二
何故父は私を捨てたのだろう?
母が亡くなり、男手だけでは、私を育てられなかったのだろうか?
中学の時、育ててくれた叔母に思い切って父の事を訊いた。
父はどこへ行ったのか? 今どうしているのか?
何故、私を捨てたのか、父に会って訊きたかった。
ところが、叔母は困った顔をして父とは全く連絡が取れない、どこにいるのかわからない、というのだ。
「お父さん、一体どこに行ってしまったの? 何故、私を捨てたの? 迎えに来るって言ったのに」
記憶の中の父に尋ねても答はない。
このトンネルを抜けても父はいない。
わかっていても、もう一度、このトンネルを抜けたかった。
トンネルを抜けたら、何かわかるかもしれない。
来年、高校を卒業する。叔母は東京の大学に行けと言ってくれるけれど、私は地元で叔母の仕事を手伝いたい。大学に行かなくてもと思うけど、叔母は若いのだから、世界を見ておいでという。
「若いんだから。いろんな事を経験して、いろんな人と会って、デカい女になりな。あ、太れって言ってるんじゃないよ。大きな心を持てっていってるんだよ。広い視野とね」
叔母の言いたい事はわかる。だけど、父に捨てられた私が、世間に出ていいのだろうかとつい、思ってしまう。自分を卑下するわけではないけど、つい「私なんか」と思ってしまう。
このトンネルを抜けたら。
父が私を捨てた同じ日、同じ時間。もう一度、このトンネルを抜けたら何か答えが見つかるような気がする。
ツンと海の匂いがした。ここが深い海の底の底だと感じる。頭の上に何トンもの海水と土があるのだ。県境の標識が見えた。
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