第18話 ディナーは楽しく


一息つくことが出来たから、少し前までの村の日常生活を思い出していた。

村では、獣やたまに見かけるモンスター、自生している植物や果実、野菜を食べて毎日を送るという事が当たり前だった。

現状、追われる身であり、家族とも離れ離れで家もない状態だが、食についてはあまり変わらないように思う。

天気が良くて星が流れる夜には、家族みんなで外ディナーしていたくらいだ。


肉類以外は、兄ちゃんが採ってきたベルベリとキノコ数種、自生してた芋数個か…さすが兄ちゃん!!短時間で素晴らしい!!

探知があるからって言っても凄いよ。

まぁ、村にいた時から食材を探してくるのは、兄ちゃんが一番うまかったけど、今日はまた一段と凄いな。

腹も減ってきたことだし、早く調理して食べてしなわないと、丸焼きモンスターの匂いに釣られて獣モンスターフェスティバルになってしまう。

一応龍騎士が二人もいて、兄ちゃんも火の魔法を使うアジュもいるから、命にかかわるようなケガをすることはないと思うけど、血なまぐさい中で一晩過ごすとかゾッとする。


「それじゃ、料理しようか。」

「え?焼くだけじゃないのか?」


何言ってんのこの女騎士!!

バカなの!?料理できないアピールなの!?

驚愕の表情をサラに向けていると、サラの隣にいたはずのサフランが一歩後退して背を向けた。


「この役立たず女共!!!!!料理もできねーのかよ!!!」


吠えながら二人の背後に回って頭をベシベシッ叩いてやった。


「お前らは、そこの丸焼きを食ってろ!俺たちはちゃんとしたもん食うからな!」

「そんな!私たちは、料理以外ならできます!掃除とか洗濯とか!」

「今、何の役にも立たないだろうが!!」

「くっ!…ならば…私だけでも慰み者にするがいい!!」

「しないことわかってていうんじゃねー!!!もう少しちゃんとした頼み方があるだろうが!」


サラが鎧を脱ごうとするが、なにぶんゴッツイ鎧を脱ぐデカい女に欲情するほど僕は成熟していません。

あ、ポールは?

一人がっつり大人がいたことを思い出して視線を向けたが、さっぱり興味がないようで黙々と取ってきた鳥の羽毛を毟っていた。

よく聞くよ。

戦士とか冒険者なんて職業だと異性感は皆無になるって…ギルドのおっちゃんたちが言っていたのは本当だったんだな。


サラとサフランは、俺の言葉と態度で地面に正座して頭を下げた。

土下座ではないです。

両手を伸ばして上にあげて、神を称えるこの世界の所作です。


「うむ。仕方がないから今日だけは許可しよう。明日からは、お前たちも狩りに行くように!」

「「はい!!」」


二人は無邪気に両手を合わせてはしゃいでいるが、本当に食べられるものを持ってこれるかは謎である。

食事に置いての戦力外女性陣に絡むのをやめ、ポールが山積みにしている羽毛をマントで包んで即席の枕を作った。

この鳥は、羽を毟っても血が付かなくて布団や枕にするにはもってこいの素材。

ギルドでバイトしていたから知ってるんだよね…何事も経験大事!ありがたやありがたや。

ふっかふかの枕を自分が横になっていた場所に置き、料理を黙々と始める男性陣に近づいた。


「ポール、鍋とか皿とか買ったか?」

「いいや、荷物になるから買わず、調味料だけにしておいた。あとはナイフだな。」

「そうか…確かに身軽で移動距離を稼ぎたいからな…」


匙がないのは仕方がないとして、皿や鍋やコップがないのは困るな…

この世界の食器は、木製か陶器でガラスは窓か薬の瓶にしか使われていない。

他の国ではわからないが、俺の国ではガラスの加工技術が進んでないから古典的な

加工で、薬の瓶も試験管に近い形に、液体が漏れないよう栓はコルクである。

プラスチックとかないかなぁ…

あれば軽いし、丈夫だから持ち歩いても大丈夫なんだけどな。

せめてそれに近いものでもあればいいのに…

諦めかけた時、俺の視界にサフランが入り、今日の出来事がフラッシュバックした。

まてまてまて!!

