32、発車

 騒ぎを聞きつけた大佐が戻ってきた。

「一体何ごとだ!」

「それが、石炭を積んだ貨物車がいきなり爆発して」

 街で騒ぎを起こした連中だ。

 大佐は思った。

「今すぐ列車を出発させる」

「でもまだ荷物が」

「かまわん。列車集積場の車両分もある、もう十分だ」

 

 機関車に機関士が乗り込んだ。

 機関士は、本来石炭を放り込む給炭機にパイプをはめ込むとバルブを回した。

 機関車は不気味な機械音を響かせる。その形状は奇怪で生き物のようだった。

 蒸気弁から吹き出てきたのは水蒸気ではなく淀んだ赤い煙だった。煙というより、まるで機関車の呼吸だ。

 機関士は、いくつもある計器やバルブ弁を確認した後、帽子をかぶり直し、汽笛を鳴らした。

 兵隊たちが数人がかりで正面の扉を押し開けると、トンネルの入り口が姿を現した。

 客車では車掌が乗客に出発前の知らせに回っていた。

「レッドトレインにご乗車ありがとうございます。当列車は、間もなく出発いたします。長らくのおまたせ誠にありがとうございます」

 客車に乗っている貴族たちは、口々に次の目的地の事を話し始めた。

「尚、念のため、窓は厳重に閉めさせていただきます」

 車掌が、指を鳴らすとやってきた兵隊たちが窓の戸を閉め、留め金を掛けてまわる。

 二度目の汽笛が鳴ると車輪がゆっくりとレールの上を回り始め吸血鬼たちの列車は動き始めた。

 動き始めた列車に武器を持った兵隊たちが次々に飛び乗っていく。


 

「列車が動き始めたわ。レイミア」

「ようやくね。待ちくたびれた」

 レイミアはカーテンを上げて外の様子を見た。

 騒がしい様子に僅かに眉をひそめる。

「どうしたの? レイミア」

「なんでもないわ。ウィンディ。さあ、食事を続けましょう」

「この列車ってどこに向かうのかしら」

「人の多い場所ね」

「都会?」

「そうね。途中、いろんな街に寄っていくわ。楽しみよね」

 レイミアの言葉にもウィンディは素直に喜べなかった。

 吸血鬼に殺された両親。

 別れてしまった親切なミッシェル。

 それらの思いはまだ残ったままなのだ。

 そう簡単に切り替えられるわけもない。



 動き始めた列車に気が付き、ミッシェルが慌てた。

「ちっ!」

 進む列車に並行して走り追いかける。

 だが線路のそばにいた兵隊がライフルでミッシェルに狙いをつけていた。

 それに気づいたコールが兵隊を狙撃する。聖弾で貫かれた狙撃手は、一瞬で灰になっていく。

 ミッシェルは、なんとか列車に追いつき、飛び乗った。かぶっていたテンガロンハットが吹き飛ぶ。

 列車はさらに速度を上げ、トンネルに入っていった。

 乗り遅れたコールと教授は、走り去った列車を見送っていた。

 コールの足元のミッシェルの落としたハットが転がる。コールはそれを拾い上げた。

「ミッシェル……」

 コールは悔しそうに歯ぎしりした。

「くそっ!」

「いや、まだ大丈夫かもしれません」

 カッシング教授は、壁に貼られた吸血鬼たちが作った線路図を指差した。



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