第20話 タイムリミット

理沙の発言により、ネットの掲示板は荒れに荒れる。

「悪魔に魂を売った奴キターーーーーー」

「え?なんでこいつら喜んでいるの?魂を売ったら地獄で苦しむんじゃないの?」

「いや、彼らは本当に救われたんだよ。顔を見ればわかる」

ネット上ではさまざまな意見が飛び交う。

「あんな目をした奴知っている。カルト教団によくいるよ」

そんなあざ笑うような意見も出るが、同時に反論も行われる。

「だけど、もし大破滅が本当だったら?すくなくとも不思議な力を持っているぜ」

「やらせだよ。だけど面白いからアリだな」

誰もが好き勝手な意見を述べる。正志の犯罪に恐怖するもの、正志を憎むもの、悪魔だとののしり彼に帰依した理沙をカルト宗教にかぶれた愚か者と罵る。

しかし、彼らの中には確かに正志に救いを見た者もいた。

「俺も救われたい……」

「正志さん。かっこいい。俺もあんな力があったら……」

「俺だって毎日クズどもに苛められているんだ。あいつらに復讐できるなら、魂なんていくらでも売ってやるよ!」

正志の『布教活動』に啓蒙された者たちは、全国に現れ始めるのだった。


そして、タイムリミットの13時が迫る。

校長室で正志は当てが外れたような顔をしていた。

「結局『奴ら』は現れず、何もできなかったな。これだけ挑発してやったのに。しかたない。次の行動に移るか。正直、もう復讐なんかどうでもよくなってきたけど、最後までしなきゃな」

正志はつまらない顔をして、意識を校内に向ける。彼がいる校長室の前、1-Aの教室、パソコン室、他の教室や職員室では、最後に残った生徒や教師たちがそれぞれ思い思いに最後の審判の時を迎えようとしていた。


「でてこい!勝負だ!」

「糞人間!犯罪者!ナメクジ!」

「すまない!俺が悪かった!」

「魂を売るから!許して!」

「……」

この期に及んで正志に勝負を挑むもの。最後の負け惜しみを言うもの。土下座して謝罪するもの。いまさら魂を売るというもの。そして無気力に床に座り込んでいるもの。

実にさまざまだったが、彼らに共通しているのは絶望だった。

彼らの悪行カウンターはすでに数十万を超えていて、もはや手の施しようもない。

集まって騒ぐことで、心の平衡を保とうとしているのだった。

正志は彼らに思念波を送って命令する。

「最後の裁きの時だ。屋上に集まれ」

それを受け取った者たちは、叫び声をあげて逃げようとするが、全員のカラダに激痛が走る。ほどなく正志の命令に従って、屋上に集まるのだった。


校長室では、正志が警察と最後の交渉をしていた。

「……つまり、我々は何が起こっているか説明できないにしろ、この事件に君が深く関わっているということを判断せざるを得ない」

「はいはい」

どうでもよさそうな口調に木本刑事がいらつく。

「わかっているのか!!死んだ人間も何人もいるんだぞ。いい加減にしなさい!」

「何をいい加減にするんだい?」

「とぼけるな!君何をしているのかなど、後からじっくりと調べればいい。今から我々は、君を傷害殺人事件の犯人として取り扱う。異議があるなら出てきなさい」

勢い鋭く正志に言う。

「だって出ようとしても、俺も痛いし……」

「そのような芝居など通用しない。いったい何が目的だったんだ!?要求があるならいってみろ!」

木本刑事が要求を聞く。

「そうだな。ならテレビの記者をよんでくれよ。その辺に一杯飛んでいるヘリコプターに乗ってきてもらえたら、俺にインタビューさせてやるから。現に事件が起こっている最中に中継で犯人にインタビューするなんて、犯罪史上めったにないんじゃないのか?あ、それから寄越すのは綺麗な女子アナのねーちゃんで頼むわ」

わざと下種な口調で。笑いながら言う。

「貴様……」

「それをしてくれたら、インタビュー終了後に全員を解放するよ。ヘリは屋上に着地してくれ。それ以外じゃ侵入できないからな」

それきり電話を切る正志。

「さて、これでどうなるか……もしこれでもあいつらが出てこなかったら、第二ステージに移行するしかないな」

校長室のパソコンとテレビを悠々と見ながらこれからの事を思う正志だった。

「くそ!」

電話を叩きつける刑事。

「こうなったら……。おい!機動隊を呼べ。こっちは協力してくれるマスコミを当たる」

テキパキと指示をだす。命令を実行するべく準備が行なわれた。

「大丈夫ですか?危険ですので断られてもいいですよ」

「だ、大丈夫です」

膝が震えている女子アナウンサー、斉藤恵。入社二年目で泣かず飛ばずだったが、このチャンスをものにしようと自分から志願した。

「なに、我々がお守りしますよ。妙な力を使うようですが、所詮高校生。取り囲んで制圧すれば終わりです。その後でじっくりとインタビューをすればいい」

筋肉を誇示するように力を込めてみせる機動隊員たち。

ヘリコプターにはパイロット・カメラマン・恵・機動隊員3名の6人が乗っていた。

「そろそろ屋上に着地します。準備してください」

パイロットの言葉に銃を構える隊員たち。


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