第38話 拷問
山内組の本屋敷の地下室には、捕らえた敵対組織の組員を拷問するための部屋がある。正志が来たのは、そのための拷問室だった。
「おーおー。理不尽に殺された奴らの恨みがこの部屋にこもっているぜ」
部屋の中に飾られている拷問道具を見て、正志は面白そうに笑う。ついてきた組員たちは、顔を引きつらせていた。
「こ、こんなところに連れてきて、どうするつもりだ」
「お前たちの中で一人生贄になってもらおうと思ってな。俺にさからったらこうなるという見せしめになってもらうためにな」
淡々と告げる正志に、組員たちは底知れない恐怖を感じた。
「さて、誰を生贄に選ぶかだが……」
正志がヤクザたちを見渡すと、彼らは一斉に首を振った。
「お、俺はただの護衛です。見逃してください」
必死になって頼み込む男の1人に、正志は冷たい視線を向ける。
「ふん。俺にはお前が今まで犯してきた悪行がわかるぞ。子どものころからのいじめ、暴行、レイプ。ヤクザになる前もなった後も、散々悪行をして好き放題生きてきたんだろう」
正志がそういうと、その男は小便をちびらせて命乞いをしてきた。
「こ、これからは心を改めます。見逃してください」
「心配するな。別にお前だけじゃなくて、ここにいる奴らはみな同じような屑ばかりだ。それに、お前みたいな小物より、よっぽどいけにえにふさわしい奴がいる」
正志はそういって、組長の辰見に視線を向けた。
「わ、ワシは組長だぞ。もしワシに手を出したら、全国の組員が……」
「はいはい。いいからそこの台に横になれ」
正志の命令によりむりやり体が動いて、辰見は自ら寝台の上に横になり、備え付けられているベルトで体を拘束した。
その寝台の上には鋼鉄製の車輪があり、その横には無数のとげがついている。
「や、やめてくれ……これだけは嫌だ」
「そういって命乞いする奴を、何人も殺してきたんだろう?」
正人がスイッチをいれると、上空のトゲがついた車輪が高速回転し始めた。
「これは野兎攻めという拷問だな。高速回転するトゲがついた車輪が降りてきて、体中の皮膚を切り刻んではぎ取るというものだな」
正志がそういう間も、車輪はゆっくりと降りてきて、辰見に迫る。
「や。やめてくれ!」
「お前、バブル時代に南青山の土地を買収する際に、元の所有者を殺しているだろ」
「そんな昔の話……」
本人もよく覚えていない昔の悪行を暴露され、辰見が動揺する。
「お前が南米から仕入れたドラッグのせいで、一万人ぐらいの若者が廃人になっているよな」
「……」
事実を指摘され、辰見は沈黙した。
「お前の部下が闇金しているよな。その中に親が自殺して借金が払えないからって、娘を繁華街に売り飛ばしたケースもある」
「そ、それは部下がしたことで、ワシには関係ない」
必死に弁解するも、正志には響かなかった。
「バカかてめえは。部下がしでかした悪行の責任もとらない程度の覚悟でヤクザの組長していたのか。本当に無責任なやつだな。部下の悪行のあがりでぜいたくな生活してたんだろ。なら部下の悪行の分まで報いを受けないと不公平だろうが」
ついに車輪が辰見の身体に達し、高速回転するトゲがその皮膚をはぎ取っていった。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ」
辰見は拷問台の上で絶叫する。血しぶきが舞い散り、見ていた男たちは失神しそうになった。
「今までの悪行を後悔しながら、地獄に墜ちろ」
その言葉と共に、山内組組長山内辰見はズタボロに切り刻まれながら死んでいった。
「いいか。見た通りだ、俺に逆らえば、たとえ誰であっても許さない。今のような拷問を受けて、死んでもらうことになる」
「は、はいっ」
組長が無残に殺されたことで、完全に心が折れた幹部たちは正志に絶対服従を誓った。
