ep23/25「紅き叛逆の使徒」

 眼下に広がる大地は、炎を通して見れば燃えているかのようだった。

 数万℃に達する灼熱のプラズマが機体を包み込み、全身至るところに傷を負ったエルンダーグが大気を切り裂いていく。


 死闘に次ぐ死闘を物語るのは、紅い装甲に刻まれた無数の弾痕であり、切り傷であり、更には全身に10本以上も突き刺さる大型ブレードだ。

 その両腕で締め上げているのは、それぞれに致命傷を負った2機の量産型巢襲機サーペント。圧潰寸前の灰天使もろとも、紅い魔神は重力に引かれて落ちていく。

 灼熱で輝き出す流星と肩を並べ、エルンダーグも数万tクラスの大質量隕石と化して地上を目指していった。


 大気圏再突入で激震するコックピットには、一週間に亘る戦闘を乗り越えて来た春季が収まっている。

 既に極度の疲労で手足は痺れ、薬物で保たれた意識も霞んで消えようとしている。眠りを貪る心地よさなど忘れ果て、終わりなき死線の連続で精神は削られ切っていた。


 ――――『ハル』


 その時、泥沼のように滞っていた思考が、唐突に澄み渡り始めた。

 薬物の覚醒作用ではない。ふと、誰かに呼ばれたような気がしたのだ。


 ――――『ハル……!!』


 聴こえるはずも無い叫びが、自分を呼んでいるような気がする。轟々と大気を裂く激震の中に聞こえた叫びは、直感めいた感覚を春季の中に呼び起こしていた。


「……あそこか」


 冬菜がいる場所は、外訪者アウターの思考チャンネルを介して不思議と分かる気がした。冬菜の叫びなら、たとえどんなに微かであっても聞き逃すつもりはない。

 もし、今でも待ってくれているのなら。

 もし、助けを呼んでいるのなら。

 もう恐れはしない。全人類から向けられた殺意を跳ね返してでも、そこに辿り着いてみせるのだ。

 冬菜を、この手で救いだす。その時の為に。


「フユ……!」


 春季に襲い掛かって来るのは、地面から噴き上がる鉄の豪雨だった。

 数万、あるいは数十万。全世界にある大口径電磁投射砲レールガンの全てが向けられていてもおかしくはない。本気でそう思えるほどの凄絶な弾幕が、豪雨のように魔神を包み込む。燃ゆる大地から撃ち出される砲弾の数々は、エルンダーグの周囲でレーザー迎撃に晒される度に爆ぜていった。

 そこへ、更に上空からの砲撃も加わり始める。

 漆黒の宇宙から降り注いでくる砲弾は、1000を超える人工隕石と化して光の尾を曳く。軌道上からの爆撃も始まったことで、エルンダーグは更に地上へと追い立てられていった。


 地上へ近づいて行けば、下から噴き上がって来る砲火の嵐も密度を増す。

 すると、エルンダーグが両腕に抱えていた量産型巢襲機サーペントの残骸は、みるみる内に泡立って行った。エルンダーグからのシステム侵蝕クラックに侵され、暴走した再生修復システムが瞬く間に残骸を再構成していく。

 膨れ上がる装甲は、いつしか肉を引き延ばしたような外套マントに変貌していた。

 大気圏の断熱圧縮効果で輝く光の衣、外套マントを纏ったエルンダーグは迎撃を止め、更に降下速度を増して大気圏を落下していった。その速度はもはや隕石の10倍以上。凄まじい衝撃波で後方数十kmに白いコーンを形作りながら、魔神が地表へと近づいていく。


 猛烈な勢いで落下する間にも、魔神は反撃の手を伸ばす。

 真っ赤に燃え上がるブレードを引きずり出すと、エルンダーグは自らに突き刺さっていたブレードを投げ上げた。2本、3本と、次々に撃ち出された大型タンカーがジェット戦闘機よりも速く飛翔する――――そんな馬鹿げたスケールで投げ付けられた大型ブレードたちは、全長100m以上の光矢と化して大気圏を遡っていく。


