第17話 森はご馳走てんこ盛り


森に入って1時間もしないで辺りが真っ暗になった。

アジュが気を利かせて俺の前と兄ちゃんの前に火の玉を浮かべてくれている。

火の光のおかげでもう少し進めそうだ。

あとひと踏ん張りして野営できそうなとこを探すかな。


「アジュールさん、巫女にも明かりをお願いできないだろうか?」


堪りかねたサラが勇気を出してアジュにお願いしたが、アジュは知らん顔で俺の腕に絡み付いてきた。

嫌なんですね。分かります。

でも、アジュと俺の尻の将来の為にも、女性に優しくしなくてはなりません。

このままでいったら女性に対してみんなこの態度になってしまいそうで怖い。

折角母さんに似て美人なんだから、残念イケメンにならないように教育しなくては!


「アジュ、出してあげて?」

「エルは甘いんだから…仕方ないなぁ」


腕に絡み付いたまま、溜め息を吐くと共に火の玉をサフランの前に出した。


「アジュ、俺も欲し「何言ってんの!?意味わかんない!」」


ポールには手厳しいようです。

食い気味で拒否とか問答無用すぎてポールがかわいそうになった。

仕方がないのでポールのそばを歩くようにしてやったら、アイツ半泣きして俺に頭を下げた。

うちの弟がすいません。

末っ子で我が儘放題だったもので…


「そういえばお腹空いてきたな…」

「エルは、ずっと食べれなかったし余計じゃない?」


お腹を摩って情けない声を出す俺に、激しく優しい兄ちゃん。

優しいのは言葉だけでいいよ。

頭やお腹を撫でなくていいです。

ついでに頭の匂いをかがないでください。

花石鹸の仄かな匂いがお気に召したようで、さっきから事あるごとに兄ちゃんやアジュ、ポールまで匂いを嗅ぎに来る。

更に、女性陣もなぜか風下へ移動している。

雑巾臭くなくなったのはいいけど、フローラルになったとたんハーレムみたいになるのはやめて頂きたい。

こんな匂いがしていたら獣やモンスターが寄ってきちゃいそうで困るな。


いや、困らないか。

俺は腹が減っている。

逞しく図太い神経に進化した今なら、虫やベタベタしたもの以外何でも食べられる。

ポールの奴が、石鹸を買ってるってことは調味料も当然買っているだろうし、寄ってきてくれた方が食材を探しに行く手間が省けていい。

あー…一回意識すると空腹にしか頭が動かなくなる。


「兄さん…獣の気配とか感じない?空腹で気持ち悪くなってきちゃった…」


猫なで声を出して兄にしな垂れかかり、目を潤ませながらおねだり攻撃に出る。

魔法も使えないし、疲れたし、足元がフラフラしてきて兄ちゃんに頼るしかなくなってきた。

兄ちゃんは、嬉しそうに輝きそうな微笑みを浮かべて俺を抱きしめる。


「エルは、甘えん坊さんだね。」


くふくふ笑い声を漏らしながら頭に鼻を擦りつけている兄ちゃんに、殺気に満ちた目を向けてくる小さい影が目に入った。

アジュールは、見たこともないような顔で俺たちを見た後、あざと可愛い笑みを浮かべ。


「エル、俺がおいしいお肉を取ってきてあげるよ。こう見えても狩りは得意なんだよ?」

「俺も野営は慣れているから何か食えるものを取って来よう。」

「ちょっと!俺が採ってくるって言ってるのに!!」


ギャイギャイ騒がしく会話をしながら先に進むと野営に丁度良さそうな場所へ出た。


「ここで野営しよう。ポールとアジュは元気そうだからご飯探ししてきてくれる?

