第19話 目的地はホフタ


権力があったり、有名だったりしたら、ハイエナやコバンザメのような奴らが寄ってくるもの。

というのはわかる。

元の世界でだってそんなことは、特別な環境じゃなくても横行していた。

日常から容易く切り取れる関係性、学校や会社だけでなくとも出来やすい嫌な人間関係。

どれか一つでも優れたものがあるとそれにあやかろうと群がる。

群がって相手にされなかったらバッシング等の攻撃をする。

人間ほどえぐいことはないと思うが、動物社会でも少なからずあること。

現状に満足できないが、それを打破するすべを持たないものが見つけると容易くとる方法。


しかし、うまい食事中にそんなクソみたいに面白くない話はマイナスにしかならないので、ポールの話はサラッと流して盛り上がりそうな話題を提供することにした。

そう言う類いの話は、大人になって酒を飲んでほろ酔いから泥酔にシフトチェンジするときにする話である。

素面で話す話題ではない。


「ポールの話はさておき、今後の話を進めよう。

さっき話していた通り、朝になったらホフタ国へ向かことにした。ここからの行き方を知ってる人はいるかな?」

「私なら巫女の護衛で付いて行ったので分かっている。しかし、急がないと国境で止められる。」

「国境を通る以外にないのか?」

「ホフタは、商売が盛んだから国外への不正を防ぐために国境を通る以外入国は難しい。

俺も別任務で行ったことがあるが、一緒に行動していた奴らが言っていた。」


俺の魔力が回復しても、追手を気にしながら国境へ向かい、国境を無事に超えるのは無理に近い。

下手をしたらこうしている間も何らかの連絡手段で国境へ話が言っている可能性がある。

俺たちが重力魔法を使う一派だとは知らせずに犯罪者として国境に国は伝えているだろう。

方やホフタでは、重力魔法を使う一派が逃亡して自国へとやってくるとも伝えられているかもしれない。

ばれないように偽る必要がありそうだな…


「国境へ行く途中に村はいくつある?」

「5つあったはずだ。小さな村が3つと少し大きめの村が2つ。」

「国境に急いでも手を打たれていたらどうしようもないから、対策を取っていこう。

現状、一晩で魔力がどれくらい回復するかわからない。

全回復したとしても都を出たときみたいに、全員で魔法移動には限界がある。」

「エルさんの使う魔法は特殊ですから見当が付きませんが、長距離を大人数にかけて移動は現実的じゃないですね。」

「そこですべての村に寄っていって情報を得ながら対策を固めていこう。」

「それなら、その場その場でお金も調達できたらいいね。」


旅をするにしても、対策をとるにしてもお金があった方がいい。

稼ぐ当てがないこともないけど、これを売ったら一発で足がついてしまう。


氷販売。


ね?すぐに珍しいから噂になって追手に気付かれちゃうでしょ?

結界食器も持続力があるかどうか未確認だしな…

あとは何か売れるものがないか考えないとな…冒険者ギルドに行って依頼を受けるってのはこの国じゃ無理だろうしな…

ってか龍騎士二人には鎧を脱いでもらわないと!すぐに身バレしてしまう!

それに、巫女服もだな!

村に入る前に何とかしないと…ってポールは脳筋だから着替えの類は持ってきてないだろうし、馬車もないから鎧を保管するところもない。

考えることが山積みで嫌になるな。


明日は、朝食を軽く済ませてから兄ちゃんの探索を頼りに獣道を進んで、近くの村を目指すとするか。

んで、歩いている間に、鎧と巫女服をどうするのか話を聞こう。

俺は、マントを被ってるから旅人で通せそうだし、兄ちゃんもアジュもかなりのイケメンだけど、この世界では髪色も目も普通の色なので偽る必要はないだろう。

魔力が回復していたら重力魔法と水魔法で、少し早めに村に着いてもいい。

夕方を目指して村へ入れば、薄明りだから万が一マントが取れても問題ないはずだ。

それに、顔がはっきり周りには見えないだろうから、ポールもサラも身バレのリスクが低くなる。

こう考えると戦力凄くても有名人を連れてるって一番厄介だよな。


痛くなりだしたコメカミを拳でグリグリと抑え、目の前のベルベリの身を頬張った。

うんまい…甘くって喉から体の中にねっとりと染み渡る。

こんなにベルベリって濃厚だったっけ?


「エル?疲れが溜まりすぎてるのかな?」

「フラフラしてるじゃないか…しょうがない。」


膝に乗せていた皿をアジュが俺から取り上げ、ポールがお姫様抱っこで作っておいた寝床へとご丁寧にお姫様抱っこで運んでくれた。

なんだろ…体が重くて指を動かすのも怠い。

いろんなことがありすぎてダメダメだな。

もっとベルベリ食べたかった…


「みんな…明日は…ちゃんとするから……」


何か周りが話してるけどよくわからない。

ゆっくりと意識が暗闇へと落ちるように引き込まれていった。

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