ブラッド・ウエスタン 真夜中の吸血列車
ジップ
第一章
プロローグ
19世紀後半――
のちの時代に西部開拓時代と呼ばれる時期も終盤を迎えようとしていた。
アメリカが二つに分かれ対立した南北戦争から二十年近く経つ。
北部州を中心としたアメリカ合衆国と分離派であるアメリカ連合国との戦争で劣勢であった北軍に勝利をもたらしたのは、最高司令官エイブラハム・リンカーンによる各軍への直接指示と最前線への徹底した物資補給であった。それを可能にしたのが当時発明されたばかりの電信と大陸中に広がりつつあった鉄道網である。
北軍の補給路を主に支えたのは北部最大の鉄道王コーネリアス・ヴァンダービルトの所有する鉄道会社であった。
そして南北戦争後のヴァンダービルトは、乱立していた多くの競合鉄道会社を吸収していく。その後、ついに彼はアメリカ最大の鉄道王となるのだった。
やがて鉄道会社の路線は、南部にも広がり、ヴァンダービルトの鉄道会社はさらに成長していった……。
ニューヨーク州ニューヨーク市
それは奇妙な噂からだった。
ヴァンダービルトの鉄道会社の路線を無断で使用する列車があるというものだった。
それだけならまだしも不気味なことに、その列車が通った街、あるいは列車が目撃された近くの街は、必ず多くの住人が行方不明になるという。
この不気味な噂がヴァンダービルトの耳に入ったのはそう時間はかからなかった。
「それなら探偵社を雇ったらどうだろうか?」
あるパーティーで席でのことだった。
コーネリアス・ヴァンダービルトは実業家仲間にそう勧められた。
「君が問題があると思うのなら徹底的に調べてみるべきだ。同業者の仕組んだことか、線路を引かれるのを嫌がる先住民たちの妨害であるのか、とにかく、まずは事実を知ることが重要だよ。対策はそれからだろう」
その言葉にヴァンダービルトは納得した。
原因が分からなければ問題は解決できないものだ。
「確かに君の言うとおりだ。で、君に何か心当たりでもあるのかね。もし、あれば参考にしたいのだが」
相手は、待ってましたとばかりに続けた。
「アラン・ピンカートンという男がシカゴに探偵社を作った。地元のいくつかの鉄道会社も支援してる会社だ。列車強盗の追跡もしているし、今回のような話にはぴったりの連中だと思うんだがね」
悪くない案だと思ったヴァンダービルトはその提案に乗ることにした。
かくして、ピンカートン探偵社は、ヴァンダービルトからの依頼を受ける事になったのだった。
依頼内容は、彼の所有する鉄道路線に出没する謎の列車の調査。
そしてピンカートン探偵社は、二人の探偵を調査に送り込むのであった。
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