20、吸血鬼退治への誘い
「君たち、私の仕事を手伝わないかい?」
教授はミッシェルとコールに言った。
「仕事って? 俺らは、歴史のことなんて知らないですよ」
「別の仕事ですよ。吸血鬼退治」
教授の馬鹿げた言葉に二人は、顔を見合わせた。
「何を言っているんです? 教授」
「いたって本気だよ。それに君らだって、もうあれを見ているんだろ?」
「俺らには別の仕事があるんだよ」
「仲間の行方だろ。残念だが生きてる希望は少ないと思うよ」
「そうかもしれないが、その経緯を知りたい。それが調査ってもんだ」
「今の町の状態で?」
教授はそう言って肩をすくめた。
「アンタ、簡単に退治っていっても、奴らしぶといんだよ」
ミッシェルは、コルトをホルスターから抜くと教授に見せた。
「シリンダーの弾を目一杯撃ち込んでようやく殺せるって具合なんだ」
「それは、弱点を突いていないからですよ。最初から急所を攻撃すれば、短時間でケリが着きます。だから銃でなくとも……」
教授は、大きなナイフを取り出して見せた。学者の持ち歩くような物ではない。ナイフは珍しくないが、教授が持ち出したことに二人は、驚く。
「こういった柄モノの一撃だけでも奴らを始末できます」
「その弱点って?」
「心臓か頭です。弾丸でもナイフでも杭でもいい。心臓か頭を破壊すればそれで奴らは終わりです。頭の場合は、再生できないほど徹底的に破壊しないと再生してしまうから注意してください。ああ、奴らは傷を負っても再生するのが特徴でね」
「心臓ねえ……ねえ、ちょっと聞きたいんだけ奴ら何で死ぬと灰になるの?」
「本来の状態になるだけですよ。灰は灰に……お聞きになった事はありませんか?」
教授は、笑顔でそう言った。
「ねえ……」
ウィンディが口を挟んだ。
「十字架は?」
「おやおや、こちらのお嬢さんの方が大人たちより吸血鬼に詳しいようだ。どこでそんな事を?」
「本で読みました」
「本か……本を読むのは素晴らしいことです。多くの知識を得られますからね」
教授は、そう言うとウィンディの頭を撫でた。
「なあ、教授、十字架でどうやって奴らを殺せるんだ?」
コールが教授に尋ねた。
「十字架で吸血鬼を殺せるわけではないとないと思いますよ。十字架を嫌がる者たちもいる。奴らは聖なる物というやつが苦手らしい。便利なことに聖なるものであれば、心臓や頭でなくとも殺せると思います。例えば、牧師か神父に祈りを捧げられた弾丸や剣であれば、急所に当たらなくとも大きな痛手を負わせるか、殺す事ができると思いますよ」
「なんだよ。そっちの方が楽じゃないか」
ミッシェルはそう言って肩をすくめた。
「ちょっと問題があってね。ここは教会だが、牧師も神父も姿は見えない」
「確かに……なあ、教授。アンタ頭は良さそうだ。俺たちの持ってる弾をその聖なる祈りを捧げられた弾丸も変える方法はないのかい?」
コールは、弾丸の入った小箱を見せて聞いてみた。
「ふむ……牧師でなくとも、信心深い……神を信じる人間が祈りを捧げれば同じような効果があるかもしれませんな。試したことはないが」
「アンタは? 信心深そうに見える」
「昔はね……残念な事に、私はとうに神を信じる事は止めたんだ」
「やれやれ」
「そう言う、あなたたちも信心深くはなさそうだね」
二人は顔を見合わせた。
「まあ、確かに……」
ミッシェルは気まずそうに頭を掻いた。
「みんな、神様を信じていなの?」
ウィンディの言葉に三人が彼女を見た。
「ウィンディは、神様信じてるんだ」
ミッシェルが言った。
「うん。私、神様を信じてる」
「ねえ、教授、こいうのもあり?」
ミッシェルは、教授に尋ねた。教授はその意味を察した。
「どうでしょうか……? しかし……いや。やはり試してみないと何とも」
弾丸の入った小箱が祭壇の上に山積みにされた。
その上にさらにコールが自分のナイフを一緒に置いた。
「念のためだよ」
ミッシェルの視線にコールがそう言った。
「私もしておこう」
ミッシェルもナイフも取り出した。
「ミッシェル、沢山、ナイフ持ってるね」
全部で三本のナイフを置いた。
「さて、ウィンディ、お願いね」
「うん……祈ればいいのね」
教授がウィンディの耳元で祈る言葉を教えた。
「……そんなふうに祈ってくれればいいんだよ」
ウィンディは、膝をついて祭壇に向かって祈り始めた。
父なる神よ。どうか私たちをお守り下さい。
願わくばこの弾丸で彼ら吸血鬼を滅ぼせるように……この弾丸を使う者をお守り下さい。ミッシェルをお守り下さい。コールさんをお守り下さい。ママをお守り下さい。パパをお守り下さい。
ウィンディは、祭壇の前で祈り続けた。
……そして友達のレイミアをお守りください。
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