花火大会の夜(続きも含む)

@Miasma

第1話

私は何もいえなかった 嘘もついた


言うべき言葉は分かっていたし 言わなければならなかった なのに…


「残念ながら今回はご希望に沿えない結果となりましたが、今後 水野 摩耶 様のご活躍をお祈り申し上げます。」


スマホの画面を そっと閉じた


また 就活に失敗した これで20社目

希望する会社はIT系の会社だが 私は 人よりも3歳年上で 今は地方Fラン大学の4年生 成績も芳しくない

サークル活動もしておらず 資格も中学時代とった漢検3級ぐらい


「まー 受かるわけないわよね」


自重気味にそう呟いたが もう9月だ

大体の同級生(年は3つ下)は就職が決まり始めている

去年のこの時期はまー どうにかなるだろう 就活に対して楽観的だった



「なんで こんな事になったのかしら」

理由は分かっているのに そう言うしかなかった



あれは中二の夏休み 夏祭りの花火が鳴り響く中での出来事だった 今でも その光景を鮮明に覚えている


「好きです付き合ってください」


同じクラスの 前川君から告白された


けれどその言葉に対する返事をしなかった


長岡では8月の頭 夏まりが開催される


その日


咲ちゃんと前川君 秋ちゃんと 長瀬君 それに私の五人で夏祭りにいった


前から 秋ちゃんに「摩耶、 長瀬君とか咲ちゃんたちと夏祭りに行こうよ」


と誘われていた


私はすぐに返事をして予定を空けておいた


あの頃は今思えば楽しかった


小学校3年の時から秋ちゃんとは同じクラスで仲が良かった 長瀬君とも小学校4年生くらいから仲が良い


中学1年生の頃から4人とも同じクラスで


中学2年生夏までは前川君を加えた五人が仲良くクラスの中心にいて クラス全員が仲良くまとまっていた 男子の一人を除いては…


夏祭り当日の午後5時頃 宮内駅に 五人が集合して 電車で長岡まで移動した

宮内駅は 人で溢れており 電車内はもっと混雑していた 臨時電車が運行するのも無理もない


「人すごいね なんか大阪みたいやなー」


秋ちゃんが言った


「電車で一駅だし我慢やな 摩耶ちゃん大丈夫」


長瀬君が私を心配して言ってきた

私は小さく頷いた

五人とも出身長岡ではなく 親の仕事や祖母の家が宮内にあるからなど様々な理由で宮内に引っ越して来た 私自身も 小学校2年生までは横浜に住んでいた

引き越してきた当日不安でいっぱいだったが 秋ちゃんと仲良くなれたことですぐに周と打ち解け今ではすっかり学校に馴染んでいる


長岡駅に着いた 長岡駅はこの辺では大きな駅である 昔と比べ 特急が廃止になったり 運行本数は減ったものの 新幹線の駅でもあるため 普段から沢山の人がいるが 今日は特別多かった

あまりにも人が多かったため 臨時バスには乗らず 夏祭り会場まで30分歩いた

歩いている間なんの話をしたか忘れたが 多分受験話とか 花火の話だったと思う


会場に着くと 金魚すくいや射的など をして いるうちにあっという間に花火が始まる時間になった

花火が見えるところに移動した 時

「ちょっとトイレ行ってくるね」

不意に長瀬君そう言い

「え ちょっと 花火始まるよ」

私がそう 言いかけた途端

咲ちゃんと 秋ちゃんも

「私達 りんご飴買ってくるね」

と言い残し

早足で 屋台のある 人混みの中に消えて行っった 何にか変だと感じた


「もう花火 始まっちゃう っていう時間なのにねー りんご飴 さっき買っとけば 良かったのに」

「うん…」

私は 前谷君の反応など気にせず続けた 二人きりになるのは 気まずいため 早口でまくし立てた

「というか トイレって意味分かんない さっき女子行った時行けばよかった じゃん だいたい ここらトイレの場所まで遠いし この間の野外活動の時もそうよ あの時大変だっ……