 十数秒後、虚空でパッと光が散った。

 数千tにも達する高層ビルの如き刃が大気圏を突破し、一気に衛星軌道まで打ち上げられたのだ。攻撃衛星に直撃したブレードが破片を撒き散らし、更なるデブリを生み出しては別の衛星を撃ち抜いていく。

 上空からの軌道爆撃の嵐が弱まったところで、エルンダーグは降下速度を緩めて行った。それでもなお、マッハ20を叩き出す隕石より遥かに速い。人が視認できないほどの超高速で落下していく機体は、そのまま地上に激突していた。


 束の間の無音、そして半径10kmにも達する火球が咲く。

 閃光に呑まれた地面は、山脈が生まれたかのように大きく波打っていく・・・・・・


 決して比喩では無い。エルンダーグが落着した地点には、小国がすっぽり収まるほどの巨大クレーターが口を開けていた。直径数十kmに亘って抉り取られたすり鉢、そこにあったはずの莫大な土砂は行き場を失い、高さ100mに達する土砂の津波を巻き起こしていたのだ。

 遅れて広がっていくのは、人の鼓膜など容易く破るほどの轟音。マグニチュード8以上の大地震で揺さぶられていく岩盤は、あらゆる地層を粉砕しながらもその激震を伝えていった。


 そして、蒸発した岩石が猛烈な乱流を引き起こし、天をも貫く勢いで高さ数kmにも達する土の柱を打ち立てる。ゆっくり、ゆっくりと崩れていく土の柱は、遠目から見れば唐突に生えて来た高層ビルのようにも見えた事だろう。

 国一つを飲み込んで余りあるキノコ雲が、雷鳴を轟かせながら立ち上っていった。


 それでも、爆心地たる紅い魔神エルンダーグは健在だった。

 轟々と降りしきる黒い雨に打たれ、灼熱で煙るクレーターの底。真っ黒に焦げ付き、灰と化していくマントが大波のようにひらめく。自らが穿った大地に佇むエルンダーグは、上空で煌めき出した光点に眼を向けていた。

 エルンダーグに向けて飛来するのは、数千発のICBM大陸間弾道弾、都市を壊滅させるほどの威力を秘めた数百万もの砲弾。一発一発が致命的な破壊力を秘めた光点の数々は、土砂で濁った雨空に浮かぶ星のようでもある。

 しかし、天を覆い尽くすのは、紛れもなく人類が向けて来る殺意の数々だった。


「迎撃システム、最大出力で起動」


 春季はコンソールパネルに指を滑らせると、トリガーボタンに込める力を強める。

 エルンダーグが脱ぎ捨てたのは、真っ赤に燃え散っていく外套マント

 ジェネレーターから絞り出された大電力は機体を駆け巡り、エルンダーグの全身に設けられたレーザー発振ユニットを目覚めさせる。計12000門、一斉にガキリと開いた保護シャッターの下には、莫大な電力を溜め込み始めた眼球状のレンズが並んでいる。

 全天から迫る砲撃の中心で、黒雨に濡れる魔神はカメラアイに光を宿していた。

 これから降り掛かって来るのは、旧世紀の核戦争にも匹敵する業火の嵐だ。

 それでも、春季は怯えない。


「今さら、こんなもので……ッ!」


 エルンダーグの全身が、暴力的な閃光に包まれる。すると、眼球じみたレンズからは、数万本というレーザーの嵐が撃ち出されていた。

 それは小山ほどもあるハリネズミが、光の針を突き出しているかのような光景だ。人が知覚できない間隔で明滅する閃光は、瞬く度に大気を貫いていく。

 空を埋めていた砲弾が蒸発し、あるいは切り裂かれ、千々の破片となって分解する。一面に降り注ぐのは熱鉄の雨。凄まじい核の炎が、赤い豪雨となって空一面を染め上げていた。


