ep18/25「羽撃くは烏羽」

 か細い星々の光を背景に、レイヴンは骨格標本じみた翼を広げていく。左右に一対、背から突き出しているらしい黒翼は、烏というよりもむしろ蝙蝠に近い形状だった。

 空気の無い宇宙では、羽ばたいたところで飛べはしない。

 それにも関わらず、レイヴンは幅300m以上にも達する翼をゆっくりとたわませていくや、唐突に振り下ろした。さながら怪鳥の羽撃はばたき。大気中なら街の一つや二つを吹き飛ばしかねない勢いで、双翼は真空の海へと力強く叩き付けられる。

 直後、羽撃きに押し出されたかのように、レイヴンはその場から消え去っていた・・・・・・・


「消えた!?」


 春季は思わず目を疑うと、全身にドッと汗が噴き出すのを感じた。

 すぐさま敵影をレーダー円に捉え直すものの、レイヴンが真空中を駆け回っていく速度は尋常ではない。およそ光速の0.1%、僅か2分足らずで地球を1周できる程の超高速を叩き出しながら、遥か遠方の宙域に白い尾を描いていた。右へ、左へ、稲妻のような軌跡が暗闇を貫いていく。


「この加速力、アローヘッド以上かよ……!」


 一瞬、消え去ったと錯覚してしまう程の加速力で、レイヴンは鋭角的な蛇行を続ける。だが、次の瞬間には方向転換。スラスターから噴き出す白光を背に、エルンダーグへ向けて真っ直ぐ迫って来ていた。

 一度、光門ゲートを通過してしまえば、数十年単位で時間が経過してしまう。その間に息を吹き返していたレイヴンは、自らを修復していたに違いなかった。ただ、エルンダーグを迎え撃つ為に研がれ続けた刃は、今こうして突き立てられようとしている。

 春季は殺意という名の刃をはね退けるように、亡者たる敵を睨みつけていた。


「今度こそ、殺す……!」


 装甲の各所に外訪者アウターの肉片を纏うエルンダーグ、背に骨格標本じみた翼を広げるレイヴン。40年近くもの隔絶を経て相対した二機は、それぞれに変質した姿を見せ付けている。

 まずはブリッツバスターからの砲撃が、両者を繋ごうとしていた。


 エルンダーグが構えた長砲身は虚空へと向けられ、2t近い鉄塊を高速で撃ち出す。音速の50倍以上、超音速で撃ち出された砲弾は、突っ込んで来るレイヴンから見れば更に速い。

 しかし、敵の運動性は、以前にも増して凄まじかった。骨ばった翼が振り下ろされると、レイヴンは徹甲弾が貫くはずだった空間から消え去る。

 たったそれだけで、春季はレイヴンの姿を見失っていた。

 視界にパッと光が瞬いたかと思えば、次の瞬間には、全く違う場所で白光が咲いていく。瞬間移動にも思えるほどの機動を繰り返し、レイヴンはこちらの照準速度を遥かに超える速さで移動し続ける。


「いくらなんでも! こいつ、速過ぎる……っ!」


 エルンダーグでさえも、まるでついていけない。ゾッとするような機動性に背筋を凍らせながら、春季はそれでもトリガーボタンを押し込んでいた。

 しかし、次々に視界で生まれていく白光の中に、微かな発光が混じり始める。それに気付いた春季は、操縦桿を握り締めるとトリガーボタンから指を離した。弾かれたように蹴り込まれたフットペダルからは、エルンダーグの推進器へと向けて鞭が飛ぶ。

 直後の急加速、4本の光柱に押されて離脱したエルンダーグの背後を、次々に無数の砲弾が切り刻んでいった。ブリッツバスターさながらの巨砲を構えるレイヴンが、激しい機動の最中に撃ち返して来たのだ。


 エルンダーグとレイヴン、互いに弩級のレールガンを携える機体が砲撃を繰り返す。火線が真空を走っていくと、宇宙の黒幕には微光が咲いていく。だが、両者共に被弾の失態を晒すことはなく、数tクラスの鉄塊が無音の内に彼方へ消えて行った。