「お前たちに命令する。あらゆるコネを使って全国の建設会社に命令して、富士山麓の地下を掘らせろ。そこにシェルターを作るんでな。金はいくら使ってもいい」
「はいっ」
正志の奴隷となった山内組は、こうしてシェルター建設に従事することになった。
「さーて。次は警察だな」
気軽につぶやいて、警視庁に乗り込もうとする正志を、「支配班」の少年たちが慌てて止めた。
「なにもリーダーである正志さまが直接動かれなくても。俺たちに任せてくださいよ」
「そうはいっても、仮想世界『エデン』で何もせずに成果だけを待つってのも退屈だしな」
仲間たちの申し出に、正志は考え込む。
「まあいいか。警察に対しては、みんなで当たるとするか。作戦は……」
正志の作戦に従って、魔人類の支配班の少年たちは警察幹部への一斉襲撃を行うのだった。
正志は夜の闇に紛れて、警視総監の自宅の近くまてやってくる。
「よし。今頃他の連中も警察幹部の自宅に侵入しているころだろう。一気に制圧といこうか」
自宅前を警備していた警察官を襲い、ソウルウイルスを感染させて眠らせる。
「こんばんわ。お邪魔しますよ」
そう挨拶して、正志は自宅に入っていった。
「あなた、誰?」
警視総監の自宅に侵入すると、小柄な眼鏡美少女が出てきた。
「こんばんは。テロリストの『魔人類』ルシフィル吾平です」
死神マスクとまがまがしい鎧をまとった怪人の出現に、その少女は驚いた。
「え?嘘。マジで?警備していた警察の人は?」
「ああ、眠らせていますよ」
正志は外を指し示す。警備していた警察官はぐっすりと眠っていた。
(騒ぎ立てるようなら、こいつも眠らすか)
そう思って身構える正志に、その少女はあっさりと告げた。
「どうぞ」
「えっ?」
「何かお父さんに用があるんでしょ。中に入って待っていてよ」
そういって正志を招き入れようとする。
「あっ。それじゃお邪魔しますね」
正志は戸惑いながら、家の中に入っていった。
中に入った正志は応接室に案内され、お茶をふるまわれる。
「粗茶ですが、どうぞ」
「は、はい。それじゃいただきます」
正志は言われるまま、お茶をすする。応接室にまったりとした雰囲気が広がった。
「って、そうじゃなくて。あの、警視総監のお子さんで間違いないですよね」
「うん。私は警視総監の一人娘、山口麗奈だよ。よろしく」
玲奈は、そういってぺこりと頭を下げる。
「……なんか落ち着いているな。テロリストに自宅に侵入されたっていうのに」
「うーん。確かにちょっと怖いけど、それ以上にボクは君たちに興味があったんだ」
麗奈はキラキラした目で、死神マスクの正志を見つめる。
「それで、君の本当の名前は?そのマスクもとっちゃいなよ。ボク、逃げたりしないからさ」
ぐいぐいと迫ってくる麗奈に押されて、正志はマスクを脱ぐ。
「どうも『魔人類(デモンズ)』のリーダー、吾平正志です。はじめまして」
正志を見た麗奈は、喜んではしゃぎだした。
「うわー。本物の大魔王正志だ。やっぱ生きていたんだ。ラッキー!ねえねえ、私聞きたいこといっぱいあったんだ」
再び迫ってくる麗奈に、正志は閉口してしまった。
「俺が怖くないのか?」
「うーん。今まで君たちを見ていて、一つ気づいたことあるんだ。確かに君たちは残酷だけど、味方になった者に対しては優しいってね」
麗奈はパソコンをたちあげ、映像を映し出す。それはテレビ局前で、正志が飯塚香の足を生やし、治癒した場面だった。
「つまり、ボクが君の味方になれば、恐れる必要がなくなるってことだよ。違う?」
「……違わない」
正志は苦笑する。今まで出会ったことがないタイプの人間に、完全に毒気が抜かれていた。
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