 ――――ふざけるな。


 怒りにも似た激情が、春季の身体を燃え上がらせる。

 チリチリと肌を焼くように浴びせられる、全人類からの殺意。その半端さ・・・に少年は怒る。業火に燃え滾る風景を映すモニターからの照り返しを受けながら、春季は唸るように吼えていた。


「こんなもので、止められると思うなアアァ……ッ!!」


 エルンダーグの巨躯からは、パルスレーザーの暴流が迸り続ける。

 見渡すほどの空を一斉に埋める誘爆の炎は、壮絶な炎と光の中に全てを包み込んでいた。大地には炎の大波が波打ち、死の光があらゆる生命を息絶えさせる。数千発にも及ぶ核の閃光は、一国にも匹敵する大地を焼き払って行った。


 エルンダーグの巨体もまた、数百万℃もの火球に呑み込まれていく。

 地平線から迫る土砂の津波と共に、何もかもを砕く衝撃波が襲い掛かって来る。

 遥か彼方の地平までもが跳ね上がり、見えない空気の壁がエルンダーグに叩き付けられた。透明な隕石が降り掛かって来るような衝撃に、装甲表面がドッと剥離していった。


 だが、魔神は倒れない。

 全身を焼かれようとも、砕かれようとも、膝を屈したりはしない。

 熱核弾頭程度・・・・・・で止まると思っているのなら、それは大きな間違いだ。


 地平線まで赤熱する溶鉱炉と化した大地に、地響きが轟き渡る。

 灼熱の大地から伸びる山のようなキノコ雲から、白煙を纏う身体が歩み出ようとしていた。鉄をも蒸発させる高熱で炙られたエルンダーグは、全身から燃え立つ炎で大気を透明に揺らめかせる。


 核の炎で焼かれてもなお、歩みは止まらない。

 炎の奥でカメラアイが輝いた途端、魔神はその場から消え去っていった。

 突然、大地から光柱が生えたかと思うと、辺り一帯を轟音が走り抜ける。エルンダーグが飛び立つ衝撃に大地までもが揺さぶられ、岩盤は猛烈な衝撃波に砕かれていった。


 次にエルンダーグが姿を現したのは、地上から遥か40kmの上空だ。

 眼下一面で煮えたぎる大地に侵された空、赤黒い光の中に魔神が影を落とす。

 瞬時にキノコ雲さえ弾けさせるほどの衝撃波で雲をかき消し、白煙を纏うエルンダーグは静かに佇んでいた。不自然なまでに澄み切った空を汚して、魔神は大気を焼きながら骨翼を広げる。


 遥か遠方の上空に浮かぶ白い点々を見据え、エルンダーグは武装を握っていた。その手には、50階ビルほどもあるような電磁投射砲レールガン、そして機体全高にも匹敵するほどの豪槍が構えられている。

 散らされたゴマのように上空に浮かぶ点は、一つ一つが量産型巢襲機サーペントだ。

 少なく見積もっても3000機。地球全土に配備されていた巢襲機は、今この時、オリジナルを食い止める為の決戦戦力として投入されようとしていた。


「進路上のやつだけでも!」


 骨翼を羽ばたかせた途端、エルンダーグが一直線の光となって大気を貫く。

 眼下に広がる景色は、煮えたぎる大地から青い海面へ。

 機体は音速の数百倍という速度を叩き出し、断熱圧縮された大気が太陽さながらに輝きだす。超高温のプラズマ球と化したエルンダーグは、自らの末裔たる灰天使の群れへと突っ込んでいった。


 超高温のプラズマを纏うエルンダーグは、真正面から敵の陣形へと切り込んでいく。猛烈な衝撃波で敵機を殴り付けながら、エルンダーグの姿は瞬く間に敵陣奥深くへと潜り込んでいた。

 有人機では有り得ないような減速、いきなり現れた魔神の爪が打ち下ろされると、その先では敵の一機が運動エネルギーの餌食となる。超音速の打撃で砕け散った量産型巢襲機サーペントは、灰色にくすんだ装甲を宙に散らしていった。

