第15話 素直は美徳

復活早々、新たなる旅立ち前に腹の虫が納まりません。

そりゃさ、前途多難な旅立ちではあるとは思うけど、こんなにイライラした旅立ちってなかなかないんじゃないのかね!


魔力は空に近い状態だったのに、何故か憎悪が大きくなると共に少しずつ復活してきました。

アドレナリンと魔力って近いものがあるんですかね。

何処かで調べる機会があったら学者あたりに問うてみたいです。

そして、脳筋ポール君は偉大です。

逆さ吊りにして振り回したいくらいです。

それだけじゃなく、新種のモンスターとうそぶいて国に突き出したいレベルだ。


「さて、話してもらおうか…洗いざらい」


―ズゴンッ!!-


普段とっても温厚な俺も人の手の上で踊らされるってのは、我慢ならんわけだ。

ブチ切れ過ぎて、二人を括った岩の隣にある木に、重力魔法をかけちゃいました。

今迄、重力魔法で出来なかった無唱です。

スキルアップしているようです。

少し浮くくらいは無唱でいけたんですけどね。

木の周りにクレーターができ、ミシミシ音を立てて気が砕けた。


「俺はさ、正直者が好きだよ……意味わかるよな?」


自分でも驚くくらい低い声を出し、怯えて口をパクパクさせている二人を睨みつける。

もはや、女性相手にはジェントルマンというフェミニストな自分は忘却の彼方へと飛んでいき、対生物というように認識がズレていっている。


「正直に言います!だから、その魔法だけは勘弁してください!!」

「私はただ、巫女のことを助けたくて同僚であり、同期のポールに話したんです!そうしたら、ポールが貴方を氷のまま連れ出して、離れた土地で聖魔法を掛けるならと話を持ち掛けてきたんです。」

「ほー…ポールがね…」

「あのそれだけじゃなくて、氷漬けの貴方が運ばれてから、何年も寄り付かなかった大臣達が神殿に来るようになって、他国へと攻めるかどうかと話しているのをサラが聞いて、それも含めてポールさんへ話したんです。」


つまり、ポールはモブなりに俺の身を案じていたという訳か。

だけど、絶対に兄ちゃんには言ってないな…まぁ、国家機密だろうから一村民には口外出来ないだろうけど。

ポールの奴、ああ…なんて可哀想なんだ…

普段の行いがあんまり知的でないから、俺のことを思って動いているなんて兄ちゃんにはきっと理解されていない。

今頃兄ちゃんだけじゃなく、アジュにも締め上げられてるに違いない。


「つまり、逃げ出したいが機会がなく、それを待っていたところにポールが来たと。俺が国に利用されるかもしれないとポールに言って不安を煽り、自分たちを助けてくれたら俺を助けると秘密裏に公約を結んだと…」

「いえ、たまたまなんです!!たまたまそういう流れになってしまっただけなんです!」


まぁ、真相が分かった以上いじめてもよろしくないか…

ポールも今頃、俺の愛しい兄弟たちにお灸を据えられていることだろう。

んー…お灸だったらいいね。


「まぁ、いい。仕方がないからその話に乗ってあげよう。だが、精霊使いの場所が分かり次第切り離す。」

「そんな!お願いですから私たちに安住の地が見つかるまで同行させてください!」

「俺に何のメリットもないだろうが!実際、蘇生は自力だし、お前達とは初対面で、とんだクソ茶番劇に付き合わされたんだ!」

「仕方ないじゃないですか!一応、監視の目とかもあったりするんですから!」

「じゃぁ、今は監視の目がないのかよ!」

「「………」」


無言で顔面蒼白になってんじゃねーよ!

はい、だめっこ炸裂!二人揃ってうっかりかよ!

でも、さっきの兄さんの様子だと探知できないわけない。

それとも探知も掻い潜れる位の手練れが監視についていたのだろうか…


どっちにしても一刻も早く逃げ出さないとダメじゃないか!

父さんと母さんも探さないと…人質にされたら敵わない。

アジュがここにきたってことは、城に父さんも母さんもいたはずだ。

兄さんたちを悠長に待ってる場合じゃないな。


「お前たちは、ポールを探してくれ。俺は、兄さんとアジュを探す。二人に両親の行方を聞かなくてはならない。

万が一、真実が国の奴らに知られたら、両親を人質に取られて身動きが取れなくなる。

お前たちも事を企てたとして処刑される可能性もあるぞ!

落ち合うのに良さそうな目印になるようなものはあるか?」

「えっと、城下町の東門の側に木が三本並んで植わっているところがあります。

東門は、門番として立っているのは、騎士団ではなく兵士です。」


流石、こそこそと計画を練っていただけのことはある。

話を聞きながら、手早く二人の腰ひもを解き、自分に身体強化魔法を掛けた。


「最悪のシナリオを考えると一刻を争う。何もなければそれでよし!早々にこの国を発つ。」

「準備も十分にできないという事ですね…」

「ぶっちゃけ、本当は準備なんてもんはいらないんだよ。

俺は生活する程度だったら、水魔法ができる。アジュは火の魔法が使える。森や林で獲物を取れば、食うにも飲むのにも困らない。ナイフの一本でもあれば十分だ。

でもまぁ…しいて言えば、調味料とか布系は欲しいけど、なくてもやっていける。」


はーっと感心したように二人揃って息をつき、気を取り直したよう、ほぼ同時に自分の頬を叩いた。

気合を入れ直したようで、先ほどの情けない表情から凛々しい表情に変わった。


「それでは、私たちはポールさんの元へ急ぎます!」

「では、またあとで!」


手を上げて答えてから、風に乗るように一本道を走り出した。

ぅう…本当に苦手だ…魔力よりも精神が抉られてく…

城を横目に見て、マントを頭から被って身を隠すように茂みの中を通り、頭が痛くなりそうになったころに繁華街の入口へと辿り付いた。


「あったま痛い…」


魔法を解除しても頭痛は続き、魔法で口に入るくらいの小さな氷を出して、掌で隠しながらこめかみに当てた。

製氷技術がないこの世界では、北の大陸へ行ったら珍しくもないが、それ以外の大陸ではとても珍しい。

だから、そんなものを持っていたら大騒ぎになってしまう。

絵とか本の挿絵でしか人々は知らないから都市伝説だね。


「さて…情報を集めるには酒場ってのが鉄則だけど…アジュ同伴じゃ無理だよな。」


村では見たことがないほどの人の多さと、着ているものの質の違いに驚きを覚え、本当に田舎の村だったんだなと改めて実感した。

ただし、色合いは森に棲んでるモンスターのおかげで村の方がカラフルだけどね!!

ふん!負け惜しみなんかじゃないんだからね!


色々なものに目を奪われていたが、誰に呼び止められたわけでもないのに、足を止めて人気のない路地への入口を見た。

兄ちゃんならこっちのいくだろうな。

表通りの露店や、商店、通行人が精霊使いの行方を知っている可能性よりも、裏路地にいるヤバそげな奴の方をあたるだろう。

今は時間がないから、噂話情報よりも金等で手に入る確実な情報だな。

マントを目深く被りなおして吸い寄せられるように裏路地へと入っていった。


路地に入ると表通りとは違う雰囲気に息を飲んだ。

臭いも路地裏特有の悪臭。

進めば進むほど建物が古くなり、人の気配もしない。

一本入っただけで都とはこんなに格差があるものなのか…

俺の村は田舎だったし、建物は形も素材もバラバラだったが、昼間なのに宵の口のようにこんなに薄暗く、悪臭漂うところはなかった。

華やかな都というイメージは、もしかしたら表面だけなのかもしれない。

なんでも集まりすぎはよくないのかもな。

人口が増えれば、それだけ個性を持った者たちが集まってくる。

いい奴もいれば悪い奴もいるわけだ。

やはり、何事もそこそこが大事だ。

劣悪な環境のせいで様々な悪臭が漂い、嗅覚は一向に慣れることはなくしんどいのでマントをマスク代わりにして口や鼻を覆った。


うん!臭い!あれだよ!雑巾臭!あれれ?俺すっげぇ臭いよ!


涙目になりながら、どちらにしても臭かったので覆うのをやめて、早急に兄弟を探した。

探すってことは、左右を見るわけで、その動作をすると周囲のアンモニアっぽい悪臭と自分の雑巾臭を鼻が行ったり来たりするわけで…種類の違う悪臭の狭間にいるって、結構拷問に近いよ。


それにしても兄ちゃん、よく俺を抱きしめたな…愛って偉大だね。

兄ちゃんからの愛を感じながら絶対に旅立つ前に石鹸を買うことを心に誓った。

悪臭は迷惑だからね!

つか、美少年が悪臭放つとか聞いたことないよ!


しばらく警戒しながら薄暗い路地を歩くと、急に建物がなくなり、広場のように開けてきた。

いきなりの日の光に目を細め、眩んでいた視界がだんだん回復してくると目の前に、雨風で晒され過ぎたのか、色あせた灰色のテントがあるのが見えた。


怪しい…それ以外に表現のしようがない。

そんな怪しげなテントの入口から見慣れた人達が出てきた。


「兄さんとアジュは居るかもしてないって思ったけど、父さんと母さんも…どうしたの?」


両親に顔が分かるようにと被っていたマントを取り去り、四人の元へ駆け寄った。

青人間な息子を受け入れてくれるか些か不安はあったが、兄ちゃんとアジュが受け入れてくれたんだから平気だろう。と自分に言い聞かせた。


「あら、エル君!話に聞いていた通りすっかり青いわね。」

「本当だな。ライルの話を聞いて冗談かと思っていたら…お前は落ち着きがないね。」

「聞いたって俺以外の話も聞いたんだよね?」


そうです。ぶっちゃけ俺の容姿はどうでもいいです。

抱きつこうとしてきた母親の腕を避けて間を取る。


「なんで逃げるの!?ママ、エル君が臭くても平気よ!」

「ちょっ!そこまで兄さんから聞いてるんだったらやめて!俺は平気じゃない!思春期の男の子としては心が張り裂けちゃうから!」

「母さん、エルが嫌がってるからやめてあげてください。」


兄ちゃんは、流れるような動作で俺と母さんの間に立ってくれ、ホッとしていたら肩を抱かれた。

あ、嫌がらせですか?お兄様…

涙目で顔を見上げるが、物凄い爽やかな笑顔しか返ってこなかった。

兄ちゃんが、母さんに俺のこと臭いって言ったんだよね?そうですよね?

宣言通り、見事にハートブレイクして泣いている俺のことなど、お構いなしに話が進んでいくのは、村にいるときと変わりないですね。


「あ、そうそう。お兄ちゃんとアジュから話は聞いたわ。

私とパパは別ルートでちょっと探ってみるわね。これでも昔はパパと冒険者だったんだから!」


ムンッとピンク色のワンピースの袖から腕を捲り上げて力こぶを見せてきた。

お母さま、普通の女性はそんなムキッとした力こぶは出ませんよ?

父さんはうっとりと母親を見つめている。

この夫婦って謎が多いな…子供としては知りたくないけど。絶対パンドラの箱系な気がする。


「それじゃ、父さんも母さんも早めに都を出た方がいいかもしれない。

兄さんもアジュもポールと合流次第すぐに出るよ。」

「随分急だね…あのアホ二人がうっかり何かどっかに漏らしちゃった?」

「ああ、兄ちゃんがポールをボコった原因?」


やっぱりボコったんだ…仕方がないよな。

大丈夫!ポールタンは、脳筋だけど龍騎士様だもん!


「漏れたかどうかはわからないけど…監視が付いていたらしい…」

「監視ね…付いてない方がおかしいよね。俺の探知でも引っかからなかったってことはヤバいかもしれない。」

「やっぱり引っかからなかったか…兄ちゃんならもしかしたらって思ったんだけど…」


嫌な予感が的中!これは、いよいよ急がなくてはならなくなったな。


「ところで兄ちゃんたちはこのテントで何してたの?」

「俺も父さん達もお前のことを調べるので、都に長く滞在していたから知ったんだけど、このテントは闇ギルドだよ。」

「闇ギルド?聞いたことないな…」

「闇ギルドは、金や情報、あとは貴重な貴金属、薬や素材、奴隷やモンスター需要があれば何でも扱う違法ギルドだよ。まぁ、違法といってもこの国じゃ合法も変わらない…それだけ内部が腐ってきてるんだ。」


父さんも兄さんも眉間に皺を寄せて険しい表情で遠くから見える城を見ていた。

アジュと母さんは少し寂しげに苦笑して、歩くことを促すよう俺の背中を押した。

そうだ、この場から離れてポールたちと合流しなくては。


「俺たち兄弟は東門へ向かいます。父さんと母さんは?」

「私たちは、地下水路を通っていくわー。地図も手に入れたし、旅の一式セットも購入済みだからすぐに発つわね。」

「東門なら警備が手薄だが、正面切って出ていくのは難しい。隙を見て塀を越えていきなさい。」


俺のせいで結局みんなに迷惑をかけ、その上、一家がバラバラになってしまう。

二人に大きく頷いて見せてから申し訳なさに、どうしても表情が曇ってしまい、情けない顔になってしまった。


「父さん、母さん…こんなことになってごめんね。」


言い終わった瞬間、母さんが見たこともないくらい怖い顔で俺に近づき、涙を流しながら頬を抓ったつねった


「バカなこと言わないの!エルグランが命がけで魔法を使わなかったら皆死んでいたんですよ!あなたは間違ってない!誇りなさい!」


いつもと違ってしっかりした口調で言った後、俺を抱きしめた。

懐かしい花の匂いと柔らかな感触に鼻の奥がツンッと痺れた。

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