伝承魔王の『黄昏の門(突撃隣のあの世界)』
筆々
第1話 魔王は小さな女の子
キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン――。
喧しい鐘の音が少女の耳をつん裂く。
少女は顔を歪め、鐘の音が鳴った放送口を睨みつけた。
「……」
しかし、ちょうどクラスのご意見番とも言えるでかい女ヤンキーと目が合ってしまい、少女はすぐに視線を逸らした。
だが、遅く、女ヤンキーが大股、肩で風切りズンズン歩んで来た。
少女はこのヤンキーの前世はゴリラ顔の男であったことを確信した。
「ちょっちいまぁこちみてにらんぅぇなかっつぁ?」
日本語は崩壊した。
少女は確信した。いつの間にか、ノストラダムスの大予言が的中し、みなが知らない間に世界は再構築されたのだ。と、少女は迫る巨体を涙目で見上げながら思った。
「ちょちあんたさぁいまうちのことにらんでしゃらなさぁ?」
聞き取れないのは少女の耳がおかしくなったからなのか、世界が壊れたからか――。
少女は首をブンブンと横に振り、小柄な体で、精一杯敵意がないことを女ヤンキーに伝えた。
「えあぅぇぃ? あたひひゃなひゃっつぇぃ? あっひょ――あんひゃ、かひゃいいんひゃからもちっとあひゃるひゅしゅれひや? もちょはにゃひょううぜ」
意味のわからない言葉を残し、女ヤンキーは原住民のような厚化粧を携え、雰囲気は爽やかにグループに戻っていった。
少女は安堵した。
胸を撫で下ろし、震えていた体を撫でて、小さく呼吸した。
もう帰りたい。
まだ1限目も始まっていないのだが、少女は顔を伏せた。
唐突に告白するが、この少女――魔王である。
現代、この世界に災厄をもたらすことが出来る少女で、勇者の血筋はすでに絶え、伝承にもすがることが出来ない。
つまり、この魔王を倒せる者は存在しない。
しかし、この少女、魔王の特性上、この世界の人間に危害を加えることが出来ないのである。
だからこそ、少女は偉ぶるわけでもなく、むしろ顔を伏せ、肉食獣の中に放り込まれたウサギの如く、ビクビクと日々を過ごしている。
なまじ魔王という肩書きが、少女を蝕んでいるのは言うまでもないだろう。
少女はカバンを手に持ち、逃げ出すようにそそくさと教室から出て行くのである。
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