごそうと思う。その建設については、手を出さないでもらいたい」
正志はお茶を飲みながら語った。
「若い女たけ?男は救わないの?」
「救う男は『魔人類』に進化した奴と、信徒、つまり大破滅後の新世界で被支配階級になることを受け入れた奴らだけで充分だ」
そう冷たく言い放つ正志に、麗奈はちょっと呆れた目を向けた。
「勝手な話だねぇ。要は大破滅とやらで邪魔な男が死に絶えたあと、君たちだけでハーレム世界をつくるってことでしょう」
「否定はしない。だが、大破滅後に人類を復活させるためには仕方ない。男を一人救えばそいつだけしか救われないが、若い女を一人救えば未来にわたって何十人ものこれから生まれてくる人間を救うことになるんだ」
開き直る正志に、麗奈はちょっと笑ってしまった。
「ふふっ。正直だねぇ。まあ、僕も別に男なんてどうでもいいけどね。その理屈で言えば、僕も君のハーレム要員になれば救われるってことかい?」
「俺のハーレム要員になるかどうかはともかく、協力してくれるなら優先的に救ってやれるぞ」
そう言われて、麗奈は考え込む。
「……いいよ。正直大破滅とやらがくるかどうかわからないけど、保険はかけておきたいしね。君に協力してあげるよ。もし今の世界が続いたとしても、僕は警視総監のお嬢様なんだから逮捕されることはないだろうからね」
麗奈はぬけぬけとそう言い放った。
「ずいぶんしたたかな女だな」
「生き残りたいなら、コネと選択肢は多く残しておきたいしね。君みたいな今の時代ではテロリストとされる者が天下をとって、後の世で大英雄ともてはやされることも、歴史上ではよくあることだしね」
そういって、狡猾そうに笑うのだった。
警視庁
警視総監室では、がっしりとした体格の中年男性が、弓たち三人の『高人類(タカビー)』の前で身を縮めている。
「警察は何をやっているんですか?私たちばかり働かせて」
くたびれた顔をした椎名弓は、その男性を責め立てていた。
「本当に申し訳ありません。わたくしども警察も必死になって警備しているのですが、「魔人類」たちには対抗できず……あなたたちの力を借りるしか……」
その中年男性、警視総監の山口源五郎は、そういって深く頭を下げた。
「ほんと、警察って無能だよねー」
愛李美香は、そういって嘲笑った。
「私たちばかりに頼るだけじゃなくて、少しば自分でなんとかしようとする気にならないの?給料もらっているんでしょ?」。
日岡里子は、冷たい目を警視総監に向けた。
(我慢だ。治安維持のためには彼女たちの力が必要なのだ。機嫌をそこねて戦いを拒否されたら、日本の秩序が崩壊してしまう)
源五郎は、自分の半分の年もない小娘たちにバカにされても、じっと我慢して耐えている。
偉そうなおじさん相手にさんざんマウントをとって満足したのか、弓たち三人はニヤニヤして告げた。
「とにかく、何か対策を練ってくださいね。私たち三人だけで奴らと戦うのには限界がありますから」
「……はい」
源五郎は、警察による魔人類対策を約束させられてしまうのだった。
警視総監の自宅
「それじゃ、ソウルウイルスに感染させるぞ」
「どうぞ」
正志は麗奈に手を触れ、ウイルスを感染させる。麗奈の身体を制御できるようになった。
「面白ーい。相手の神経を操れるんだ」
正志からの電気信号により、勝手に動く自分の手を見て麗奈は面白がる
「それだけじゃないぞ。相手の『感覚』まで支配できる。例えば」
「あっ。暖かくなってきた」
麗奈の体温が勝手に上がっていく。体中がぽかぽかと気持ちのいい温度に包まれていった。
「これがあれば、エアコンいらずだね」
「そうだろう。他にもこんなこともできるぞ」
