Storu05 《国王様との謁見》

 かなり遠くに見えていたはずの王都に、僅か10分で到着してしまった。


 なにせ飛竜が速すぎる。体感で時速100キロは超えてるね。そんな速さで飛行すれば風圧で吹き飛ばされそうだが、防護障壁プロテクションなるものを張っているらしいので、身体には穏やかな風しか当たらなかった。実に不思議な体験だった。


 ヘルムフリートは王都の城門付近で減速し、地面に着地した。ゲオルグさんが翼を二度叩くと、飛竜は可愛らしい鳴き声を発して緩やかな速度で去っていった。恐らく巣のような所へ戻るのだろう。


 城の門番二人に、身分証を見せるゲオルグさん。俺は身分を証明できるものは何もないので、彼の背中の後ろで縮こまっている。


SRソルジャーランク7、ゲオルグ・リースフェルトだな。入っていいぞ。……その、後ろの者は?」


 俺を指して門番が問う。反射的にびくっとしてしまったが、ゲオルグさんがすかさず事情を説明する。


「この子は、任務先の森で迷子になっていたので助けたツバサだ。戦闘レベル1でな。どうしても放っておけなかった。この子も入れてやってくれないか」


 きっとあの森は危険な場所なんだろう、だってレベル60超の魔物が闊歩してるんだしな。一般人の平均レベルとか、そういう基準はわかんないけど。


 そんなところで迷子、しかもレベル1となれば、命の危険は計り知れないものとなる。


 それを理解してのことだったのか、門番は目を見開いて俺のほうを見ていた。そして咳払いをしてから、俺に問いかけた。


「よし。入ってもいいが、入国証を持たない者を街に入れるのは規則違反だ。くれぐれも問題は起こさないでくれよ」


「はい、ありがとうございます!」


 俺は深く頭を下げた。ゲオルグさんと門番は何か話していたようだったが、内容は聞き取れなかった。


「じゃあ、まずは国王様に事情を話して、入国証を作ってもらおう。付いてきて」


 ゲオルグさんに付いていきながらも、ふと考える。


 ……もしかして俺、入国証作れんじゃね?まだ戦闘、創作共にレベル1だけど。


【必要なレベルに達していません。(創作レベル50)】


 ダメでした。まあそんなに入国許可証ぽんぽん出されたらこの国もたまったもんじゃないよね。大人しく貰いに行こう。



 街の人たちはみんな、俺にとってはゲームでお馴染みの、しかし現実世界では異常なファンタジックな服装をしていた。俺が彼らの横を通るとき、なぜか必ず街の人は振り返る。


 最初は俺が見られているのかと思っていたが、どうやら彼らの注目の的は俺の少し前を歩く銀鎧の騎士のようだった。


「あれ、リースフェルトさんじゃない?」

「ほんとだ!まさかお目に掛かれるなんて!」

「写真よりもずっとかっこいいわぁ!」


 時々こういう声が耳に届く。そういえばこの人、貴族の偉い人なんだよな。そう思うと助けて貰っているという罪悪感が沸き上がってくる。


 数十分後、城に到着した。それにしても、外から眺めているだけでも物凄い迫力だ。大きさもあるが、それ以上にこの世界の中央である威厳というか、そういったものが感じられる。


 城の兵士に、先程の門番と同じような質問と応答がされたのち、門が開いた。ゲオルグさんの行く方向に、俺も付いていく。


 更にいつまで続くとも知れない階段を上った先に、謁見の間と書かれた扉があった。その扉は他のものと比べると明らかに豪勢で、ここに国王がいるのは間違いなさそうだ。


 まずゲオルグさんが扉を二度ノックした後、大きな声で言った。


「SR7、ゲオルグ、リースフェルトです。先程の連絡で申したツバサ・キサラギを連れてきました」


 すぐに、「入れ」という声が聞こえたので、ゲオルグさんが入室したのに習って俺も入った。


 さすが謁見の間というだけあって、中は相当に豪華で広かった。


 部屋に入ってきた俺たちと、玉座との距離は10メートル近く離れている。壁には金色の柱が規則正しく並び、その所々に鏡のように磨かれた宝石が埋まっている。更に正面に設置されている煌びやかな装飾で飾られた玉座が、途轍もない光と威厳を放っている。


 そして、そこに座る初老の男が一人。王冠を被り金色の服を身に付けている以外には、外見に強そうな印象は見られない。しかし、全身から発せられる、歴戦の戦士を思わせる威圧感が俺に膝をつかせた。


「ゲオルグ・リースフェルト。今回の任務の成果は?」


 ゲオルグさんは俺と同じように膝をついて報告した。


「申し訳ありません。完遂に至りませんでした」


「そうか……以後留意せよ」


「はっ……」


 騎士は頭を垂れた。それを見ると、国王は俺のほうを向いた。


「そなたがツバサ・キサラギか」


「は……はい」


「ふむ……戦闘レベル1な上に、記憶喪失、か――」


 国王様は頷くと、張りのある低い声で告げた。


「ツバサ・キサラギよ。そなたに入国証を発行しよう。義務教育を受けずに育った少女が、まだヴァレスティアに居ようとは……」


 いや、少女て。俺男なんですけどねぇ。


 しかしこの場では、そんな些細なことはどうでもよかった。俺は国王様に深く頭を下げた。


「感謝致します、国王様!」


「礼はよい。……ゲオルグ・リースフェルト。お前には新しい任務が入り次第、それを与える。次は良い報告を期待しておるぞ」


「はっ、有難うございます」


 ゲオルグさんが何となく嬉しそうだ。もう仕事が貰えなくなると思っていたのではないだろうか?


「さあ、もう下がれ。……ツバサ・キサラギよ。もうそなたはこの国の住人だ。自由にしてくれて構わんぞ」


「はい!」


「では、失礼致します、国王様」


 ゲオルグさんは先程入室した時と同じ扉に向かった。俺もそれに付いていく。


 面接の時とか、入退場が一番大事だってよく言われていたのを思い出した。俺は無礼のないように、謁見の間からの退室を終えた。

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