第12話 人の話はちゃんと聞く
困ったなぁ…話を聞いてもらうために、ちょっとばっかり脅したんだけど…
巫女は、元々気が強いんだろうな。
涙を流して、奥歯を噛み締めながら無言で俺を睨みつけてくる。
女戦士は、分かりやすく説明すると元の世界のRPGの極一部の定番である「クッ!殺せ!!」みたいになっている。
言っておくけど変なことしてないからね!
しようともしてないからね!
ただ、すぐ話を聞かないで結界とかバトルとか訳わからないことしてくるから仕方なく、壁に貼り付けて威嚇しながら話聞いてもらおうとしてるんだから!
でも…第三者から見たら、2人の美女をこれから嬲りものにしようとしてる魔王とその幹部みたいな感じだろうな。
兄ちゃんも表情が魔王モードだし、ポールもモブ顔のクセに冷たい表情で二人を見つめている。
俺は…呪われている要素満点のマントを身に着けてあざと可愛い笑顔を浮かべながら、困った状況に心で泣いている。
「黙って話を聞くのと…何かされながら話されるのどっちがいい?それとも手っ取り早く国を魔法で潰しちゃう?」
言いながらスタンピードの時の光景を思い出して吐き気が込み上げてきたのは内緒だ。
ちなみにポールは無表情のまま静かに離れ、木の陰で盛大に吐いていた。
潰すってキーワードは、俺もポールもNGワード確定だ。
今後気を付けることにしよう。
相手にダメージを与えるよりも自分たち側の方がダメージデカいとか自虐でしかない。
「分かりました…大人しく話を聞きましょう…」
「…くっ…」
この人たちの態度と言葉からして、話を聞き終わって開放したら、速攻襲い掛かってきそうだ。
女の人を痛めつけるとか本当やりたくない。
というか、魔力が少ないから結果的にポールに頑張ってもらうことになる。
一応、正義の味方龍騎士様なんだから、女の子を傷つけて貰いたくないってのもあるんだよね。
ってことは、平和的に話を進められないって判断したら逃げるしかないのかなぁ…
その場合、兄ちゃんとポールも道連れにしないとダメかな?
迷惑が一番かからない方法って今のところ一つしか思い当たらない…
それは、悪役を気取って、実は二人は洗脳していたんだ!的な話をして二人をその場に残して一人で脱走する。
ただ、実行に移したら兄ちゃんたちが後になって怒りそうではある。
これって本当に最終手段だよな。
今後一人ぼっちで逃亡な上、兄ちゃんとポールにメッチャクチャ怒られて帰る場所もないとか想像だけでも涙出ちゃいそう。
でも、勇者気取ってもTUEEEEEチートないから国からなんかしら無茶ぶり的な依頼されても遂行できそうもない。
出来れば、あの
あれは、俺も龍騎士であるポールすらもトラウマになるくらいなんだからね!
上手いこと話さないと変な収拾の付き方になってしまうな…
緊迫した空気を遮るように咳払いを一つして、磔にされても若干強気でいる二人を見た。
「俺は、今後あのような魔法を使うつもりはない。出来れば、生まれ育った村に帰ってのんびりを暮らしたいんだ。
元々は、魔法が使えることすら内緒にしてし、内緒にしてしまえるほどの細やかな魔法しか使ったことがなかったくらい平和的に生きてきた。
今回の桁外れのスタンピードが起きたから、村を守るために仕方なく自分の限界を超える魔法を使った。
その結果は、貴方達も俺を見たんだから知っている通りだ。
つまり、今回のようなことがなければ魔法を使用することはなかったという事になる。」
魔物相手に使って吐くほどのトラウマになってんだから、人系になんて使ったらトラウマどころじゃないよ!
精神病んじゃって山奥に引きこもるレベルだ。
「貴方が使うつもりがなくても、今後ただの村人へと戻ることは無理だわ。
今回のことは、規模が大きすぎてこの国だけでは収まらず、既に他国へと情報が流れている。
私たちが、貴方をこの場で見逃しても、すぐにこの国からも他国からも追手が来るでしょう。」
「はい?ってことは村の連中も家族もこのことを知ってるのか!?」
巫女の発言に気が遠くなりそうになった。
なんてことだ。
穏やかな生活なんて一生送れないと烙印が押されたようなもんじゃないか。
子供の俺1人で逃げ切れる自信がない。
故郷にも帰れないとか絶望しかないよ…
でも、確かにあんだけのことが起こって俺が仮死状態になってたらな……
「おい、こら!ポール!!!!お前、ちゃんと生きてんのに何でフォローしなかったんだよ!龍騎士の一撃で奴らを全滅させたって言ったら丸く収まっただろうが!」
モブ騎士が生きていたのに、なんで俺がやったことばれてんだよ!