 もはやぬるい砲撃では埒が明かない。二機は研ぎ澄まされた牽制射を避けながらも、互いに自然と距離を詰めていた。


 まるでこの広大な空間が縮んだかに思えるほど、両機の距離は簡単に詰まっていく。勿論、レイヴンの方が桁違いに速い。それに比べれば止まっているにも等しいエルンダーグは、精一杯の加速で突進をかけようとしていた。その手には、全長150mにも達する超重量の鉄柱。莫大なトルクを溜め込んでギリギリと震え出す豪腕が、今や遅しと打撃インパクトの時を待ちかねている。

 およそ3秒後、その時はやって来た。


 ――――今だ。


 春季は機械仕掛けの素早さで、すれ違うレイヴンの姿を捉える。

 絶好のタイミングで解放されたトルクは、目にも留まらぬ速さでビルのような鉄塊を振り抜く。漆黒の装甲を叩き割ろうと迫る鉄柱は、前方から迫るレイヴンへと吸い込まれて行った。

 渾身の打撃インパクト。しかし、紙を裂くほどの手応えも感じられない。

 空振りだ。それどころか、黒翼を広げるレイヴンに懐へと飛び込まれていた。刹那、わずか100m足らずの至近距離で、生死を懸けた緊張の糸が一気に張り詰める。黒い装甲に包まれたレイヴンの巨躯は、目と鼻の先で艶めいていた。


「そう来ると、思ったから……ッ!」


 エルンダーグは電撃のような速さで巨砲を抜くと、狙いも付けないままに乱射。不意討ちとばかりに構えていたブリッツバスターが次々に火を噴き、秒間5発以上もの高速で徹甲弾が撃ち出されていった。

 真空を裂く鉄塊の群れは、どれもレイヴンを掠りもせずに無駄弾と化していく。

 だが、腕を伸ばせば届きそうなほどの至近で、懐に迫っていたレイヴンはこれを避けざるを得ない。身を翻して弾頭を避けていくレイヴンの姿は、ひらひらと舞う木の葉のように眼前を漂っていた。


「このまま……ッ!」


 春季はフットペダルを蹴り込むと、操縦桿のトリガーボタンに指をかける。

 俊敏に巨腕を振るうエルンダーグは、全長150mもの豪槍を真正面に構えていた。突撃開始、パイルの尖端に莫大な運動エネルギーを乗せ、火矢と化したエルンダーグがレイヴンに突っ込んでいく。


 あまりに直線的な攻撃では、到底レイヴンに届かない。そんな事は分かっているとばかりに、春季の指がトリガーボタンを弾いた。

 機体全体をガクンと揺さぶりながら、パイルバンカーに潜んでいた鉄杭は瞬時に射出。一気に長さ70mにも亘って突き出された杭は、誘い込むように待ち受けていたレイヴンを捉える。一瞬で間合いを貫いたパイルは、黒い装甲へと僅かに突き刺さっていた。

 しかし、あまりにも浅い。僅かに1mほど食い込む杭の尖端は、触れているかどうかという有様で射出され切っている。仕留められるはずが無かった。


「……逃した!」


 浅く突き刺さっただけの杭は、身を翻したレイヴンを浅く引っ掻いていく。たったそれだけの光景を見届けた後に、春季は身体が砕かれるような激震に放り込まれていた。

 シートベルトにへし折られた骨が内臓へと突き刺さり、腹の皮一枚隔てた体内では血管が断裂する。粘着質に弾けて行った内臓は、半ば骨交じりのゼリーと化そうとしていた。敵からの不意討ちで与えられた激烈な加速度は、ただの一撃ですら春季の意識を刈り取っていく。


 急速に薄まる意識の中で、春季はようやくレイヴンに殴り飛ばされたのだと気付いた。

 血で真っ赤に染まるレッドアウト視界に映るのは、レイヴンがこちらへ真っ直ぐに構える巨砲だ。ぽっかりと口を開ける砲口の奥には、今にも弾き出されんとする鉄塊が潜む。今すぐ撃ち抜かれてもおかしくない。しかし、吹き飛ばされた機体は動かない。


