依頼はどうぞ、配達屋へ!
宮間
「配達です
よーーーーーー!!」
「うっせえ!!」
がんがんがん、と、俺の体をぶっ叩いて、そいつは満面の笑みを浮かべた。
「起きようね! 今日はクリスマスイブの夜だよ! いや、朝かな?! どっちかな?! まあいっか!! とにかく遠慮無く仕事だよ! 書き入れだよ!! さあ!」
がんがんがん!
「うるっっっっせえ!!! わかった! 起きるから!起きるから!!」
ぶるるるん。
俺は心臓を震わせて、体を揺さぶる。ばうんばうん、どるどる。
いつものブラックでは無く、今日だけのワインレッドのライダースーツを身に纏った、金髪のにーちゃん(俺の主人)は、ぬふふんと満足げに笑った。
「俺たち配達屋の稼ぎどきだからね? 今稼がないといつ稼ぐ? 今でしょ!」
「古い。あとなんか違う」
どるるる、ぶるん。
ああ、言い忘れていた。
この従業員使いが荒い主人は少々アブノーマルな配達屋の店主である。こやつの従業員使いが荒いのは前からで、タイヤ交換もろくにしないもんだから俺は結構頑張ってると思う。
そして俺はこいつに奴隷の如くこき使われる機械。
Ducati、Monster 821––––––まあ、要するに。
バイクだ。
とっぷりと日は沈み、リア充どもの宴会モードに呆れつつ俺は主人を乗せて走らせる。
「いやぁ、こんな時間までよく騒ぐよねえ」
「真夜中二時半なのにな」
ぎゅいいん。
俺の体を勢いよく倒して、カーブを曲がる。
「うあああ!! ストップ! 無理! フロントフロント!! 削れるってええ!」
「だあいじょーぶだってぇー、部品変えたげるから」
「お前また壊す気か?! 去年を繰り返す気か?!」
「いいかい–––––––過去は、繰り返すのさ」
きらりん、という効果音が聞こえた気がした。
げんなりしつつ、人と人の間を縫ってじぐざぐに走らせる。
誰も気づかない。
「お前はもっと自分の能力を他のことに使えばいいよ」
「えぇ? なんで? お金はいるよ? お金さえあればなんだって買うことができるんだよ? いいかい」
きらりりん。
「お金で買えないものは、お金さ」
「爆発しろ」
それでどこだっけなー? と、片手をハンドルから外し、腰にベルトのように付けている小さなポシェットから地図を取り出す。
「暫く運転よろしく」
「へいへい」
添えていたもう片方の手も外し、手のひらサイズほどに折りたたまれた地図を開いていく。何回も何回も開くのを繰り返せば、二メートルかける二メートルくらいある大型すぎる地図が出来上がった。そして新聞を読むようにうんうん唸りながら地図を眺め、主人は「あー」首を傾げた。俺、その様子には見覚えがあるぞ。声をかけた。
「何だ? またあいつか?」
「んん。そうみたいだねぇ」
面倒だ、と、主人は口を尖らせた。
「取り敢えずあいつの位置を特定したいかな。高層ビルあるじゃん? あれの一番上まで行こうか」
ふわり。俺の体が浮く。
そのまま主人を乗せて、俺の体は高層ビルの屋上まで運ばれていく。
夜風が冷たい。
「おい」
「んー?」
「エンジンはかけとけよ」
「わかってるよー」
元のサイズまで折り畳み、ポシェットに仕舞った。そしてハンドルを握りなおす。
ふわり。
ちょうどビルの屋上に着いた瞬間。
「ぅうおおおおおおおい!」
………出たよ。
それは見るからにサンタクロース。もふもふの服装。あの尖った帽子。どこからどう見てももふもふ、の、色んな絵本に出てくるサンタクロースそのままを写し取ったような人物が、主人と俺のいる高層ビルの真下にいる。
そう、まるで、絵本のサンタクロースそのまm…
「マッチョだけどね!!」
主人。いい笑顔で言うなよ頼むから。
ボディビルダーも驚きの色の黒さと筋骨隆々な体はサンタクロースの服装にまったく似つかわしくない。もこもこふわもこのサンタクロース衣装からその腹筋が浮いて見えるのが残念極まりない。
ま、それも仕方ないだろう。こいつの役目は子供達に夢を与えることじゃない。主人を捕まえる事なんだから。
何もかもあんたのせいだよ主人。
ってか主人、あんたは黙っとけや。
いい感じでマイルドにしようとしてたんだから。
描写によってはバレないんだから!
