テレビ局封鎖編
第23話 最後の審判ゲーム 第二章
ヘリコプターに乗り込む正志。
「お、おい、何勝手に入り込んでるんだ」
「いいから、マジテレビのテレビ局に向かえ」
高飛車に命令する。
「だ、だれが……ぐわ!」
パイロットの体に激痛が走る。
「この学校の上空に入った時点で、お前もソウルウイルスに感染しているんだよ。無駄に抵抗するな」
「わ。わかった」
ヘリコプターを発進させた。
下を見ると、生徒達が必死に学校から逃げ出している。
「哀れだな。ここで解放させたって、どうせ大破滅からは逃げられないのにな……」
正志が哀れむようにつぶやく。
「お、お前は一体何者なんだよ! 」
パイロットが話しかけてきた。
「新たな人類の祖となる男さ。いずれ地球は現人類の粛正に入り、この日本もすべて滅びる。必死に学校から逃げ出しているアイツらも、いずれ全員がそれに巻き込まれて死ぬだろうな……。たとえ大破滅が生き残ったとしても、確実な滅びが人類に与えられるからな。哀れなものだ」
独り言のようにつぶやく。その口調からは、どこか悲しみのようなものも感じられた。
「あんたが只者ではないということはわかった。けど、本当のことなのか」
パイロットが恐れつつ聞く。
「どうでもいいさ。どうせ殆どの人間が信じない。暴力を振るったりせず、救世主らしくもっと穏やかに教えを説いたり、奇跡を見せれば信じる奴も増えるだろうけど、そうなったら救いに群がる何億人を平等に救わなきゃならない状況に追い込まれるかもしれない。そんなこと、できるわけがない。今の現実にしがみつく一般人には信じられなくて、恐れられたり馬鹿にされているくらいがちょうどいいんだよ」
静かな口調で話す。
「……少なくとも、俺は頭ごなしに否定できない。俺も入信させてくれないか?」
「ダメだな」
正志はパイロットの入信を拒否する。
「な、なんでだ!少なくとも俺は信じているぞ」
「……残酷な事を言わせてもらえば、アンタは30を超えているだろ?」
「44歳だが、それがどうした」
「基本的には俺は若くて子供が産める人間しか救わない」
「そ、そんな!ひどいじゃないか!」
パイロットが憤る。
「ああ、俺はもともと酷い悪魔なんだよ。悪魔にならないと、最小限の人間すら救えないんだ。徹底的に効率を追求する。男で生き残るのは若くて新人類に進化できた者と、将来被支配者階級に落とされることを受け入れた者のみだ。女は若ければ誰でもいいんだけどな」
「そんな……」
「甘い事は言わない。それだけの数の人間を見捨てる恨みを背負う覚悟はとうに出来ているからな」
「……」
ヘリコプターの中に沈黙が降りる。
「……なあ、女は若ければ、誰でもいいのか?」
「ああ」
「……例えば、難病に冒されている者とか、大きな怪我をしている者とか」
「関係ないね」
正志は冷たく答える。
「なぜだ?」
「そんなものはいくらでも治せるし、そもそも「救い」に肉体は関係ないからだ」
正志がそういうと、パイロットは食いついてきた。
「治せるだって?」
「ああ。俺は人体のプログラムに干渉できる。あの女子アナの顔が崩れたのを見たろ。肉体なんてどうにでもなる」
「ああ。酷い事をするもんだ」
「うるさい。逆のこともできるんだよ。人体のプログラムにソウルウイルスを侵入させ、元の状態に戻るように設定すれば、どんな怪我や難病も治る。俺ら進化人のプロトタイプだった過去の何人かの救世主だってやってたことだ」
それを聞いて、パイロットは瞳を輝かせる。
「そうか……。なら、俺の娘を救ってくれ。以前交通事故に遭遇して、片足を吹き飛ばされて松葉杖をついているんだ。まだ14歳の可愛らしい女の子なんだ。救ってやりたい」
「無意味だ」
正志は冷たく断ってきた。
「なぜだ!」
「言ったろ。救いに肉体は関係ないって。そんなことをしても、どうせ大破滅で滅びるだけだ。娘を救いたかったら、魂を売らせろ」
にべもなく拒絶する正志に、パイロットは脅迫した。
「嫌だ。もし娘を救ってくれないのなら、ヘリコプターを墜落させる」
ヘリを上下に揺らして威嚇する。
さすがの正志も、これには対抗できなかった。
「てめえ……」
「娘が救えると聞いて、黙っていられるか。頼む。頼むよ!」
パイロットは必死に哀願してくる。
最初は怒っていた正志だったが、その声を聞いているうちに哀れになってきた。
「いいだろう。信じるものは救ってやる。敵に回るものは叩き潰すがな。着いたらすぐにテレビ局からでて、その子を連れて来い。全国放送の前で足を生やしてやるよ」
正志はパイロットの子供を救うことを約束した。
「頼む。その子の名前は飯塚香だ。すぐに連れてくる」
パイロットの言葉に正志は頷いた。
「見えてきました。アレが凶悪犯が乗っているヘリコプターです。あっ、高度を下げました」
マスコミが正志の乗ったヘリコプターを追跡している。
ヘリコプターはマジテレビの庭に降りた。
パイロットが真っ先に飛び降り、外に向かって走る。
「さて、ゆっくりとアピールするか。『フィールド設定』」
正志が呪文を唱えると、地面に光が走り、魔法陣が描かれる。
マジテレビの半径1キロメートルの人間にはソウルウイルスが注入された。
その時、 テレビ局の中は大騒ぎだった。
いきなり今まで報道していた犯罪者が正面から乗り込んできたのである。
「き、君は何をしにここに来たんだね?」
たちまちカメラに取り巻かれる正志に、有名な報道キャスターが問いただす。
「布教活動さ。そして新しい人質がアンタ達だ。ふふ、今まで人様を他人事みたいに報道していたけど、今度はあんた達が当事者だな」
「ふん。馬鹿な事を! いったいどんなヤラセなんだ。人の顔を変えることなんて、できる……わけ……なんだ?!」
ゆっくりとキャスターの首が伸びていく。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「どうだ?俺の力が嘘でもトリックでもないことを実感したかな?」
いきなりテレビの前で首が伸びた有名キャスターに、正志は冷たく告げる。
「し、信じる!信じるから、元に戻してくれ」
「有名人は辛いな。有名人に呪いをかけると、これを本当の事だと信じる人がどんどん増える。全国の国民に真実を知らせるための犠牲になってくれ」
「ば、ばかな……痛い!苦しい!この体を治してくれ」
泣き喚くキャスターに、周りの者が蜘蛛の子をちらすように逃げ出す。
「ふふ、逃げられんよ。この建物からは出られん」
その言葉の通り、玄関から外に出た者は激痛を感じ、あわてて引き返す。
「ま、ゆっくり話そうぜ。これから『最後の審判ゲーム。第二章』が始まるんだからな」
笑う正志。テレビ局にいる者たちは一転して自分達が報道される側になったことを知り、恐怖に震えた。
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