第13話 救命行為はノーカウント
兄ちゃんが激怒して、口元に笑みを浮かべながら毒吐いたり、説教をしたりで1時間くらいは経ったかと思います。
あまりにもキレすぎて美女をタコ殴りにしそうだったので、しがみついて止めた結果ロング口頭拷問になったので仕方ありません。
痛いよりはマシでしょ。
俺が仮死状態になっていた時に、はっきりしない中途半端な返答だったり、偉ぶった態度を取っていたり、こちらの話も聞かずに隔離して会わせなかったりと上げたらキリがないほどのことがあり、相当腹立っていたみたいです。
兄ちゃんの説教と時々声を震わせて反論する巫女と女騎士のやりとりで、俺が仮死状態の時のことが分かった。
俺が瀕死になったところで、命を繋ぎ止める秘薬をポールが俺に飲ませた…うん…救命行為はファーストキスにカウントされないよ!絶対だ!
それで、その薬で仮死状態になると強い聖魔法の回復術で蘇生するという。
俺の場合は例外で、仮死状態で今後の話をしているときに、体がみるみるうちに冷たくなり、全身のところどころに氷が付きだし、時間が経てば経つほど氷が体を覆い始め、最後はオブジェみたいになってしまったそうだ。
そりゃ、ポールもテンパるな。
俺の家族とポール、騎士団は報告と治療の為にオブジェとなった俺を布で包んで、衝撃で割れないよう細心の注意を払って馬車に乗せ、都に出来るだけ急いだ。
都に到着してすぐに騎士団とポールは大臣達に掛け合い、優先されるべく治療して貰う為、事の顛末を話した。
報告を聞いた国王と大臣達が、治療と称して城から少し離れたこの神殿に、氷漬けの俺を運び込んだ。
巫女からしたら自分の神殿に急患が運び込まれたと思って、指示を受ける前に俺へ聖魔法をかけたが全く効果がなかったそうだ。
ところが、効果がなくて困っているところ大臣の一人から治療をしないで結界を張って、自国内からも他国の刺客からも手を出されないように見張れとの指示が出た。
俺に関する説明は「何万ものモンスターを一撃で沈めることのできる魔法を使う要注意人物」という酷くざっくりした内容だった。
いや、間違ってないよ?
でもさ、要注意人物って言われてるのが氷漬けになって仮死状態になってんだから見張るって時点でキナ臭くない?
やっぱり、へっぽこ巫女は頭も弱いみたいだ。
一方、待っても待っても面会許可や報告がないことを不思議に思った家族とポールは、巫女や女騎士に何度も詰め寄った。
巫女と女騎士は、大臣から信用されて極秘任務を依頼されたと思ったので、事情を説明するわけにはいかず、曖昧な返答しかできなかったそうだ。
なにやら国の中の嫌な臭いがしますね。言わないけど。口挟めなかったけど!
そうそう!モブで忘れがちなポールだが、黙って見守っていたわけではなく、兄ちゃんを止める俺に「サラなら頑丈だから1発殴ってもいいだろ」って女騎士に関して酷いことを平然と言っていたのには、おどろいた。
騎士の中でも龍騎士同士だからだろうか…アイツも不満鬱憤が溜まっていたのだろう…
兄ちゃんのおかげで何とか話を聞け、現状打破を図るため、抱き着いて動きを制限していた兄ちゃんを解放して、近くにあった岩へと腰を下ろし、顎に手を当てて目を閉じ考え出した。
俺は自国からも他国からも狙われている。
考えが間違っていなければ…生きるリーサルウェポン的な感じ?
それが一人であっちゃこっちゃ逃げまどったら、奴さんたちは血眼で探すわな。
追いつめられるわな。
殺されるか、捕まえられるか、はたまた俺が怒っちゃって魔法使っちゃうか。
え?今挙げたこと考えたら…勇者になる道ないんじゃないか?
そもそも勇者って国に扱き使われて、ボロ屑みたいになったら微々たる金と土地を貰って隠居って一見良さげだけど、ボロ屑にならない内は、あの手この手で使われるんだろ?
この国は、なんだか野心的なものを微かに感じるから、このまま捕まったら勇者って言われて他国に攻め込むんじゃないか?
勇者になっても…ある意味詰んでね?
どっかのダンジョンに籠って、魔王になって一から近隣に村をこっそり作って家族とポールと幸せに暮らす?