 奇妙に減速した体感時間に呑まれながら、春季は思わず死神たるレイヴンの姿に目を奪われる。やはり何度見ても黒いエルンダーグ・・・・・・・・としか思えないレイヴンの姿を前に、次の瞬間、春季はハッと息を呑んでいた。

 どうして今まで気付かなかったのか。

 外訪者アウター核が時を超えて来たのなら、他に巻き込まれたものがあってもおかしくない。その時の地球にあった文明、人類。外訪者アウター核と化した少女が呑んだ世界の中に、彼女を救おうとした少年がいたとしても不思議ではない。

 レイヴンもまた、外訪者アウター核と同じ存在ではないのか。一旦その可能性に気付いてしまえば、あまりの戦慄に背筋が凍った。


 あの中に乗っているのは、外訪者アウター核の記憶の中で見た春季自身・・・・だ。


 冬菜を救うために魔神へと身を捧げ、全てを差し出したもう一人の春季。

 しかし、狂気と孤独の果てに辿り着いた地球が、既に外訪者アウター核と化していたのだとしたら。既に冬菜が破滅していたのだとしたら。無二の幼馴染を救えなかったという後悔の中、エルンダーグを駆っていた少年は、自らに死ぬことさえ許さずにこの虚空を漂って来たに違いなかった。


 幾つもの文明が興亡を繰り返し、太陽が生まれては散華していくほどの果てしない時間。そこで死の平穏すら拒否し、いつしか自らも怪物と化していったエルンダーグ。それがレイヴン。

 機体に乗っていたはずの少年は、永劫の時をただ一人に捧げる為に戦い続けて来たのかも知れない。そのあまりに重い宿業を思えば、春季は何も言えなくなる。心臓を鷲掴みにされるような思いに、我知らず視界が滲んでいた。


「そうか……そういう事だったんだな……」


 あまりにも違い過ぎる。このままでは絶対に勝てない。

 そう確信する春季は、ごく明快な事実を悟っていた。

 人でさえ無くなった敵を倒す為なら、もう人のままではいられない。


 ――――力を。


 外訪者アウター側にチャンネルが合ってしまったことで、自然と使い方・・・は分かっていた。この魔神の身体を生贄にすれば、あの大烏レイヴンに手が届く。そう理解した春季は、魔神を縛っていた枷を解き放つかのように祈る。


 ――――あの大烏レイヴンと同じ、力を。


 退路なき破滅への契約が結ばれた、その瞬間だった。

 千切れた肉片を纏うエルンダーグの全身が、ドクンと脈打つように揺らめく。

 僅かに蠢き始めた肉片が、エルンダーグの装甲と溶け合うように一体化を始める。ぼこぼこと泡立つように膨らんでは、紅い装甲へと溶け込んでいく外訪者アウターの肉片。それがエルンダーグというマシンの境界を、確実に侵していこうとしていた。

 レイヴンを仕留める為なら、外訪者アウターの力に侵されても構いはしないと。

 遂に一線を越えたエルンダーグが、無音の内に咆哮する。


 巨砲を構えていたレイヴンから、隕石にも等しい鉄塊が撃ち出される。容赦なく止めを刺すように撃ち込まれた砲弾は、殆ど一瞬の内にエルンダーグを撃ち砕こうと迫っていた。

 しかし、エルンダーグは爆発的な加速を見せると、逆に突っ込んでいく

 マッハ数十にも達する豪速の砲弾を擦過させながら、盛大な火花を散らすエルンダーグは更に加速する。


 寸前で徹甲弾を回避したエルンダーグは、その全身に得体の知れない力を溜め込み始めていた。遂に目を覚ました外訪者アウターの肉を沸き立たせ、魔神が翡翠色の眼をギラリと燃え滾らせる。

