花火大会の夜
@Miasma
第1話
私はあの時
何も 決断できなかった
嘘をつき誤魔化した。
言うべき言葉は分かっていたし
言わなければならなかった なのに…
テレビで 長岡夏祭りについてのニュース映像が流れていた
今日は8月1日 もうそんな時期か、今日花火も上がるのよね。
そんな事を考えながら スマホの画面に目を落とした。
「残念ながら今回はご希望に沿えない結果となりましたが、今後 水野 摩耶 様のご活躍をお祈り申し上げます。」
スマホの画面を 、そっと閉じた
また 就活に失敗した 。これで20社目
希望する会社はIT系の会社だが 、私は 人よりも3歳年上で、 今は地方Fラン大学の4年生 成績も芳しくない。
サークル活動もしておらず 、資格も中学時代とった漢検3級ぐらいしかない。
「まー 受かるわけないわよね、」
自重気味にそう呟いたが
同級生(年は3つ下)は就職が決まり始めている、
去年のこの時期は、就活はどうにかなるだろう 、
そう自分に嘘をついていた、 あの時と同じだ。
あの時から何も変わってない。 決断せず逃げて自分にさえ嘘をついている。
「なんで 私こんな事になったのかしら」
理由は分かっているのに 、そう言うしかなかった。
あれは中二の夏休み 夏祭りの花火が鳴り響く中での出来事だった 今でも その光景を鮮明に覚えている
「好きです付き合ってください」
同じクラスの 前川君から告白された
けれどその言葉に対する返事をしなかった
あの日 、咲ちゃんと前川君 秋ちゃんと 長瀬君 それに私の仲の良かった 五人で夏祭りにいった。
空は良く晴れていた 。
午後5時頃 宮内駅に 五人が集合して 電車で長岡まで移動した。
宮内駅は 人で溢れており、 電車内はもっと混雑していた 臨時電車が運行するのも無理もない。
「人すごいね 」
秋ちゃんが言った。
「電車で一駅だし我慢やな 摩耶ちゃん大丈夫?」
長瀬君が私を心配して言ってきた。
私は小さく頷いた、
長岡駅に着いた 。長岡駅はこの辺では大きな駅である 昔と比べ 特急が廃止になったり、 運行本数は減ったものの 新幹線の駅でもあるため 普段から沢山の人がいるが 、今日は特別多かった。
あまりにも人が多かったため 臨時バスには乗らず 、夏祭り会場まで30分歩いた。
歩いている間なんの話をしたか忘れたが 多分受験話とか 花火の話だったと思う。
会場に着くと 金魚すくいや射的など をして いるうちに、あっという間に花火が始まる時間になった。
花火が見えるところに移動した 時
「ちょっとトイレ行ってくるね。」
不意に長瀬君そう言い、
「え ちょっと 花火始まるよ。」
私がそう 言いかけた途端、
咲ちゃんと 秋ちゃんも
「私達 りんご飴買ってくるね」
と言い残し
早足で 屋台のある 人混みの中に消えて行っった 何か変だ
そう、感じた。
「もう花火 始まっちゃう っていう時間なのにね、 りんご飴 さっき買っとけば 良かったのに。」
「うん…」
私は 前谷君の反応など気にせず続けた、 二人きりになるのは 気まずいため 早口でまくし立てた。
「というか トイレって意味分かんない 、さっき女子行った時行けばよかった じゃん 。だいたい トイレの場所までここから遠いし あの時だって…
そう言ってる最中 前川君が急に私の前に立ち 顔を赤くして 恥ずかしそうにしなが、それでもはっきりと 私に言った。
その時 口笛の吹いたような音がして、 夜空に光が舞い上がり 花が開いた。
「ドーーーン」
「……………」
前川君の声は、 花火の音で聞こえない そう思いたかった。
「ゴメン 、何 花火の音で聞こえなかった 何て言った?」
けれど、前川君の言葉は私にはっきりと聞こえていた。
前川君は泣きそうな目をしながら 、小さな声で 花火を見ながら
「いやなんでものない 、ただ 花火綺麗だなと思って。」
私の目の前には 楽しそうに話す高校生カップルと夜空に儚く消えていく 花火を 悲しそうに見つめる前川君が立っていた
「だよね 花火綺麗だよね あそこに高校生のカップルがいるでしょう あーいうのいいよね いつか恋人と行きたいよね 花火 友達同士も楽しいけどね。」
違う こんなことが言いたかった訳じゃない 私も前川君の事が好きだった。
「好きです」
この一言が 言えなかった
前川君は小さく頷き 黙ったまま花火を見続けていた
しばらくすると三人が帰って来た
ワザと二人きりにする為に 席を外したのかと 、今更気づいた その後はみんな ただ 静かに夏の花火を見ていた。
澄んだ夏の長岡の空には 花開いては一瞬で消えていく花火の音と観客の歓声だけが鳴り響いていた。
あの日以来 現実を見る事が怖くなった。
「好き」たったこの2文字が言えなかった 。この2文字が言えたら 何か変わったのだろうか ?この答えは今も出ず
就活用の履歴書を書く手が、出身中学校名を書く途中で止まり、涙で履歴書が濡れてしまった。
私の時計はあの夏の日以来動いていない
あの夏の日に戻りたい
そんな 叶わない夢を いつまで私は見れば良いのうだろう?
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★4 エッセイ・ノンフィクション 連載中 1話
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