これ小説だからさ?!
「やっほー!」
主人、あんたは黙ってろ。 やっほー!じゃねえ。
「やっほーだぜ! 神妙に縛につけ! この粗忽者!」
お前も黙れ。
「カクヨムくんおひさー!」
「おひさ! もっとおれの名前を呼んでもいいぞ!! かくよむんでもいいぞ!」
「なにそれきもーい!」
にこにこと主人は口の悪さを思う存分発揮している。駄目だ。こいつ、駄目だ。なんかもう、無理。
「まったくお前と言う奴は、この聖夜をどれ程汚せば気が済むんだ? 金稼ぎに聖夜を使うな!」
「今日はイブだからギリセーフ!」
「なし! 許さん!」
ちっ。小さく主人の舌打ちが聞こえた。
「今からそっちにいく! 首洗って待ってろおおお!」
あー、だるい。
主人は風に搔き消えそうなほど小さな声で呟いた。俺にはしっかり届いている。
「ねえ、一丁頼んでいい?」
「ったく、サンタクロースなら俺にもプレゼント欲しいもんだぜ!」
どるん、どるん、どるん、どるるるるるん!
俺は主人を乗せたまま、屋上から飛び上がる。そして前輪と後輪を高層ビルの壁に沿わせるようにする。
俺は主人に向けて呟いた。
「しっかり掴まってな?」
ごううううううん!!
垂直に立つビルから滑るように駆け下りる。目指すは、
高層ビルに入ろうとする例の奴、一直線!
ぎょっ、と、目を剥いたカクヨムさんが口を半開きにしている。その瞳に、突進してくる俺と、俺に跨って振り落とされまいとする主人を映して。
真っ直ぐ真っ直ぐ真っ直ぐ。直進して、
ぶち当たる!
「うあああああああ?!」
ぎゅうん!
車体を持ち上げ、空中を滑った。
腰を抜かしたカクヨムさんを飛び越えてアスファルトに着地し、そのまま全速力で駆け抜ける。
遠くでカクヨムさんの声が聞こえる。
あー、また怒鳴ってる。
「うまく逃げれたな」
「だねえ……全く、ひやっとしたよ。特に尻が」
「それはただ単に腰を浮かしてただけだろ」
ぎゅるるるん。
「で? 最初は何処にプレゼントを届けに行くんだ?」
主人は「ああ」笑った。
「私立、ひいらぎ孤児院だよ」
どるるるる。どっどっどっ。
ブレーキを掛けて、俺は主人の家の俺の部屋(倉庫)の前にスタンドを立てる。
「じゃあ主人。俺寝るわ。疲れた」
「うん、いいよ」
俺から降りてるんるんとポシェットを振りながら満面の笑みを浮かべる主人に、「嬉しそうだな」声をかけた。
「そりゃあ嬉しいよ。お金が貰えて子供達の笑顔も観れる、そんなお仕事は今日くらいしか来ないからね」
「でも売上の半分、孤児院に寄付してただろ?」
「当たり前。サンタクロースは犯罪を犯さないんだよ?」
「住居不法浸入だろ」
俺はあくびをした。ガレージに向かう。
「で? 今回稼いだ金は何に使うんだ? 女か? 酒か?生憎俺はどっちも参加できないから一人で遊べ」
「えー? まあそれもいいけど、無理」
「はあ? なんだそれ」
俺はガレージに入った。
「ああそうだ、君さ、今日は中で寝ていいよ」
「は? いや別にいい。お前、オイル臭くなるぞ。それにどうせ俺はエンジン切ったら寝るし」
「クリスマスだから気にしなくていいよ」
「ふーん。まあいいけどなんで?」
「タイヤ交換するから。俺が寒いの嫌いだって知ってるでしょ?」
「へえ。じゃあよろしく…………」
どっどっどっ、?!
「タイヤ交換んん?!」
「うん。しかも凄くいいのに変えるから」
「はああ?! なんで?! 気持ち悪っ」
「クリスマスプレゼントだよ! 察せよ! あげないよ! あー、残念だなー! 折角今日のお金で買ったげたのになー!」
「ありがとうございますいただきます」
俺はガレージから出て、白い雪がぱらぱら降る中、主人の後を追った。
「あっ………カクヨムくんあれからどうしたんだろ」
依頼はどうぞ、配達屋へ! 宮間 @yotutuzi
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