あっちゃこっちゃ行かない分、血眼になって追いつめられることもないよな…
いやいや、この国も他国も諦めないだろうな…
アレコレ現実味がないことをうんうん唸っていると、道の向こうから気配を感じて瞼を開け、警戒を強めて立ち上がった。
「誰か来たな…」
「気配からして一人だね…多分、アジュールじゃないかな?」
「アジュ?」
気配の主がアジュだと分かり、再び岩に座り込んだ。
実は、かなり疲れて体がさっきから重いんだよね。
足音が聞こえてきて姿が見えると肩で息をした弟の姿が見えた。
「兄さん!大変だ!!今、傷だらけの騎士が城に来て聞いちゃったんだ!!村が大変だって!!」
兄ちゃんに倒れこみながら一気に言葉を吐き出し、半泣きの表情で見つめていた。
徐にアジュに近づいて汗で濡れている髪を撫でた。
「アジュ、村が大変ってどういうこと?」
「……エル?……エルなの!?こんなに変わっちゃって…可哀想に…」
「いや、俺はそんなに変わってないよ。それより、村がどうしたの?」
「あっ!そうだった!エルが魔法で作った血の池から大地が腐食しちゃって、村の水が全部毒水になっちゃったんだって!それで生き物たちも変わっていっちゃって…弱かったモンスターが変異して強くなっちゃって…村の人たちは、みんな離れた隣の村に避難してるって…」
こんなマントが呪いアイテムになっちゃうんだから地面が腐ってしまうのも分かる気がする…
仕方がなかったとはいえ、俺の魔法が原因でなってしまったことだ。
それに一応、村長さんちの次男坊なので村を守らなくてはならない…
腐った大地を元に戻す方法はないだろうか…
浄化術は聖魔法の分類だな…
ちらっと巫女を見てみるが、考えが通じたのかフルフルと高速で首を横に振っている。
マジで役に立たねぇな!!!
思わず舌打ちをすると巫女がまたメソメソと泣き出した。
「エル、この巫女がダメ巫女でも優秀だったとしても浄化は難しいよ。」
「そうだな。あの規模の腐食はどうしようもない……せめてエルが聖魔法を使えたらな。」
「使えないよ!!バカなの!?このモブ騎士!そんなひょいひょい魔法が使えたらこんなピンチにはなってないよ!」
ポールめ…聖魔法なら、一応子供の時に試したけど使えなかったんだよ!
「あの……精霊使いの方を探したらいかがでしょうか?」
鼻水をすすりながらおずおずと巫女が発言してきた。
この状況での発言とは…なかなかやるな。へっぽこ巫女の癖に根性だけはある。
「そうだな…よし!今後の方針を決めました!!」
アジュに纏わり付かれながら、拳を握って立ち上がった。
「兄ちゃんもポールもいるし、人質になるかどうかわからないけど、へっぽこサフランとヘタレサラを連れて…いざ!精霊使い探しに出かけよう!国の追手も他国の追手も返り討ちだ!俺の目標は、精霊使いを探して村を復活させる!!」
兄ちゃんとポールが俺のプランに賛同して手を叩き、巫女と女騎士はポカンとしている。
敢えて外していた弟が黙っているわけもなく…
「オレも行くよ!」
「「アジュはダメ!」」
「なんで!」
俺と兄ちゃんから当然のようにダメ出しをされた。
アジュは、まだまだ子供だから父さんたちと一緒にいた方がいいに決まってます。
お兄ちゃんとして譲れません!
俺と兄ちゃんが厳しい顔をして目でアジュを叱る。
「アジュは子供だから親と一緒にいなさい。」
「エルだって子供じゃないか!俺と二歳しか違わない!」
「俺は…ほら、魔法使えるし!」
「俺だって使えるもん!!」
「嘘おっしゃい!」
いつもならこんな我が儘言わないのに、なんで今になって嘘まで吐いて付いてきたかるんだか…
困ってしまうわ、呆れてしまうわで兄ちゃんの方を見ると更に眉間に皺を深く刻んでいた。
「嘘じゃない!使えるとこを見せたら連れて行ってくれる?
連れて行ってくれるよね?だって、エルは魔法が使えるから旅に出るんだもんね?
それに……もう二度とあんな思いは御免だよ…」
うわぁあああああ!兄ちゃん魔王バージョンの小さい版がここにいるよ!お尻エマージェンシー!
アイツの言ってたこと冗談じゃないんじゃないか!?
怯えた俺は無意識にポールにしがみついて、視線から逃れるように鎧の後ろへと回った。
龍騎士様って頼りになりますね。
ポールは、困り顔で苦笑し、俺の頭を落ち着かせるように撫でた。
「ちょっと!!エルに気易く触らないでよ!ファーストキスの相手だからって調子に乗るな!!」
「おいいいいいいいいいいい!!!救命行為はキスじゃない!断じて違うからな!!!」
このカオス的状況。
噛みつくようにポール吠えるアジュ。
眉間に青筋を立てながら、ポールへ絶対零度の視線を向ける兄ちゃん。
女二人は頬を染めてそわそわと俺を見る。
ポールは無言で頬を染めている。
そして…今、気を失えたらどんなに楽だろうと遠くを見つめてしまう俺がいた。
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