第2話 黄昏の門
とぼとぼとした足取りの少女――。
自分は魔王なのである。
本来ならば、他人に対して怯えたり、頭を下げたりはしない……そう、絵空事には描かれていた。
だがこの世界、すでに勇者もいなければ、勇者の伝承すら少女の手の中。
戦う相手もいなければ、魔王の犠牲になり得る者もいやしない。
そう、少女は魔王であるが、災厄を撒くことも出来ず、自分以外の誰にも認識してもらえない魔王なのである。
少女の足取りは重い。
泣いてしまいそうである。
高校2年の少女――しかし、他人とはまったく交われない唯一無二で、孤独。
ただでさえ、見た目が小学生ほどであることをからかわれ、ランドセルをあの女ヤンキーから手渡されるというのだ、きっと舐められているのだろう。
少女は下唇を噛んだ。
しかし、何も出来ない。
あの大きな体で、黒魔術が未だに信仰されていそうな村の化粧みたいな顔で迫られたら、恐怖しか感じない。
少女は通り過ぎる人々を横目に、ふと近くの公園に意識を向けた。
泣き虫な少女だが、気配も読めるし、数百人の中から目的の人物を探し当てられる程度には優れている。
少女の足は公園に向かい、中にあるベンチへと運ばれていった。
特に何かするわけではないが、呆けた表情で空を見上げた。
真っ青である。
よくプラスの意味で使われるが、少女には空の青さが嫌味やブルーな気持ちを彷彿とさせ、あまり良い印象はない。
なにも考えることがない。
否、これからの生活のことや学校生活、進路や将来のことなど、考えることは山ほどあるが、そういう思考の話ではない。
少女の魔王として、これからどうするか。である。
思いつかない。
少女は魔王としての威厳だけではなく、魔王の道しるべすらなくしてしまった。
頭を抱える。
もうダメだ。と、諦めてしまいたい。
けれど、高校2年という子どもである内の佳境、すでに少女は戻れないところに来ていた。
今更一般人と同じような思考をしろと言われても無理なのである。
そんな風に、少女が絶望していると、ふいに聞こえる声――。
太っちょの前髪で顔が隠れた男性とヒョロヒョロなもやしのような男性。
2人が何やら怪しい会話をしていた。
「デュフフ、ヒョロ吉さん知っていますか?」
「ニュフフ、フト吉さん何ですか?」
「デュフフ、ヒョロ吉さん、実はS市東名バイパスのS川傍の高架下にあるテレビ、なんとあのテレビ――」
「ニュフフ――な、なんですとぉぉぉ!」
まだ太っちょは何も言っていないが、驚くガリガリ。
会話のテンポが悪く、少女はイラつく。
「デュフフ、ヒョロ吉さん、まだ何も言ってないよぉぉ」
「ニュフフ、そうでありました」
「それであのテレビなんだけど――」
「異世界に通じてるでありますよね!」
「――ッ! デュフフ、何故それを」
「僕たち友だちでありますからね!」
「ヒョロ吉さん――!」
「フト吉さん――!」
デュフフ。ニュフフ。と、気持ちの悪い笑みを浮かべている2人から、少女は距離を取り、自分で調べてみることを決めた。
公園の奥にあるブランコ、少女はそこに腰を下ろし、携帯端末を起動し、先ほど2人が話していたことを検索にかけた。
すると出てくる出てくる、山のような噂話。
その1――曰く、異世界に行ける。
その2――曰く、電脳世界へ行ける。
その3――曰く、異世界にたどり着いたら守護が付く。
その4――曰く、魔物がわんさか沸く世界
その5――曰く、就職活動にも失敗し、初告白で轟沈し、ニートを続けるなら家を出て行けと宣告された男が、苦し紛れに異世界に行こうとテレビに頭を叩きつけたところ、当然死んでしまうのだが、その怨霊が神に昇華され、神になった男が同じ苦しみを持つ人間に慈悲を与えた。
その6――曰く、そのテレビは黄昏の門と、呼ばれている。
などなどのエトセトラ――。
少女はげんなりしながらそれを見つめていた。
そして、可愛らしく頬を膨らませた思案顔――。
そして、少女は思いついたのである。
これだけ噂があるのなら、それは――。
伝承なのである。
伝え歩いた事柄が幻想となる事柄――少女は瞳を輝かせた。
そうだ、異世界に行こう。
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