そう言ってる最中 前川君が急に私の前に立ち 顔を赤くして 恥ずかしそうにしながそれでもはっきりと 私に言った


その時 口笛の吹いたような音がして 夜空に光が舞い上がり 花が開いた


「ドーーーン」


「……………」


「ゴメン 何 花火の音で聞こえなかった 何て言った?」

前川君の言葉は私にはっきりと聞こえていた

前川君は泣きそうな目をしながら 小さな声で 花火を見ながら

「いやなんでものない ただ 花火綺麗だなと思って」

私の目の前には 楽しそうに話す高校生カップルと夜空に儚く消えていく 花火を 悲しそうに見つめる前川君が立っていた

「だよね 花火綺麗だよね あそこに高校生のカップルがいるでしょう あーいうのいいよね いつか恋人と行きたいよね 花火 友達同士も楽しいけどね」

違う こんなことが言いたかった訳じゃない 私も前川君の事が好きだった

「好きです」

この一言が 言えなかった

前川君は小さく頷き 黙ったまま花火を見続けていた


しばらくすると三人が帰って来た

ワザと二人きりにする為に 席を外したのかと 今更気づいた その後はみんな ただ 静かに夏の花火を見ていた


澄んだ夏の長岡の空には 花開いては一瞬で消えていく花火の音と観客の歓声だけが鳴り響いていた



その後のことは覚えていない ただ 帰りの電車内で 秋ちゃんが

「 どうして? 前川君じゃダメだったの?」と小さな声で聞いて来た

その瞬間 電車が揺れ ワザと 前の人にぶつかり

「ごめんなさい」

前の男性に謝った

また

聞こえなかったふりをした

あの時秋ちゃんはどんな顔をしていたのだろう? その顔を見たはずなのに思い出せない

夏休み明け学校では 五人が話す機会が減った

それと同時にクラスがバラバラになったクラスの中心がバラバラになるのだから無理もない

同じ時期 クラスの内でイジメが酷くなった

イジメは前からあったらしいが

今までイジメを止めていた長瀬君が止めなくなったらしい。

先生も見て見ぬフリをしていた

私も イジメがあった事は知っていたが 特に何もしなかった

イジメられていたのは男子でその後 その子は学校に来なくなった

けれど その子の顔も知らない 名前さえも知らない

中学3年生になり 秋ちゃん以外の3人とは別のクラスになった

クラスが変わると 私は学校が楽しくなくなった


5月に入り 前川君が学校にいない事に気づいた なぜ気づいたのかは覚えていない

あまり 中学3年生の頃の記憶はない

8月の夏休み去年行った長岡の夏祭りには行かず 長岡の塾で受験勉強をしていた 行きたい高校に行けるかどうか怪しくなってきた私の成績は中二の夏から下降気味で 秋ちゃんと長瀬君 同じ高校に行きたかった。咲ちゃんは 引っ越してしまったらしい

