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 最後尾の列車からは、吸血鬼の呪縛が解かれた乗客たちが目を覚まし、なにが起きたのかと止まっている客車から降りてきた。

 わからぬまま列車から下りていく乗客たち。

 その中にはウィンディの両親もいた。

 ウィンディは、両親を見つけると喜んで駆けていった。


 その様子を、見送るとミッシェルは、疲れきった表情で日差しを避けるように列車の影に座り込んだ。

吸血鬼ヴァンパイアマスターが死んでから時間が経つが体の様子はどうなんだ?」

 隣にやって来たコールが心配げに声をかける。

「どうだろう……あまり変わった感じはないけれど」

 ミッシェルは試しに影から手を出して太陽に晒してみた。

 しかしその手は、白い煙があがったかと思うとあっというまに炎に包まれた。慌てて手を戻し火を消しにかかるミッシェル。

「だめだ。吸血鬼ヴァンパイアのままだ」

 ミッシェルは、がっくりと顔を伏せた。

「元気出せ、おまえらしくないぞ」

 とは言ってみたもののコールには、ミッシェルの心中が容易に想像できていた。だが他にかける言葉も見つからない。

「そうだ、ワシントンに行こう。都会だからきっと良い医者がみつかるさ」

 コールは、そう言ってミッシェルの肩を叩いた。

「あの教授は、お前の血を吸った女吸血鬼レイミアが死ねば、お前が元の戻ると言ったんだぜ。死人の悪口は言いたくないが学者ってのもあてにならないもんだな」

「たぶんだけど……マスターは別にいるんだ」

 ミッシェルがポツリとつぶやいた。

「わかるんだ。あの女吸血鬼レイミアは確かに私を吸血鬼に変えたけれど、それよりさらに上の奴がいるんだよ。あの女吸血鬼レイミアのマスターにあたる奴が……それが原因かも」

 吸血鬼になったミッシェルは超自然的な何かを感じ取っているらしい。おそらく言ってることは正しいのだろう。

「まずは、ワシントンだ。いろんな医者にあたって治療方法を探してみよう」

 コールが言った。

「だめだよ」

 ミッシェルが首を横に振った。

「一緒には行けないよ」

「何言ってんだ。お前は俺がいなけりゃ危なっかしくて……」

「そうじゃないよ」

 ミッシェルが言葉を制した。

吸血鬼ヴァンパイアになった私がいつ理性を失ってコールに噛み付くかもしれないし……」

「平気だ。そのときはお前をふん縛ってやるさ」

 そう言ってにやりと笑うコール。

「私の事、怖くない?」

「お前はお前だよ。何も変わらないさ」

「コール……」

「もし、ワシントンで良い医者が見つからなかったら、さっきお前が言っていた、もっと上の吸血鬼マスターヴァンパイアってのを見つけ出してぶっ殺せばいい。幸い、俺たちは人探しが得意だし、銃の腕もいい。きっとなんとかなるさ」

「ありがとう……コール」

「いいさ」

 そう言ってミッシェルに自分のテンガロンハットをかぶせた。

 ハットのサイズは大きかったが、ミッシェルにはそれがとてもかぶり心地がよかった。



 数日後、シカゴのピンカートン探偵社に報告書が届いていた。

 報告書には、カミノ・レアルの町で起きた事件のあらましが克明に記されていた。

 報告書を受け取った探偵社の人間はその内容をどう判断してよいか戸惑った。とても依頼主に報告できる内容ではなかったからだ。

 事実確認の為、コール・ソントン調査員、ミッシェル・ナイト調査員の両名に再三連絡を取ろうとしたものの、それは適わなかった。

 仕方なく探偵社は、ヴァンダービルトの鉄道会社には、今回の路線への不当な列車の乗り入れは、゛南部連合派の残党による極めて悪質な嫌がらせ゛であった、という旨の報告書を提出した。

 同探偵社は、その後、コール・ソントン調査員、ミッシェル・ナイト調査員の両名による直接の報告を望んだが、二人の足取りは掴めないままであった……。


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