第二章

11)「寂れた町の酒場にて」

 ミッシェルとコールは酒場に入ると店内を見渡した。

 店内の隅のテーブルで陰気臭い客が数人。カウンターのバーテンダーの顔も色白く生気はない。

 血の気の多い連中がたむろするのも面倒だったが、この暗い淀んだ空気もミッシェルには好きになれなかった。

 テーブルの客たちが話を止めて入ってきたミッシェルたちをジロリと見た。

 客たちの視線を無視して二人はカウンターに向かう。

「おい、ミッシェル」

 執拗に見つめる客たちの視線に少し苛立ったミッシェルに気づき、コールが声をかけた。

「わ、わかってるよ。大丈夫、面倒は起こさないからさ」

 ミッシェルは、そう言って愛想笑いをしてみせた。

「いい子だ。ちょっとそこで待ってろ。店主に泊まれるか聞いてくる」

 コールは、そう言うとカウンターでグラスを拭くバーテンダーに声をかけた。

「なあ、ここって泊まれるのかい?」

「ああ、泊まれるよ」

 バーテンダーは、愛想なく答えた。

「二人部屋で2、3日泊まりたい」

「構わんよ」

「ここに客は来るのかい?」

「来てるだろ? そこにテーブル席にいるじゃないか」

「まあ、そうだな」

「それにあんたらも」

「確かに」

 バーテンダーは、鍵を取り出してくるとテーブルに置いた。

「二階に上がって3つめの部屋だよ」

「ちょっと聞きたいんだが、何週間か前にシカゴから来た二人連れの客が泊まらなかったか?」

「……覚えがないね」

 バーテンダーは即答した。

 本当に覚えがないのか、知っていて教えようとしないのか、どちらにしろ疑わしい返事だった。

「そうかい、ありがとよ」

 こいつは、何か知ってる。コールは、直感的にそう感じた。

 その時、ミッシェルがコールを肘でつついた。

「あれを見て」

 見ると店の出入り口に少女が自分の身長より長いライフルを持って立っていた。

「なんだ?」

 顔を見合わせるコールとミッシェル。

 少女は、持っていたライフルを店内に向けると引き金を引いた。

 弾丸は、カウンターの後ろの棚に並んだ酒瓶を砕いた。酒がぶちまけられ。ガラスの破片が周囲に飛び散った。

 ミッシェルとコールは、反射的に身をかがめると銃のグリップに手をかけた。

「なんだよ! あの子供は」

 いきなりの出来事だった。

 少し変だったのは、テーブル客もバーテンダーも店内での発砲に驚いた様子もなく平然としていることだった。

 少女はといえば、ライフルを撃った反動で転んでいた。

 ミッシェルは、その機を逃さず、少女に駆け寄ると持っていたライフルを取り上げた。

「やめてよ!」

 少女は暴れたが、ミッシェルは少女の首根っこを掴んで引き寄せた。

「こら! 暴れるな。危ないだろ」

「こいつら、みんな殺してやるんだから!」

「物騒だなぁ。女の子はもう少しお淑やかにしなくっちゃ」 

 そう言ってミッシェルは、少女が抵抗できないように両腕を締め上げた。

「お前が言うなよ……」

 コールが呟いた。

「何か言った?」

「い、いや、別に」

 そう言いながらコールは、床に転がっていたライフルを拾い上げた。

「何なんだ? お前は」

 コールは、装填されている弾丸を確認しながら言った。

「こいつら、私のパパとママを殺したのよ! 復讐してやるんだから!」

「物騒な話だな。誰が、誰を殺したって?」

「こいつらよ! こいつらがパパとママを……」

「こいつらって?」

「ここにいる連中よ」

「店にいるって……」

「この街の連中は、皆、吸血鬼ヴァンパイアなのよ! 人間を襲って血を吸ってるんだから!」

 少女はそう言ってテーブルに座る男たちを睨みつけた。

吸血鬼ヴァンパイア?」

 コールとミッシェルは、顔を見合わせた。



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