塾から帰る途中

秋ちゃんと会った あの時以来学校であまり話すことがなくなった

久しぶりに声をかけてみた。

遠くで花火が鳴っている 丁度花火が始まったのだろう

声をかけた私の声は震えていた。

そのまま 信濃川の近くを二人で歩いていると

「どうして 去年の今日前川君に対してちゃんと返事をしなかったの」

不意にそんなことを聞いてきた

私もその答えが出ていなかったし、 そんな事は心の隅に置きっ放しにしていて 考えてさえなかった ただすぐに返事をした

「あのままが良かった みんな仲よかったし 楽しかった 返事をしたら あの関係を守りたかった 壊れてしまう気がしたから」

そう言い訳をした。 また嘘をついた。

何度嘘を言えば いいのだろう。

自分でもわからない

しばらく 黙っていた秋ちゃんが 不意に泣きだした。

「ふざけないで 」

その声と遠くで打ち上がった花火の音だけが 静かな信濃川の土手に広がっていた

「私長瀬君の事好きだったのよ 長瀬君だって あなたのことが好きだったのに 」

そんな事は知らなかった いや今まで知らないふりをしてただけかもしれない

私はパニックに陥った

そんな事は構わずに 秋ちゃんは続ける

「前川君の気持ちはどうなるの

みんなの気持ちは

ねー それで関係を守るとか ふざけないで

結局 前川君 イジメられて 隣の学校に行ったのよ

クラスがバラバラになってしまった

全部あなたのせいよ だから もう あなたの顔なんて見たくないのよ 辛いのよ 長瀬君だって 多分辛いよ お願いだから高校は一緒に来ないで もう 話しかけないで」

秋ちゃんは 私の顔をビンタした その音は花火に音よりずっと大きかった

そして 信濃川の土手 私だけが取り残された 花火はここからでは遠すぎて見えない


気づいた時には 去年 告白された 花火大会の場所にいた


そして その場所には 前川君もいた気がした

気のせいではなかった

そこで 咲ちゃんと前川君が手を繋いで楽しそうに話しながら 花火を見る 後ろ姿が見えた。

その姿をただ眺めていた 声をかけることができなかった

後ろから 声をかけられた 振り向くと

隣の学校で塾が同じ同級生だった

名前なんか知らない ほとんど話したこともない

その女の子は

「 あれ 見て 前川よ そう言えば 咲きも 前川も 昔水野さんと同じ学校だった だよね あの二人 付き合ってるのよ 楽しそうよねー 高校同じ学校行くんだって 推薦で」そう聞かされた私は 頷くことしかできなかった


花火が終わり ぞろぞろと人が帰っていく

また 私だけが取り残された もう花火は 上がっていない


そこから記憶がない

遅く帰り 母に怒られた気もする

ベットの上で横になり

秋ちゃんの言葉を思い出した

その言葉で初めて現実を見ることができた

中二のころ イジメられて 学校に来なくなったその子は前川君であり

ちゃんと 名前も顔も知っていた

長瀬君が変わってしまったのも私のせい

長瀬君は私のことが好きで それでも前川君の告白を手伝ったのに

結局 私のせいで うまくいかなかった。

中二の夏の終わり 長瀬君にも告白された 私は長瀬君を振った 好きなのは前川君だから

その後 長瀬君とは 話してない

長瀬君結局 高校で 秋ちゃんと付き合い初めて

この間結婚したらしい 叔母に聞かされた


咲ちゃんは 親の仕事の都合で 隣の中学校に行った

あんなに仲よかったのに

「さよなら」

の一言も言えなかった

もともと 前川君は中学1年生の夏に転校してきたこともあり あまりクラスに馴染めず イジメられかけていたが クラスの中心の長瀬君がそれを止めていた。

結局 私が決断しないが為に こんな事になってしまった


次の日 私は塾をやめて 夏休み明けの学校にも行かなくなった

現実を見て 行きたい高校がなくなってしまった

学校は楽しくなかった

中学2年の夏までは あんなに学校楽しかったのに


そしてそのまま 高校に行かず 通信制の高校を4年かけて卒業し 家で何もせず2年間過ごしたあとFラン大学に進み 大学でも何もしてない


あの日以来 現実を見る事が怖くなった

「好き」たったこのふた文字が言えなかった このふた文字が言えたら 何か変わったのだろうか この答えは今も出ず

就活用の履歴書を書く手が出身中学校名を書く途中で止まり

涙で履歴書が濡れてしまった

私の時計はあの夏の日以来動いていない


前川君は 国立大学へ進学し就職したらしい

他の三人はは東京や大阪の私立に進学したそうだ それも叔母から聞いた

前川君も 秋ちゃんも 咲ちゃん 長瀬君は

みんな 思いを伝えた 好きです この一言を言葉にできた 私だけが 言葉にできなかった

逃げて 忘れて 逃げて 見なかったことにする

そうやって 現実逃避をして 何の意味があるのか


あれ以来 花火には行ってない

「就職決まっても決まらなくても来年は花火に行こうかな あそこに行ったら何か変わるかもしれないし」

多分行かないし 行ったところで変わらない

そう心では思っていながら

そう言うしかなかった

あの夏の日に戻りたい

そんな 叶わない夢を いつまで私は見れば良いのうだろう?




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