 突如として砕け散っていく灰天使は、9機、10機と瞬く間に数を増していく。

 3000機以上が群れる敵陣の只中でさえ、エルンダーグは止まらない。


 全幅300mもの翼を閃かせる魔神は、灰天使を足場にして空を駆け回っていた。

 両脚で踏み砕いた装甲を引き剥すやいなや、その手は電磁投射砲レールガンの一撃を敵に叩き込む。マッハ50もの速度で大気を割る衝撃波が、エルンダーグを追って敵陣を駆け抜ける。

 量産型とは次元の異なる機動性を発揮し、エルンダーグの得物は次々に敵を血祭りに上げて行った。暴れる狂う魔神は、わずか数秒足らずで40機以上もの灰天使を残骸と変えていた。

 3000機以上を誇る戦力でさえ、誰もエルンダーグを止められない。

 そして遂に、エルンダーグは全長150mもの槍を敵に突き立てていた。


「これで、消し飛ばす……!」


 パイルバンカー、射出インジェクション

 一瞬の内に撃ち出された鉄杭が、容赦なく敵機の装甲を抉る。串刺しにされた敵機は痙攣するように跳ねた後、噴き上がる閃光に引き裂かれて行った。

 新たな太陽が生まれた、と言うにはあまりにも鮮烈な光の暴威。

 敵の体内で起爆した対消滅弾頭は、たった一撃で小惑星すら吹き飛ばすほどの熱量を膨れ上がらせる。

 直径100km以上に達する火球が生まれれば、そこから降り注ぐのは放射線の雨。熱線が遥か数十km下の海さえも沸騰させ、眼下の海面は一気に水蒸気で白く染め上げられていた。


 対消滅弾頭の起爆で葬り去ったのは、およそ一割近くの量産型巢襲機サーペントだ。残る2000機以上から投げ付けられたブレードが、軍艦並の鉄塊として天から降り注ぎ始める。次々に空を割っていく、重量数千tに達する大型ブレードの雨。いかにエルンダーグといえども、高周波振動で山さえ切り裂くような白刃には触れられない。

 敵機もろとも灼熱の業火に焼かれたエルンダーグは、一気に雲海を裂いて海面へと突っ込んでいく。過熱水蒸気に装甲を焼かれながらも、エルンダーグは迫って来た海面に向けて一気にパルスレーザーを照射していた。


 レーザーに炙られた海面が白く膨れ上がると、一拍置いて海が弾ける。轟音で大気を震わせながら、火山さながらの水蒸気爆発が引き起こされていた。

 辺りには湖一つに匹敵する水塊が撒き散らされ、高温の霧は海面を覆い尽くしていった。エルンダーグを追っていた巢襲機サーペントの大軍も、たまらず紅い魔神の姿を見失う。


 わずか5分で太平洋を渡り切るほどの超高速で、魔神は戦域を離脱する。この地球上に、エルンダーグに追いつける機体など存在しない。

 時間稼ぎの僅かな間にも、エルンダーグは海面すれすれを突き進んでいく。

 地形を変えるほどの水蒸気爆発を背に、超低空飛行で飛翔するエルンダーグは大津波を引き起こしていった。通過跡では海面がこじ開けられ、高さ100mを超えるような大津波が一瞬で立ち上っていく。

 立ち上がるのは一瞬だが、波が崩れるのは非常に遅い。遠目から見れば固まっているかのような水の壁は、1分以上をかけて海面を平らに埋めていった。


 背後に大津波を引き連れるエルンダーグ、その前方には徐々に障害が見え始める。

 水平線の彼方から徐々に表れて来たのは、街だった――――否、海面を埋め尽くすほどの大艦隊だった。まるで一つの大海に浮かぶ軍艦が全て集結しているような、数えるのも馬鹿馬鹿しい数の軍艦が、大艦隊を成してエルンダーグの前に立ちはだかっている。

