Story04 《飛竜に乗って》

 俺と騎士様は、森の草木をかき分けながら情報交換をし合った。


 まず、彼の名前はゲオルグ・リースフェルト。これから向かう王都ヴァレスティアの近衛騎士だそうだ。王国に仕える兵士は皆ソルジャーランクという階級が与えられ、彼のランクは7。最大ランクは10なのでかなり上位の指揮官。貴族出身で、身分も高いらしい。


 そんな人がなぜこんな森の中にいるかというと、やはり王国から出された任務のためだったらしい。【アブノーマルラビット】20体討伐、俺が一度短剣を投げつけたが敵わなくて逃げてきたあいつだ。


 やはりここにいる魔物は全員、辺境の村の上位互換と考えて良いらしい。元々、ここ一帯にはレベル1~5モンスターしか居なかったそうだが、ある日突然この森の全魔物の眼が赤くなり、レベルが跳ね上がったらしい。


 あ、この世界の住人にもステータスと言って通じるみたい。ゲオルグさんの左腕にも、俺のとは色違いだが形状の似た機械が着けられていた。なんでも錬金術というもので量産され、10歳の時に装着されたんだとか。


 ちなみに彼の戦闘レベルは72。どうりでこの辺の魔物を楽に倒せるわけだよなぁ。




 俺のことを聞かれたときは、とりあえず記憶喪失ということにしておいた。異世界転生は記憶喪失で大抵なんとかなる。これ常識。


 色々と質問されたが、憶えていませんと言い続けた。いや、実際知らないことばかりだったんだよ。


 答えられたのは自分の名前くらいのものだった。ツバサと名乗ったとき、ゲオルグさんは微笑み、「いい名前だ」と言ってくれた。



 一時間程歩いたとき、木々しか見えていなかった目の前が開けた。森を抜けることができたのだ。


 一度も魔物とは遭遇しなかった。ゲオルグさんに理由を尋ねたところ、


「隠密スキルで二人分の気配を消していたんだ。俺の隠密スキルのランクは高いから、あの程度の魔物なら気づかないよ」


 と言われてしまった。さすが近衛騎士である。




 森を完全に抜けたら、目の前は崖になっていた。


 しかし、恐怖を感じるようなものではなかった。顔を上に向けると、森の中では木に遮られて見えなかった透き通った青空、眼下には森や山脈、川までもが一望出来る。


 青空を飛ぶ白い鳥を眺めながら、俺は茫然と呟いた。


「綺麗……」


「だろう?この景色は俺も好きだ。ヴァレスティア領地をここから一望できる」


 隣のゲオルグさんも共感して頷いている。


 そして、広がる草原の大地の中心部――ひとつ、巨大な建造物。王国の城だ。それを取り囲むように数々の家や露店があり、更に外側にはとてつもない高さの城壁が見て取れる。


「あれが……王都ヴァレスティア……」


「そう。今からあそこに行くんだ」


「え、でも、ここ崖だし、どうやって行くんですか?」


「それは、こうするんだよ」


 ゲオルグさんは指を口に当て、口笛を吹いた。すると上空から、何か飛んでくるではないか。


 超高速で飛行してきたものは、俺とゲオルグさんの近くで減速し、僅かに離れた位置に着地した。その姿は、俺がマンガやアニメでよく見た、竜そのものだった。


 俺の考えるドラゴンとしては身体が小さい。と言っても、全長6~7メートルはあるだろう。全身は青がかった緑色で、銀色に輝く金属鎧が着けられている。牙とかぎ爪もまた銀色だ。

 俺は、くるると鳴いてゲオルグさんに寄り添うそれを見て、唖然として呟いた。


「り……竜……!?」


 ゲオルグさんは竜の鼻を撫でながら言った。


「知らないのか?飛竜っていうんだ。こいつは【ヘルムフリート】、俺の戦友。ほら、乗って」


「え?乗るって、飛竜にですか!?」


 俺は驚きと共に感動して聞いた。飛竜に乗るなんて子供の頃からの夢と言っても過言ではない。

 彼は爽やかに頷いた。


「もちろん。怖い?」


「い、いえ!大丈夫です!よろしくお願いします!」


 俺はゲオルグさんに手を引っ張ってもらって飛竜ヘルムフリートに跨った。


「よし、出発するぞ、掴まって!」


 ヘルムフリートは甲高くきゅるると鳴いて、空高く飛翔した。

 遥か先に見える王都を目指して。

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