第5話 世界の魔王と勇者
少女はふと思った。
先ほど、このゾンビさんはあの男性っぽい魔物――ではなく、やっぱり人間らしい男に何と言ったのか?で、ある。
「うん?ああ、さっきの奴のことか」
ゾンビがどこか申し訳なさそうに、頭を搔く度に皮膚がポロポロと落ちていくのを顔の角度を変えて隠しながら、少女に話し出す。
「あれは人間だよ。だが、最早、魔物と人などという種族間のいざこざに構っていられなくなった狂人だがね」
よくわからない。
少女は最初にそう口にした。
種族間に構っていられなくなっただけで、どうしてああなるのか、少女には理解出来なかった。
「……今の世は、容量に入りきらなくなってしまった世だ」
少女は首を傾げる。
「200年ほど前は良かった。魔物も人も、互いに収められるだけの数しかいなかった。だが、今は違う。互いに溢れてしまった狂人どもが、正常を喰らう……そんな世界さ」
ゾンビ――アルバートの話では、この世界は、元々魔王と勇者を率いる王族が収めていたそうなのである。
しかし、ある時その均衡が崩れ、魔王は押し寄せる魔物を管理出来なくなり、跡取りを残せないまま病死。
勇者も同じ理由で、最期は王族共々、民に殺されたのである。
アルバートは勇者と王族の最期を民衆の中から見ていたそうなのだが、その時の顔を今でも夢に見るのだ。と、疲れた表情で語った。
少女は今の気持ちを言葉にすることが出来なかった。
魔王は、その災厄を撒き散らすための駒が、魔王にとっての厄へと変わり、勇者は守るべき世界に殺されたのである。
こんな誰彼の自分勝手に、少女は言葉を失った。
そして、少女ならどうするのだろうか。ふと、そんなことを思い、少女はアルバートの目を見つめた。
「む?魔王殿、どうかしたか?」
少女は息を大きく吸うと、両手を広げ、宣言する。
あたしは魔王、災厄を振りまく存在――その魔王に仇を成すそれぞれがいるなら……災厄をもたらす魔族、人間がいるというなら――あたしはさらに上の大災厄を世界にプレゼントする。
少女は無垢に、ただただ魔王としての在り方を宣言した。
「………………」
アルバートは少しの間、呆けた表情を浮かべ、すぐに大剣を少女に向け、勝気な表情を浮かべた。
「魔王殿、それは口だけではあるまいな?」
少女はもちろん。と、リコーダーを構えた。
対峙する2人――。
しかし、アルバートと少女は互いに弾けるように跳びのき、周囲に視線を向けるのである。
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