7) 寂れた町の酒場にて
ミッシェルとコールは酒場に入ると店内を見渡した。
店内の隅のテーブルで陰気臭い客が数人。カウンターのバーテンダーの顔も色白く生気はない。
血の気の多い連中がたむろするのも面倒だったが、この暗い淀んだ空気もミッシェルには好きになれなかった。
テーブルの客たちが話を止めて入ってきたミッシェルたちをジロリと睨む。
客たちの視線を無視して二人はカウンターに向かった。
「おい、ミッシェル」
執拗に見つめる客たちの視線に少し苛立っていたミッシェルに気づき、コールが声をかける。
「わ、わかってるよ。大丈夫、面倒は起こさないからさ」
ミッシェルは、そう言って笑ってみせる。しかし引きつった笑いは我慢に限界が来ている証拠だ。
「ちょっとそこで"いい子"にしてろよ。俺はここに泊まれるか聞いてくる」
「心配しないでよ。私はいつでも"いい子"だろ?」
コールは眉をしかめてカウンターに歩いていった。カウンターの中ではバーテンダーがグラスを拭いている。
「なあ、ここって泊まれるのかい?」
「ああ、泊まれるよ」
バーテンダーは、愛想なく答えた。
「なら二人部屋で2、3日泊まりたいんだがね」
「構わんよ」
「しかし寂しい街だな。こんなところに客は来るのかい?」
「来てるだろ? そこにテーブル席に座ってるじゃないか」
「まあ、そうだよな」
「それにあんたらも」
「確かに」
「二人部屋で空いてるは二階に上がって3つめの部屋だよ。代金は前金」
「小切手使えるかい?」
「ここに銀行はない。現金でないと駄目だ」
コールは金を出した。
「……ちょっと聞きたいんだが、何週間か前にシカゴから来た二人連れの客が泊まらなかったかね?」
「……覚えがないな」
バーテンダーは即答した。
本当に覚えがないのか、知っていて教えようとしないのか、どちらにしろ疑わしい返事に思える。
「そうかい、ありがとよ」
こいつは、何か知ってる。コールは、直感的にそう感じる。
その時、ミッシェルがコールを肘で突く。
「部屋は上がって三つ目だ」
「違うよ。あれを見て」
見ると店の出入り口に誰かいた。酒場に似つかわしくない少女だ。
少女はライフルを構えて立っている。
少女は、ライフルを店内に向けると引き金を引いた。
弾丸は、カウンターの後ろの棚に並んだ酒瓶を砕いた。酒がぶちまけられ。ガラスの破片が周囲に飛び散る。
ミッシェルとコールは、反射的に身をかがめると銃のグリップに手をかけた。
「何なんだよ! あの子は」
いきなりの出来事だった。
妙だったのは、テーブル客もバーテンダーも店内での発砲に驚いた様子もなく平然としていることだった。
少女はといえば、ライフルを撃った反動で後ろに倒れ込んでいる。
ミッシェルは、その機を逃さず、倒れた少女に駆け寄ると持っていたライフルを取り上げた。
「反してよ!」
少女は暴れたが、ミッシェルは少女の首根っこを掴んで引き寄せた。
「こら! 暴れるな。こんな物持って危ないだろ」
「こいつら、みんな殺してやるんだから!」
「物騒だなぁ。女の子はもう少しお淑やかにしなくっちゃ」
そう言ってミッシェルは、少女が抵抗できないように両腕を締め上げた。
「お前が言うなよ……」
隣でコールが呟く。
「何か言った?」
「い、いや、別に……おっ、思ったよりいいライフルだな」
そう言いながらコールは、床に転がっていたライフルを拾い上げた。
「何なんだ? お前は」
コールは、装填されている弾丸を確認しながら言った。
「こいつら、私のパパとママを殺したのよ! 復讐してやるんだから!」
「お嬢ちゃん、物騒な話だが誰が、誰を殺したっていうんだ?」
「こいつらよ! こいつらがパパとママを……」
「こいつらって?」
「ここにいる連中よ。この街の連中は、皆、
少女はそう言ってテーブルに座る男たちを睨みつけた。
「
コールとミッシェルは、顔を見合わせた。
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