第23話 役立たずはリストラ


強制的にペットを飼うことになりました。

超大型犬のブルーノです。

青みがかった白い毛で瞳は金色のイケメン犬です。

子犬ちゃんです。


って通せるといいなぁ…国境で。

親のシルバと違って、異常なデカさじゃないし、足も毛がふっさふさだから成犬って言えば通るかな?

かわゆらしい声で話すのは、俺的にはいいけど、一般人の前で話さないように言って聞かせなくてはなりません。

躾は大事ですね。

そんなブルーノですが、兄弟にも騎士にも懐いています。

しかし、二人のお荷物とはあまり親しくないようです。

サフランは、聖魔法の力があるので仕方ないにしても、サラまで気に入らないのは何故?


「ブルーノ、サフランはわかるけど、なんでサラにも冷たいんだ?」

《さら、おれよりよわい。》


ああ、犬は序列に厳しいんですね。

ってか、子犬なのにサラより強いとかチートモンスターなんですか!?

俺ですらチートじゃないのに!

犬に負けた!!

悔しいのでブルーノをもふり倒すことにした。

俺も動物大好きです。


「くっ…このままでは立場がないですわね…」

「そのようですね…何とか役に立ち、この場に必要だという事を示さねばっ!」

「次の村で捨てられても文句言えないよね。君たちは。」


辛辣なことを言いながらあざと可愛いスマイルなんてアジュは恐ろしい子です。

まぁ、次の村でってことは考えてないけど、隣国に入ったら状況によっては置いて行こうとは考えてたりする。

俺たちの旅だって道楽でしてるわけじゃないし、これからまだまだピンチになる可能性だって高い。

回復が使えるのは有り難いけど、非力なお嬢様を連れまわすのは、リスクが大きい気がするし。

サラだってポールがいるから影薄いしね。

でも、美形でも男だらけで旅とかってむさ苦しい気がしないでもないなぁ…

かといって二人が華になるかっていうと…残念感漂う。


「はっ!今、エルさんは私たちに対して失礼なことを思いましたね!」

「いや、いつでも思ってるから安心しろ。」

「「酷い!!!」」


酷いのは役立たずさMAXの君たちだと思うよ。

あえて口に出さないけど!めんどくさそうだからね!


こんな呑気に話しながら旅が出来ているのは、俺たちを乗せてくれているシルバのおかげです。

仲良くなったモンスター軍団と狩りを時々しながら森を進んでいます。

ええ、分かっています。

傍から見たら異様な光景ですね。

元の世界で見たら完全なるファンタジー冒険物語の一幕ですが、この世界じゃ魔王ご一行といっても過言じゃない位、恐ろしい非現実的な状態です。

特殊モンスターのシルバとブルーノは、話が出来たり頭が良かったりするけど、他のモンスターは本能で動いている部分がほとんどだから、こうして一緒にいる時間が長いと当然トラブルもある。

時々、好物の女だからとサフランやサラは襲われそうになっていて、それをブルーノが仕方なく庇ってやっている状態。

俺たちは結構安全だけど、二人はひやひやしながら旅を続けているみたいだ。

仕方ないね!

だってお荷物なんだから!

本当にリストラ考えようかな…女の人ってお金かかるって母さんも言ってたし、現在の俺たち一行の財産はそんなにないからなぁ…

これが、俺好みの女の人だったらこうはならないだろうけど…

この二人はなぁ…ダメな後輩感や妹感が抜けない。

俺の方が年下なんだけどね。


《える!もうすぐ、おみずある!》

「水?川とか?」

《この森にある唯一の湖だ。変わった水が沸いている。体を休めていくがいい。》


体を休めることができる変わった水か…

ブルーノに聞いてもプクプクとかシュシュシュとか擬音しか言わないので現地に着くまで正体がわからなかった。


薄暗かった森を進んでいくと木が減っていき、木漏れ日が射す、緑眩しい開けた場所へ出る。

木漏れ日がスポットライトのように一際明るく射す先には、鏡のように眩しく反射する湖が広がっていた。

幻想的で絵に描いた様な光景に息を飲んだ。

鳥の鳴き声や木の揺れる音と共に湖からはコポコポ不思議な音が聞こえてくる。


「綺麗な場所だな…」

《える、ふくぬぐ!おみずはいる!》

「え!?裸であん中入るの!?」

《うん。さき、えるだけはいる》

「俺だけ!?…ええ~……」

《はやく!》


女二人はボーっと湖を見ていたが、ブルーノの言葉に慌てて背を向けた。

うん、問題なのお前らだけだからね。

ブルーノの押しの強さに負けて、シルバの背中から降りて服を脱ぎ、畳まず小さな塊にしておいた。


「役立たずな上にエルの裸覗いたら…この場に置いて行くからね。」


二人の背中に恐ろしいトーンで警告するアジュに、苦笑を浮かべながら素っ裸になって湖に近づいた。

森の中で一人素っ裸…露出の極みだね!

みんなの視線が何となく怖いから後ろ向けないよ!

急かされて言われるまま脱いだけど、1人で先に入らなくてはならない意味をもっと聞けば良かったと少し後悔してきた。

湖に足を付けるとシュワシュワと泡が足に纏わり付いてきた。

もしかして、これって炭酸泉なんじゃないのか?

水を救い上げて匂いを嗅いでから飲んでみると、やっぱり味のない炭酸水だった。


《うん!える、きれいなの!》


ちょ!なんなんでしょう!別に一人で素っ裸で入る必要なかったんじゃないの!?

ブルーノの言葉に驚いて、口に含んだ水吹き出しながら振り返っちゃったよ!

ってか振り返らなきゃよかった。

皆、俺を見ながら恍惚とした表情を浮かべていた…ゾッとする。

そう、皆なんです。

おい、女二人もちゃっかり見てんじゃねーよ!


「全員怖いから女以外、服脱いでとっとと入ってください!!」

『はーーーーい!!』


まったく、ブルーノは油断ならない犬だな!

これからは警戒しなくては!

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