 残光を曳くエルンダーグは、流星さながらの超高速でレイヴンへ突っ込む。猛進する機体の勢いに圧されるようにして、レイヴンは突進を避けていた。


「もっと……もっと、速く!」


 唸るように叫ぶ春季が、御し切れない怪物へと変貌していく機体に喰らい付く。

 対消滅エンジンの出力を引きずり出して、エルンダーグはより苛烈な機動で鋭角的に旋回する。瞬間的に数百Gにも及ぶ負荷が機体を苛むものの、轟々と焚かれたスラスター炎はエルンダーグを一気に音速の100倍以上にまで加速させていた。

 壮絶なターンを行ったばかりの春季は、しかし、吐血する程度で済んだ身を更なる加速度で押し潰していく。エルンダーグは、一層過激な機動性を以てレイヴンに突っ込んでいった。


 外訪者アウターとエルンダーグ、一体何が違うのか。

 もう、何も違いはしない。 


 自らを機体の1パーツに貶めてまで、自分は本当に人間と言えるのか。

 もう、人間ですらいられない。


 それでも辿り着きたい場所がある。会いたい人がいる。

 たったそれだけの願いを叶える為に、春季は全身全霊で吼える。人間としての尊厳も、正気さえも、何もかもを投げ打って、冬菜の下へ向かおうと足掻き続ける。もはや叶えられない約束を胸に、怪物に身を墜とし行く修羅の姿がそこにはあった。

 たとえどんな姿になり果てようとも、その魂だけは一つの想いに燃えていた。


 ――――フユのところへ。


 設計性能カタログスペックをも凌駕する勢いで、エルンダーグはレイヴンを追い上げる。外訪者アウターに自らの身を喰わせ、人ならざる者への変異を加速させながら、なおも力を求める魔神。その胎内に収まる春季は、徐々にレイヴンの姿を捉え始めていた。

 レイヴンの機動がスローダウンしたかのように、動きが見える。

 薬物で猛った精神が、猛禽類さながらの捕食者と化した春季を駆り立てる。彼はもはや別次元に達しようとしているエルンダーグの機動性に、一つの確信を得ようとしていた。


「いける!」


 驀進するエルンダーグが、手にしたパイルバンカーで真空を薙ぎ払う。

 打撃インパクト。レイヴンからの砲撃を鉄柱で弾き飛ばすと、炸裂した火花の雨が装甲に浴びせられる。もはや常人では有り得ない次元で、春季は超高速で襲い掛かって来る徹甲弾をいなしていた。

 ライフル弾を金属バットで弾き返すよりも、なお困難なはずの迎撃。それをさも当たり前のように繰り出すエルンダーグは、鋭角的なドッグファイトの末にレイヴンへ肉薄する。


 エルンダーグとレイヴン、両者の機動が交わった瞬間に火花が散る。エルンダーグが超音速で突き出した右腕の突きは避けられ、代わりにレイヴンが反撃に転じようとしていた。

 レイヴンが振りかぶるのは左爪、五隻の軍艦を並べたような攻撃が一気に振り下ろされる。

 それは、春季の耳元に聞き慣れた声が囁かれるのと、ほぼ同じタイミングだった。


『今さら、何のために帰るんだよ』


 他ならぬあいつ・・・の声だった。

 咄嗟に身体を強張らせた春季は、自らが心の奥底に封じた思いの吐露に、グッと唇を噛み締める。直後にコックピットを激震が襲い、骨をも砕くような轟音で何も聞こえなくなる。それでも、春季は操縦桿を押し込みつつ、精一杯に叫び返していた。