 そして、艦隊は姿を現す前にミサイルを撃ち放っていた。

 絹糸のような煙を曳いて撃ち出されるのは、数千発にも及ぶ対艦ミサイルの豪雨。音速の10倍以上で向かってくる弾頭の全てには、熱核弾頭が収められているに違いなかった。


「当たるかよ……ッ!」


 エルンダーグが進む先は、ミサイルの白煙とブースター炎に埋め尽くされている。

 それを見るやいなや、エルンダーグは光線と化して数十kmの距離を駆け上がっていた。一斉に数千発と迫っていたミサイル全てを振り切れば、眼下に見えるのは大艦隊の俯瞰図だ。エルンダーグを追って来られたものは、何一つ見当らない。

 鳥さえ見当らない青空に、全高150mの紅い大烏が風を裂いて漂う。敵の鈍さをあざ笑うかのように、魔神は静かな高空でゆっくりと自由落下を始める。

 そして、背の骨翼が羽ばたいた途端、機体は再びマッハ数百もの速度で海面へと向かって行った。


 天から降り注いだ矢の如く、海面へと突き刺さる一筋の光線。

 隕石落下をも凌駕する衝撃に晒された海は、数百mの高さまで盛り上がって壁となる。エルンダーグがただ低空飛行していた時とは比べ物にならない、破滅的な大津波。海面に生まれた山脈は、全長1km近い空母すら小舟のように揺さぶっていく。

 灼熱の蒸気を噴出するエルンダーグの周りでは、津波が艦隊の全てを呑み込んでいった。


 それでも数十秒後には、海面に渦を巻いて数々の艦艇が浮かび上がって来る。

 エルンダーグは浮き上がって来たばかりの超弩級装甲空母に飛び移ると、その全長1kmを超える鉄クジラのような巨躯を踏み締めていた。

 悲鳴にも似た金属音を轟かせながら、魔神は突き立てた鋼爪で易々と装甲を引き裂いていく。

 そして、沈み始めた艦体を力ずくで引き揚げると、エルンダーグは辺りを覆う霧の中へと艦体を投げ飛ばしていた。

 傍目から見れば、ゆっくりとした速度で落下していくように見える1km越えの空母。しかし、空中で断末魔じみた軋み音を上げる艦体は、実際には超音速の勢いで海面に叩き付けられていた。


 小山一つが落下するような激震で、海面には高々と水柱が立ち上っていく。

 エルンダーグは、鉄柱を振るっては軍艦を叩き潰し、ブリッツバスターを撃ち込んでは装甲に大穴を開けていく。魔神の一撃が艦艇を沈める度、その過剰なエネルギーは高さ数百mもの水柱を生やして行った。

 一つの水柱が掻き消えてしまわない内に、また一つの柱が立ち上る。海面に生えていくビル街のような水柱が、破滅的な運動エネルギーで徐々に崩れ去っていく。

 鬼神と化したエルンダーグを止められる者は、もはやいない。質量の暴力で艦隊を蹂躙していったエルンダーグは、止めとばかりにパルスレーザーを撃ち込んでその場を去る。大規模な水蒸気爆発に呑まれて行った艦隊は、大部分が木っ端微塵の鉄塊と化していった。


 もはや大艦隊が展開していた海域には、分厚い灼熱の蒸気が漂うだけだ。瞬く間に戦闘海域を抜けたエルンダーグは、海岸線を抜け、眼下に山脈が突き出す大地へ。

 エルンダーグの機体前方では、断熱圧縮された大気が数万℃もの超高温で輝いている。

 その強烈な熱輻射だけで、土は焼き固められ、都市残骸も真っ赤に焼けただれていく。

 通過した森林は一斉にパッと燃え立ち、エルンダーグが通過した直後に一瞬で鎮火されていた。衝撃波で木っ端微塵にされた木片は、荒れ狂う火粉の雪崩となって辺りを飲み込んでいく。


「あと、少し……!」


 遠くへ、ただひたすらに冬菜の元へ。

 通り過ぎた地をことごとく業火に沈めながら、魔神はそれでも突き進む。

 灼熱する一陣の暴風となって、エルンダーグは低空を駆け抜けていく。


 そして遂に、春季の紫瞳は目的地を捉えようとしていた。


「――――見えた……ッ!」


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