第3話 大富豪

「どっかの国のだいとーりょーが、選挙の時の負け惜しみみたいなこと言ってるらしい。なんでだ? もう終わった勝負なんだろ?」


 朝飯のチャーハンを食べながら問うてくるリュツィ。パーカーの帽子をかぶるのが気に入ったのか、そのままで食を摂っている。髪が長いから邪魔だろうに。


「さあなー。勝って余裕が出てきたから、そういうこと言いたくなったんじゃないか、悔しくて」


 俺はチャーハンを口にするのを止めて、テレビを見ながら言う。ニュースではかの国家首脳が、投票の再集計について「時間の無駄だ」、と言っていると放送されている。


「矛盾していますね。大勢の人が違法に投票したことを問題としていながら、なぜ再集計に反対するのか。何か後ろ暗いことでもあるのでしょうか、この人は」


 例の首脳の映像を見ながら疑問を口にするアリス。その発言は的を射ている。しかしご飯粒が……。ご飯粒がほっぺに……。


 俺はアリスをチラチラ見ながら、


「ま、まあ、ああいった人種は裏で色々とやってるもんだからな。何かあってもおかしくはないと思うぞ、うん……」


 と気まずさを隠せずに言った。それにアリスは何か感づいたようで、


「どうしました……? もしかして私の発言におかしな点でもあったでしょうか? それなら正直に教えていただきたいのですが、参考までに」


 真顔でそんなことを聞いてくる。ほっぺにお米を付けたまま。


「え? いや、おかしなところはなかったけど、ちょっとおかしいところが……、あるようなないような……」

 と俺が言いにくそうにあぐねていると、リュツィが「お?」と何かに気づいた様子でアリスを見やり、


「おいアリス、お前ほっぺにご飯ついてるぞ?」


 と言って地雷を踏んだ。あちゃあ、やっぱり言っちゃったかあ……。


「どこですか?」


 アリスが仏頂面で聞くと、


「そっち」


 とリュツィが右頬を指し、


「ありがとうございます、リュツィ様」


 とアリスが言った瞬間、ほっぺのお米が雲散霧消した。……え。


「見苦しい所をお見せしました。申し訳ありません」


 箸をおいて軽く礼をするアリス。いや、それよりも、あのお米はどこいった……? 


「アリス、あのお米はどこにいったの……かな?」


 俺がおずおずと質問すると、


「消えていただきました」


 口をティッシュで拭き取りながら無表情で答える。


「そ、そうですか……」


 俺はこういう他なかった。


 そこへ空気を読まない「ごちそうさまでしたー」という無邪気な声が響く。


「トオル! 食べ終わった! なにして遊ぶ? ゲーム? アニメ? それとも外?」


 話が脱線しているのにも気づかず、意識をすでに他方面へ向けているリュツィ。俺は渡りに船とその流れに乗り、テレビを一瞥してから、


「そうだな……。大富豪でもするか? ルール覚えるのにちょっと時間かかるかもしれないけど」


 とリュツィを見て言った。


「おー! やるやるー! アリスもやるだろ? な?」


 アリスはふ、と微笑んだように見えてから。


「リュツィ様のご指名とあらば。言っておきますが手加減は一切致しません」


「よし! 望むところだ! ……あれ? でも、だいふごーってなんだ……?」


「……さあ? なんでしょう?」


 大富豪はともかく、楽しそうでなによりです。

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