いたずらっぽい顔をした正志が指をはじくと、麗奈の身体に快感が走り抜けていく。
「あっ。ち、ちょっと」
「どうだ?性感を刺激してみたんだが。これがほんとの快感マッサージってやつたな」
正志の前で、麗奈の顔が真っ赤になっていく。
「は、恥ずかしいよ。何にもしてないのに体が熱くなって……はぁはぁ」
「な、なんか意外に見ているだけでも興奮するな」
調子にのって快感を強めると、ソファに座っている麗奈がモジモジし始めた。
「あんっ。気持ちいい。こんなの初めて」
「ほらほら、ここがいいのんか」
正志の鼻の下がいやらしく伸びた時、いきなり後頭部に衝撃が走った。
「い、いってえ!」
「貴様!何者だ!娘に何をしている!」
振り返ると、鬼瓦みたいに顔を真っ赤にしているがっしりとした体格の中年男性が立っていた
なぜか正志は、中年男の前で正座させられている。
「貴様、娘に手を出して、ただで済むとおもっているわけじゃないだろうな」
「えっと……」
何か言い訳しようとするが、言葉がでてこない。助けを求めるように麗奈を見つめると、彼女はニヤッと笑って泣きまねをした。
「お父さん。やめて。正志君は悪くないの。ボクに付け入られる隙があったから……しくしく。野良犬にかまれたと思って、わすれることにするよ」
「き、貴様ぁ!」
「ひっ。すいません」
娘を想う父親の迫力に押され、正志は思わず謝ってしまった。
「ゆるさん!この柔道五段、山口源五郎が、成敗してくれる!」
源五郎は、ものすごい勢いで掴みかかってくる
「って、謝っている場合じゃない。ソウルウイルス注入」
正志は襲ってくる源五郎をかわし、手を触れてウイルスを注入する。
動けなくなった源五郎はそれでも、恐ろしい顔をして正志を睨みつけていた。
「ぐぎぎぎぎ……貴様、ユルサン。コロシテヤル……」
ウイルスが全身に回り、源五郎の額から角が生え、鬼のような姿になってくる。
「やばい。怪物化が進んでしまった。くっ、落ち着け。ウイルス制御」
慌てて正志はウイルスを制御し、鎮静化を計るのだった。
しばらくして、元の人間の姿になった源五郎が、ソファに座って正志と相対している。
「大胆だな。警視総監である私を直接狙ってくるとは。しかも娘まで人質にとって。見下げ果てた卑怯者だ」
源五郎はそういって、正志を睨みつけた。
「まったくその通りだが、今の所お前たちは俺たち『魔人類』の敵だ。敵の大将の首を狙うのは当然だろう」
正志はそういって開き直る。
お互いにらみ合ったまま話が進まないので、間に麗奈が割って入った。
「まあまあ。お父さん。正志君の言い分も聞いてみようよ」
「麗奈……しかし……」
「お願い。そうしないとボクの身が……」
娘にうるうるした目で見つめられ、つい源五郎は屈した。
「……それで、話とはなんだ」
水を向けられて、正志は先ほど麗奈に向かってした話を繰り返す。
「我ら警察に、国民を欺けということか!」
「そうだ。バカな国民たちが弓たち正義の味方を無邪気に持てはやしている間に、我々は必要なシェルターを建設して、大破滅への準備をする」
ぬけぬけと言い放つ正志に、源五郎は苦悩する。
「……シェルターとやらは知らん。勝手に作るがいい。だが、これからもお前たちは若い学生を襲うのだろう。警察としては見過ごすわけにはいかん」
「そんなことをしている間に、大破滅が来てすべての国民が滅ぶぞ」
その言葉に、源五郎は大きく首を振った。
「そもそも、その大破滅とやらが胡散臭い。そんなものが本当に来るとは信じられない」
「……なら、お前にも見せてやろう」
正志が指をはじくと、空中に映像が浮かぶのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます