第14話 旅立ちは準備が大事


結論からいうとアジュールも同行することになった。

まったくもって酷い話だ。

兄ちゃんがもう少し反対するかと思っていたのに、本当に最初だけ建前的に反対しただけで、アジュが火の魔法でピンポン玉大の火の玉を宙に浮かせ、くるくると浮遊させてから消滅させる大道芸のようなものを見せたら、満面の笑みでOK出しちゃうんだもんなぁ…

エンジェルスマイルに反旗を翻すようなことを言えるほど、俺はアイアンハートじゃないわけよ。


にしてもだよ…お兄様、俺のお尻のピンチを察してください。

俺が村で話し合いに参加しようとした時、一番最初に反対していた意外に常識人なポールは、意外や意外、反対することなくあっさり受け入れたので驚いた。

かーなり納得がいかなかったので、わき腹をつつく地味な嫌がらせをしながら理由を聞いたら…


「お前たちの弟なんだから普通と違うんだろ?」


と意味もなく、俺は何でも理解できてる大人です的なドヤ顔で言い放った。

普通代表みたいな顔してるくせに、スペック高いモブ騎士に言われたくない。

しかも最近覚えたドヤ顔で。

兄ちゃんとアジュは、俺のような転生者じゃないから、ちょっと優秀なだけだと思うんだけど…多分。


サフランとサラは、アジュという子供がいたら自分たちに酷いことはしないだろうと言ってすぐに賛成していた。

ぶっちゃけ、お前らには聞いていないし、酷いことというのが何なのか分からないが、無駄な労力を割く価値もないという事をそろそろ理解していただきたい。

アジュが居ても居なくても扱いが変わることがないと何故わからないんだろう。

人質のくせに、癇に障るくらい生意気なので、舌打ちを盛大にして怖がらせてやった。


それにしても、道連れにするのにあまり抵抗を見せない二人に、少し不安を覚えて聞いてみると、予想通りの答えが返ってきた。


「私と巫女様は、女という立場で大臣や仲間達から軽視されてきたのは事実だ。

つまり、お前たちをみすみす逃したら何を言われるか、何をされるかわからない。

かといって全力で止めに入っても無駄だと分かった…ならば大人しく人質になり、隙を見て逃げる!

そして、お前たちに関する情報を売って地位を上げる!」


やっぱり、騎士は筋肉で脳みそが出来てるんですね。

逃げるとか情報を売るとかぶっちゃけすぎだろ。

使えない女を連れて歩き続けるのもリスクしかない。

精霊使いの行方が分かり次第、適当な村にでも、町にでも、辺鄙などうしようもない場所にでも、いいところを見つけ次第置いて行くかな。


「安心しろ。逃げて欲しくなったら隙を見せまくるか、黙って村か町に置いて行ってやる。ちゃんと旅費も渡してやるから安心しろ。」

「なんですって!?道連れにしておいて置いて行くんですか!?お情けで逃がすんですか!?」

「いや、お前ら連れ歩いても目標定まったら邪魔だろ。情報売るとかそこの騎士が言ってたじゃないか。」

「それでは私たちのプライドに傷がつく!」

「この時点でプライドとか粉砕してんだろ!めんどくさいな!」

「エル、めんどくさすぎるから奴隷にしてお金に変えちゃう?」

「「いやぁああああああっ!それだけはやめてください!!!!」」


兄ちゃんの容赦無い提案で二人は泣きながら悲鳴を上げ、俺は騒がしさに額を抑えた。


「兄さん、二人を嫌っているのはわかりますが、あまり怖がらせないでください。それこそめんどくさいです。」


村で女豹共に言い寄られていても、張り付いた笑顔以外の表情を女性に見せなかった兄ちゃんがこれほど表に出すとは…二人には早く学んで大人しくなってもらいたいものですな。


話の方が付いたのを機に、壁に貼り付けにしていた二人を解放して、俺の腰ひもと兄ちゃんの腰ひもで両手首を縛り、奴隷のように手綱をポールが握った。

モブ顔が嫌そうに歪んでいます。

分かります。

俺がポールの立場でも嫌だよ。

現段階で力が強い大人は、ポールしか居ないのだから仕方がないと諦めて頂き、美人奴隷を連行しているモブ兵士でいってもらうしかない。


「さて、どうしよっか!とりあえず旅に必要なものを調達するのと精霊使いとこの国、あと他国の情報を集めないとな。」

「それなら、この二人の見張りと物資調達役、情報収集役に分けるしかないね。」

「エルは、ここに運ばれてきた時と見た目が違うからで歩いても大丈夫そうだけど…ちょっと光が当たると目立つかな?」


さっきからアジュが見た目が変わったと連呼しているがそんなに変わっただろうか?