俺はそれに近いものに今日遭遇したじゃないか。


「サフラン…喜びなさい。君はこの旅でとても役に立つ技術を持っていることに気が付いたよ。」

「え?私でも役に立つのなら何でも言ってください!頑張ります!!」

「そうかい?それじゃ、俺の両手に結界を張ってくれないだろうか。

そうだなぁ…一回り位大きい円形で。」

「結界ですか?は…はい…サンクチュアリ サークル」


俺は両手を伸ばし、肩幅くらいに開いてみた。

そうです。あのラップ結界は時間が経つと固まります。

皿の形に形成していくつも作れば、お皿の完成です。

それに、聖魔法の結界だから火にも強い耐熱性の高いガラス鍋も作れちゃう!!


「サフランや…ごらん?結界が食器に大変身!!!!」

「なんてことでしょう!!!エルさんは大天才じゃないですか!!!」

「そうだ!もっと俺を崇めたてるがいい!!」


調子に乗ってサフランとはしゃぎながら結界食器や鍋を作っていき、ディナーに大いに貢献したのだった。

サラ?アイツは結界皿を形成するセンスがないので、一枚目を失敗してから見張り役に任命した。

適材適所である。

ポールと兄弟たちが器用に料理を作り上げ、地面に広げられた何枚もの寝具用マントがいっぱいになるくらい料理が並んだ。

俺は、最後の仕上げと言わんばかりに人数分作られ、美味しい水の入ったコップに氷を数個入れていく。


逃亡中、モンスターや獣がうろうろする森で食べるディナーではないくらい豪華な食事。

結界食器は、ラップの透明度そのままなので純度の高いガラス皿になり、コップもクリスタルのよう。

鳥は、照り焼きにされて焚火の明かりでますます輝いて見える。

モンスターは、鍋でキノコや芋と煮られて塩と胡椒の効いた大人好みのスープになっていた。

兄ちゃんの話だと丸焼きになっていたから血抜きが出来ず、獣に近い臭さが肉に付いていたので胡椒を効かせたそうだ。

俺の大好物のベルベリは、更に山盛りにされて俺の座る側へ置かれた。

アジュの配慮である。

アイツもベルベリ好きなのに…可愛い弟だ。


兄ちゃんが、最後に腰を下ろすとサフランへ目くばせをした。

食事の前は必ず感謝の祈りをする。

家族だったら一番年が上のものか、家長。

聖職者がいる場合は聖職者がするのが常識である。

今回、何にもしていなかったら兄ちゃんにお願いしたかったが、結構頑張って結界食器づくりをしていたので認めてやろう。


「大陸の偉大なる神よ この食を生きる力とし 感謝して頂きます」


掌を全員下へと向け、頭を下げる。

祈りの後にする一連の流れで、この国の食事マナー。

簡単に言うと元の世界でいう「いっただきまーす」である。


「兄さん、アジュ、このスープ美味しい!特に肉!」

「エル、キノコを残さないで食べるんだよ?」

「え…苦手なのに…」

「なんだ、エルもまだまだ子供なんだな。」

「子供に決まってんだろうが!12歳だぞ!おっさんモブ騎士とは違うんです!!」

「モブ騎士いうな!…あ、鳥の方はどうだ?」

「悔しいけどおいしい。よくこんな調味料仕入れたな。石鹸にしても薬にしてもポールの癖にやるな!」

「素直に褒めろ!…調達したものはみんな馴染みの店で揃えてもらったんだ。外観はあんまりよくないが、店主が気のいいやつでな……唯一、打算なくよくしてくれた人だ。」


龍騎士ともなると有名人だから色々あるんだろうな。

あんな腐敗した城じゃ、打算計算で近づいてくる奴らばっかりだっただろう。

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