第6話 聖剣・リコダカリバー
草が揺れる音、そして臭ってくる死臭――少女はアルバートに視線を投げると、小さく息を吸い、茂みから現れるだろう者に意識を向ける。
がさがさがさ――複数の音が鳴り、少女の前に姿を現した影。
それは人――で、あるが、あまりにも少女がいた世界の人間とはかけ離れている。
何故なら、その手には魔物の死体が握られており、口元は真っ赤。
さらには、ゴリゴリと歯を鳴らしたかと思うと、その人間らしき人物は、ぺっ!と、口から眼球を吐き出したのである。
少女はその人間に嫌悪感を抱くと、舌打ちした。
こんなものと同じに見られるのは不愉快。ただの犬畜生よりも劣り、再利用出来ないゴミよりも質が悪い。
少女はアルバートに合図を送ると、リコーダーに口を添えた。
そして、駆け出してきた人間たちに、少女はリコーダーの押さえ穴を向けると――思い切り、鳴らした。
ぴゅほぉーーーーーーー!と、気の抜けるような音が響き、少女は顔を赤らめた。
少女はリコーダーが下手なのである。
しかし、すぐに気を取り直し、再度吹く。
すると、今度はちゃんと吹けたのである。
その刹那――リコーダーの押さえ穴から、真っ白に迸る光の粒子。
所謂、ビームである。
穴から出たビームはホーミングしながら人間たちの体を貫いて行き、リコーダーの音に合わせ、あっちこっちと動いて行くのである。
剣を構えていたアルバートは驚いていたのだが、すぐに笑みを携え、こちらに歩いてきた。
魔王殿はやはり面妖だ。
それがアルバートの第一声であった。
『聖剣・リコダカリバー』
少女はアルバートにそう説明した。
そもそもの発端は、少女が入っている自治会にゴミ捨て場として指定している場所にあったリコーダーの噂が元である。
噂・1 そのリコーダーは伝説である。
噂・2 そのリコーダーを抜いた者は絶対的な力を持った王になれる。
噂・3 そのリコーダーからはビームが出る。
噂・4 先端から光でできた刀身が出てきて、某星戦争ゴッコができ、アースだか、モースだか、フォースに導かれる。
噂・5 そのリコーダーの名は、聖剣・リコダカリバー。
などのエトセトラ――。
その噂は、少女の自治会では知らない者はおらず、それだけではなく、自治会の学生たちが面白がって、SNSで呟いたため、知名度がうなぎ登りしたのである。
そして少女は、このリコーダーを回収し、別のリコーダーを刺したのである。
しかし……少女はなんとも哀れな元ネタを想った。
およそ、元ネタは選定の剣なのだろうが、一体いつからビームを発射する未来兵器になったのか。と、歴史的ロマンを捨てたSF的ロマン武器へと変わった何とかカリバー、もしくはカリバー何とかを想った。
そんな風に思考を馳せていると、アルバートが心配げな表情で顔を覗き込んでいた。
少女は首を傾げ、アルバートにどうしたのかを尋ねた。
すると、アルバートは愉快そうに笑い、もう終わったことを教えてくれた。
少女は周囲に視線を向けるのだが、すでに動いている敵はおらず、ビームが延々と死体蹴りを行なっていた。
少女はリコーダーに口をつけ、思い切り吸い込むことで、ビームを呼び戻した。
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