髪の長さも変わってないし、視界の高さも変わってない。


「アジュ、さっきから俺のどこが変わったっていうんだ?」

「エル、気づいてないの?髪の毛の色も目の色も違うよ?暗い所にいると黒い髪に見えるけど、日の光が当たるとすっごく青いよ?あと目も水色になってる。空みたいできれいだよ。」


あれ?何言ってんの!?そういえば、髪の毛短いから視界に入らないんだ!それに鏡もないから確認取れない!!


「本当に!?そんな…なんでそんな青人間!?………ああああああああああああああっ!!!」


そういえば、アイツなんか言ってた!サービスって!バカなの!?

見た目変えるんじゃなくて中身変えろよ!!!!スペック上げろよ!


「エル?大丈夫?見た目が変わってもエルはすっごく美人だよ?」

「そうそう。美人に変わりないし、それに変わったの二回目だったから驚かなかったよ。」

「二回目!?」

「お前は気を失ってたからな。俺が駆けつけた時には髪も肌も唇も真っ白だったぞ。」


俺はカメレオンかなんかなのか!?

真っ白も嫌だけど真っ青も嫌だ!!!!なんで俺の好きな色、茶系じゃなかったんだ!!

いくら異世界でもこんな色は目立つ!

四つん這いになって絶望しているとアジュが優しく背中を撫でてきた。


「俺は、エルのその色好きだよ?だから落ち込まないで?」

「ああ…うん…」


ぞわっとした何かを感じたのでアジュと距離を置きながら立ち上がった。


「……俺は、目立つだろうからこの二人を見ておくよ。一番適任だと思うしね。

兄ちゃんとアジュは情報を。ポールは物資調達後二人と合流して。」

「「「了解!!」」」


早々に三人を送り出して岩に腰ひもを括り付け、一休みするように地面へと腰を下ろした。

はー、復活して早々これはしんどいなぁ。


「あの、馬車とかの確保はどうするんですか?」

「それに、今すぐ発つのは無理だろ。日が傾きだしたら、いくら都の周辺でもモンスターや野獣が出る。」


さっきからおかしいんだよなぁ…嫌がるどころか少しノリノリな感じがするし、目の輝きが時間が経つごとに増してる気さえする…

もしかして、こいつらも国に愛想尽かしてんじゃないのか?

第一、こんな離れたところの神殿って…しかも、龍騎士はどの団体にも所属しない自由な役職だ。

巫女の立場が俺だったとして、ポールがサラの位置だったらどうだろう……

きっとないがしろにされていると思って何度も直訴するだろう。

それも叶わなかった場合、先々を案じ、連れて逃げられないか画策するんじゃないだろうか…ポールって聞いた話だと友達いないみたいだし。

今回もそうだけど俺の為なら色々協力してくれる。


サラは…もしかしてサフランを逃がすために俺たちに従っているのか?

ポールは、サラの同僚だ。

もしかしたら話を漏らしていたのかもしれない…


「…俺はダシに使われているのか?」


考えが変な方向に開けてきて不快感を露わにしながらうっかり呟いた。


「「っ!!」」


二人揃って表情を強張らせて息を詰まらせた。

ビンゴか…

ってことはポールも一枚噛んでるな。

兄ちゃんは会話の途中で気づいていたのかもしれない。

だから、兄ちゃんはこの二人にかなりキツク当たるんだ…


「これは……お仕置きが必要だね…」


腹の底から湧き上がる力が、口から吐き出ていくのが分かる。

ああ、ポールの帰りが待ち遠しいよ…

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