「フユの、ために!」

『もう助からない』


 どこまでも冷徹な事実が、灼熱する春季の心を刺して来る。

 血を吐くような叫びを交わしながら、エルンダーグはレイヴンに拳を叩き付けていた。超音速で飛翔する拳は、瞬きする間もなく漆黒の装甲を打ち据える。


「そんなこと分かってる! でも、あんな場所にたった一人で……!」

『助からないと分かっていて、どうして!』


 慟哭にも似た叫び。絶望に呑まれかけたその悲鳴は、春季自身の想いでもあった。

 だからこそ、認める訳にはいかない。屈する訳にはいかない。他の誰よりも理解出来てしまう思いだからこそ、春季は自らの疑問に刃を突き立てる。

 心からの悲鳴を否定して、打ち砕いて。ただ冬菜をあそこから連れ出す為の戦いに、覚悟という縄で自らを縛り付けていく。


『もう元には戻れない……それで何が手に入った! 何も、無かっただろ!』

「黙れよ!」

『救われないんだよ、もう、誰も!』


 自分自身が心に封じ込めて来た思いを前に、春季は何一つ言い返せない。鏡写しのように立ち塞がるレイヴンが、自責の念を代弁するかのように襲い掛かって来る。


 冬菜を助けられなかった春季の可能性、それを体現するかのようなレイヴンは感情も露わに殴りかかって来た。永劫にも等しい時を経て醸成された絶望が、無力感が、悲痛な思いを乗せて叩き付けられていた。

 マッハ数百相当、握り込まれたレイヴンの拳はもはや中型隕石にも等しい。目にも留まらぬ速さで撃ち出された拳が、凶悪な勢いで突き出される。

 エルンダーグは咄嗟に両腕を交差させるも、炸裂した衝撃が機体を弾丸のように弾き飛ばしていた。重力制御システムが作動しなければ、加速だけで即死しかねない衝撃。粉砕寸前にまで傷んだ両腕は、莫大な運動エネルギーを叩き付けられて白熱する。


 恐るべき質量攻撃の応酬で加熱する死闘は、レイヴンが秘めたる絶望をも引きずり出していく。漆黒の装甲の下で凍り付いていた感情は、今まさに火山の如く煮え立っているのかも知れなかった。あまりにも、あまりにも人間的な悲哀に満ちたメインカメラは真っ赤に燃え滾って、いつになく悲壮な思いを乗せて真空に揺らめいている。

 あまりのやり切れなさに呻く春季は、反発する感情で胸が裂けそうになっていた。自己否定の刻苦に喘ぐ思いが、虚しい叫びと化してコックピット内に轟く。


「お前も、どうして……どうして邪魔をするんだよ……ッ!」


 血走る瞳に敵意を燃え上がらせ、春季は粉砕骨折だらけの身体に鞭を打つ。ペダルを踏み込めば途端に猛進し始めるエルンダーグ、苛烈なGに息を詰まらせながらレイヴンへと向かっていく。

 レイヴンに接近したエルンダーグは、二度、三度と超高速で行き交う軌道を交わらせる。接触する度に傷を刻み付けあいながら、二機は徐々に獣じみた肉弾戦へと持つれ込んでいった。

 エルンダーグが、打撃を受け止めたばかりの腕をレイヴンに伸ばす。唸りを上げる豪腕は、握り砕いた黒翼をギリギリと捻り上げていく。


 しかし、その間も、レイヴンは一心不乱に突き進むのを止めなかった。

 このまま光門ゲートへと突っ込まされようとしている。春季がそう気付いた時には、既に遅かった。強大な重力制御能力を誇るレイヴンは、もはや半端な逆噴射ごときでは押し留めていられない。


「しまっ――――」


 壮絶な肉弾戦でもつれ合う二機は、そのまま光の水面へと飲み込まれる。敵意も、殺意も、全ての感情をホワイトアウトさせていく極彩色の光は、二柱の魔神に数億光年もの距離を渡らせていった。


 ――――およそ20年後、太陽系の火星軌道。


 数億光年もの天文学的距離を超え、火星軌道を巡っていた光門ゲートから二つの隕石が吐き出される。一つは漆黒、一つは深紅、歪な人型に象られた魔神たちは、激闘の傷をそのままに太陽系の宙域へと投げ出されていた。

 観衆たる数千体の外訪者アウターが見守る中、赤茶けた大地を背に二柱の魔神が向かい合う。望まれざる帰還を果たしたエルンダーグ、そしてレイヴン。春季と共に太陽系へ降り立ってしまったのは、まさに最悪の敵に他ならなかった。


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