第21話 アナウンサー
屋上
正志は屋上で立ち尽くす彼らを一人ひとり確認する。
正志を暴行していた工藤啓馬、島田光利他7人。女子は椎名弓、日岡里子、愛李美香の3人だった。
他には別のクラスで重犯罪を犯していた者が5人。教師は岡田1人。
彼らは覚悟を決めたように、目をつぶって立っていた。
そんな彼らを正志は冷たく見つめていると、バタバタという音が聞こえてくる。
「おっ。来たな。これでお前たちもテレビに映るぞ。有名人になれてうれしいだろう。あっ、いまさらか!」
正志がなぶるように笑っても。彼らは反応しない。
しかし、わずかに希望を感じたのか、彼らは降りてくるヘリコプターを見て、わずかに表情を緩めるのだった。
屋上に着地するヘリコプター。屋上には人質の全員と、正志が立っていた。
まず恵が降りて正志に対時する。
「これはご苦労様です。女子アナウンサーの方ですか?」
妙に礼儀正しく話しかけてくる正志。
恵はどうみてもこの高校生が犯罪者とは思えなかった。
「は、はじめまして。私はマジテレビの、斉藤恵と申します」
律儀に自己紹介をする。
「これははじめまして。私は吾平正志。元この井上学園の生徒ですね。今は……そうですね。救世主とでも名乗りましょうか?」
にこやかに自己紹介をする。
その様子はテレビを通じて全国に伝わっていた。
「救世主……ですか?」
恵が首をかしげた時、ヘリから機動隊員が降りてくる。
「OK坊や。話したいことがあればおじちゃんたちが聞いてやろう」
すばやく恵と正志の間に入り込み、銃を突きつけた。
「困るな。邪魔しないでくれ。固まってろ」
正志の言葉を聞いた瞬間、隊員たちが硬直する。
「な、なんだ!」
「何が起こったんだ」
動揺して喚きちらす隊員たち。
「うるさいな~。しばらく黙っていろ!」
隊員たちは沈黙した。
「え、えっと。今のは……?」
「気にしないでください。救世主の力です」
「は、はあ……」
わけがわからないまま返事をする恵。
「で、何か聞きたいんじゃないですか?」
話を進ませる。
「そ、そうでした。あの、なぜこんな事をするんですか?生徒を閉じ込めて立てこもったりしていて」
恵が質問する。全国の人間が注目している中で、静かに答える正志。
「なに、布教活動ですよ」
「布教活動?」
恵はあまりに意外な言葉にあっけにとられた。
「あの、布教というと……?」
「そうですね……。大破滅を乗り越えるための宗教を広めるために、注目を浴びる必要がありました。だから今回みたいな事をしたんですよ。もっとも、個人的な復讐というのもついでにありましたけどね」
「復讐……ですか?」
「その点についてはネットをみてください。今となったらどうでもいいことですがね。その罰を今から与えましょう」
「……」
恵が絶句している間に、正志は人質たちに向き直る。
「お前たちはもう救いは与えられない。大破滅がくるその日まで、部屋にでもこもって震えているがいい」
正志が手を振ると、いきなり人質たちの顔の表面が熱くなった。
「熱い!!!!」
「なにこれ!!!!!!痛い、痛い!!」
転げまわって苦しむ。しばらくして、痛みは治まっていた。
「い、今のは何だったの……」
立ち上がった弓たちは、お互いの顔を見合わせて恐怖の声を上げる。
なんと、顔の皮膚がはがれて、筋肉組織がむき出しになった顔になっていた。
「な、なんだこれ!!!!!!!!!!!!」
「顔が!!!!!!!俺の顔が!!!!!!!!」
必死になって鏡やカメラで自分の顔をみて、化け物になってしまったことを嘆く。
「俺の前から消えろ!!!!」
正志に尻を蹴飛ばされ、人質たちは慌てて逃げ出していった。
その様子を、テレビ局のカメラがバッチリと捉えていた。
「か、彼女たちの顔の皮が剥がれています!一体何が起こっているのでしょうか?ああ……なんてこと……うぇっ」
恵は必死にキャスターとしての使命を果たそうとしていたが、こらえきれずに吐いてしまう。この時点での視聴率は80%を超えており、全国民がこの異様な事件に注目していた。
うずくまっている恵に呆れた目を向けると、正志は自らカメラの前に立つ。
「えっと、映っている?」
「あ、ああ」
カメラマンは動揺しつつも、職務を果たし続けていた。
「ならOK。えっと……どこまで話したっけ?」
「なぜ……なぜこんなことをするの!」
その時、ヒステリックな声が響き渡る。全国中継の中で吐くと言った醜態をさらした恵が、気が狂ったように正志を攻め立てていた。
「そうそう。その質問の途中でしたね。俺にはほかにも自分の仲間を見つけるという目的もありました。生徒達の中にも今の社会に不満をもつ者がいました。彼らにこれからくる現実を教え、私と同じ新人類に進化するよう勧誘したところ、皆快く受け入れてもらえました」
「そ、そうですか……」
恵がヒステリーを起こして話にならないので、カメラマンが返事をする。
「こうやって事件を起こすことで、ネットやテレビを通じて全国にメッセージを発信している。これで私と同じ存在になれる素質をもつ人間にアピールできたでしょう。だけど、まだまだ足りない。ということで……」
正志はそこで言葉を切り、いたずらっぽく笑う。
「では次の場所にいきましょうか」
そのままヘリコプターに乗り込もうとした。
「え?」
「まだこんなのじゃアピールが足りないから、もっと派手な事を今からします。あ、そうだ。忘れていた。あんたたちはどうする?まだ俺に銃を向けるのか?」
機動隊員に聞く。
「当たり前だ!」
「俺たちを自由にしろ!」
喚きちらす隊員たちに、正志は冷たい目を向ける。
「そうか。なら、ここで死んでくれ。お前たちの死は無駄にしないから。お前たちの死に様をみせれば、無駄な抵抗をして命を捨てようとする奴が減るだろう。お前たちの死は意味があるものになる」
「何を言って……」
「自分を撃て」
正志の言葉に反応して、銃口を自分の口にくわえる隊員たち。
「パン!」
軽快な音が屋上に響き渡る。
三人の隊員は自ら頭を撃ち、血が飛び散る。
『キャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
屋上には返り血を浴びた恵の絶叫が響き渡った。
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