エルは、ご飯ができるまでそこの草の上で休んでなよ。

俺は薪になりそうな枝と探知で見つけられた獲物を捕まえる。

女性陣は………エルから離れて休んでて。」


兄ちゃんも女性陣の扱いに少々困っているようです。

全く役に立たない巫女とポールには劣るけど護衛役くらいしか務まらない女騎士だもんな。

俺は、濡れているマントを木にかけて、兄ちゃんに言われた通り草の上に横になった。


「むー…なんだか空腹と疲れで変に頭がさえちゃうな…」

「早く戻るようにするから待っていろ。」


ポールがデカい手でわしゃわしゃと俺の頭を撫でて暗い森へと入っていった。

アジュールは、辺りに散らばっていた小枝を集めて火をつけると浮いていた火の玉を消して、ポールに負けないようにと後を追う。

探知の魔法が使える兄ちゃんは、二人の位置を確認してから逆方向へと消えていった。


「暇だな…サフラン、なんか話して」

「何かって……それでは、他国の話でもしましょうか?」

「いいね。サフランは他国に行ったことがあるの?」

「はい、この大陸の国ならば…他国にも巫女や呼び名は違いますが、聖女、聖者、御子がいらっしゃいますので、3年に一回大陸の神を崇めるために集まるのです。

平等に大祭をする為、時計回りに順番で開催国を変えるんです。」

「初めて聞いた…田舎じゃそんな話聞いたことないな。」

「国民にはあまり馴染みのない大祭なんです。大祭とは名ばかりで、不穏な動きはないか、変わったことはないか腹の探り合いのために行われるようなものです。

王族も大臣達も神がいると本当に信じている人は少ないから、そんなことばかりで時間が過ぎてしまいます。」


俺からしたら罰当たりな奴らだと思う。

この世界の国民は大陸の神を崇めている。

小さなころからお年寄りや大人達からそう教えられてきているからだ。

魔法も神が与えた宝だと考えられているのもその一つだ。

しかし、国のトップたちがその考えだったら国民は暴動を起こすだろうな…


ってか…この世界の神って俺の転生に関わったあのドジッコじゃないよな!?

いや、きっと違う。違うに決まっている…よし!考えに蓋をしておこう。


「前回の大祭は、隣国のホフタです。

この国と一見似ていますが、みな親切で手先が器用で、装飾品や美術品の生産が盛んでした。

森と鉱山に囲まれている景色のきれいな国です。」

「ホフタか…サラも行ったのか?」

「私は常にサフラン様に付いているからな…あの国はきれいだった。表向きはな。」

「というと?」


草や木の枝をかき分ける音が聞こえ、金属が擦れる音が聞こえた。


「ホフタは、奴隷商売が盛んだ…特に、人間以外の種類なら何でも奴隷として売っている。町や村ですら売ってるくらいだ。」

「ポール…話のいいところを突然持っていくなよ…サラが超ご立腹だぞ。」


サラが、目にいっぱい涙をためて顔を真っ赤にしてポールを睨みつけて、腰の剣に手をかけていた。

こういうところが、サラは可愛いと思う。

悪気の全くなく空気の読めないモブ騎士は、担いでいた大きなダチョウのような鳥を地面に置いて、サラに頭を下げ許しを乞っていた。

うちのポール頭弱い子だから許してあげてください。


「それにしても奴隷か…ふむ…目的地をホフタにするか。兄さんやアジュに聞いても場所の情報は得られなかったし…もしかしたら奴隷に紛れて精霊使いがいるかもしれない。」

「確かに、いろんな種族が居るので情報を得るにも有効かと思います。」


サフランが真っ先に賛同するとは意外だな。

てっきり、奴隷なんて見たくないです!とかって言いそうなのに…意外に潔癖お嬢じゃないのか?


「俺もアジュも賛成だよ…エル、エルの好きなベルベリがあったよ。」

「本当!?嬉しい!!兄ちゃん、アジュ有難う!」


ベルベリってのは黄色いサクランボみたいな形の果実で、低い木だからなかなか見つけられない。

低い木だと獣が真っ先に食べちゃうからね。ちなみにモンスターは食べない。

甘いブルーベリーみたいな味なんだけど、モンスターは眠ってしまう成分が含まれているようだ。

アジュくらいのときに、森で会った虫型のモンスターに無理やり食べさせたら寝ちゃったんだよね。


「ベルベリ…そんなに沢山見つかるってことは、やっぱりモンスターが多い森なんですね。」

「そうなんだ…だから俺とアジュの獲物は、モンスターの丸焼きです。」


兄ちゃんとアジュから香ばしい良い匂いがしてると思ったら、そういう事か。

二人は火の側に、豚のようなイノシシのようなモンスターを置いた。

うん!きっとアジュが仕留めて、持ち帰れなくて兄ちゃんに手伝ってもらったんだな…

旅の初日のディナーにしては完璧じゃないか!

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