第3話 ナーサリーライム
少女は夕食を終えた後、自室のタンスから様々な物を取り出した。
まずはランドセル……ランドセルである。
次に、あるゴミ捨て場でタイヤに刺さっていたリコーダー。
母校の小学校にあった、開校から100年近く使われている大きな三角定規(正三角形)と大きな分度器。
それと、古いタイプの携帯電話。薄型の端末ではなく、折りたたみ式の電話と充電器。
そして、ネットで購入した、ブルマ。と、呼ばれる体操服。
他、たくさん。
それらを――まずリコーダーはランドセルに挿し、定規は定規用の袋にしまう。
ブルマは穿いてしまい、上には5-2と書かれた体操服。
これで準備OKである。
少女はしっかりとスニーカーを履き、ランドセルを背負うと、今は少女1人でしか住んでいない自宅に、大きく頭を下げた。
いってきます
誰かが応えてくれるわけではないが、少女はちゃんと感謝出来る子なのである。
今日と明日を跨ぐ境界線がすぐそばまで迫っている。
急がなくては……。
少女は携帯端末を開き、黄昏の門について確認する。
それは深夜23時59分から24時00分の1分間、戦いの意思と現世からの乖離の証明をした者だけが異世界に行ける。のだと。
これが最も呟かれていた。もとい、反応があった噂である。
知名度は十分、SNSで呟かれた数は計4万を超え、3年前から噂されている。
つまり、伝承された。と、確定していいだろう。
きっと、このテレビが本来持つ伝承もあるのだろうが、大したものではないだろう。
時刻は23時55分――。
少女はそのテレビ――黄昏の門に触れた。
「――ッ!」
そのモノが辿ってきた記憶が映像となり、文字へと変わる。
あらゆる軌跡は伝承され、形となる。
文字列が少女とテレビを包んでは離さず、周囲にどこかファンタジーを彷彿とさせる光景を映し出していた。
あらゆる伝承を幻想から乖離させ、現実で起こる事象へと書き換えることが出来る。
23時59分。
少女はリコーダーを構えた。
そして、現世から離れるための意思――つまり、この場にいることをSNSで呟いて証明し、テレビの画面に手を突っ込んだ。
光が画面から溢れ出す。
真夜中であるにも関わらず、周囲が白で見えなくなるほど大量の光。
黒は飲み込まれ、少女も飲み込まれていく。
しかし、少女に不安はなかった。
むしろ、やっと魔王らしく災厄を撒き散らせる。と、大きく胸を張っているのである。
少女は新たな世界に胸を踊らせ、目を閉じた。
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