アイツなんで正直に言っちゃうかな!!
俺が仮死状態になったのだって、モンスターに呪われただか何だか言えばいいじゃないか。
怒りのやりどころがなく、八つ当たりでポールの鎧を殴るが、当然だけど俺の白魚のような可愛らしい手の方が痛い。
「お前を仮死状態にさせたところまでは考えていたんだが、騎士団とライルが来てからすべて吹っ飛んでしまって…それに、村に帰ったらライルに抱えられながら凍っていくお前を見て更に動揺して…正直に言えば巫女が優先的にお前を助けてくれるかもしれないって…すまん。」
「アホポール!結局このへっぽこ巫女は何にもできなかったじゃねーか!蘇生もできなきゃ、回復もできない!結界だってくそみたいに弱い!マント一撃で破れるんだぞ!それでいて話も通じない!もっとマシな巫女はいなかったのかよ!」
「その通りだね。ポールは脳筋だし、巫女はエルの言ったままだしね。」
あ、ポールに苛立ちすぎて、ついつい巫女に関しての本音が…まあ、いいか!
事実、へっぽこ巫女だからな!
兄ちゃんも認めてくれている。うん、追い打ちでしょ?知ってる知ってる。
「うわぁあああああああああんっ!!!!!」
あーあ、さっきまで気丈に振る舞っていた巫女が泣いちゃったよ。マジ泣き号泣とかっていくつだよ。
その身長とおっぱいは飾りですか?
呆れ切った視線を巫女へ向け、このうんざりした状況にため息をついた。
「巫女様が気にされていることを遠慮もなしに…貴様!魔王か!!」
「違う!!自分でそうかな?って思う分には仕方ないが、他人に言われたくない!!」
女騎士め…なんてことを言ってくれちゃってんだ!
変なフラグ立てるんじゃない!!
「うええええん…酷い…酷いよぉ…」
「俺みたいな子供に言われたくらいでいつまで泣いてんだよ!だからへっぽこ巫女なんだろうが!それに、女騎士!お前は、龍騎士なのに巫女一人守れてないじゃないか!その身長と筋肉は飾りなのか!?ポールにアレだけデカい口叩いて俺に指一本触れられないじゃないか!
うちのポールがモブ騎士なら、お前はただの鎧マニアじゃねーか!騎士ですらないわ!」
「き…騎士ですらない…私は…私は…」
はい、八つ当たりです。
女の子相手に、こんな思ったことを正直に矢継ぎ早に言ってしまうなんていけないことですね。
はじめて女の子にここまで言っちゃったな。
嫌いなタイプってのもあるけど、さっきのポールへの態度がムカついてたんだよね。
女騎士は、がっくりと項垂れて生気のない目でホトホトと涙を地面へと落としていた。
一方、泣いていることを注意された巫女は、下唇を噛みながら涙を流し続けている。
二人ともメンタル弱いね。
メンタルが弱いということはそれだけ付け入る隙があるということだ…さて、この豆腐メンタルをどうやって利用するかな…
「ここで俺を逃がしても正直、お前たちは何も言われないんじゃないか?
へっぽこ巫女と鎧マニアなんだから…あれだけの魔法を使う奴が復活しちゃって、更に逃げちゃっても仕方ないって周りも理解してくれるだろ。」
「嫌です!!!それならば、私を殺していってください!!」
「そうだ!私も殺せ!こんな屈辱耐えられない!」
利用するのも面倒な気がしてきたところへ泣きながら、何てこと喚き散らしちゃってんだよ。
俺を逃がしたらコイツら、モンスターの餌かなんかにされるのか?
こいつらの認識がどうなってるのかは知らないが、俺は村の子供だからな?
ちょっと、美少年で頭がいいだけの天使様だぞ。
というか、本当にこの二人は俺を魔王か悪の使者かなんか悪いモンだと思ってやがるな。
「エルが、二人を手にかけるわけないでしょ?エルの可愛い手がこんな醜い女共の血で穢されるなんて俺は耐えられないよ。
死ぬなら勝手に自害してよ。ね?それくらいの気合くらい残ってるでしょ?まさか、死ぬ勇気がないからエルに殺せって言ってるの?バカなの?」
首筋に刃物を当てられたかのような寒気が、見ているだけの俺にも襲い掛かってきた。
整った顔の兄ちゃんが、眉を潜めて口元だけで笑いながら二人に顔を近づけている。
怖い怖い怖い!!!!兄ちゃんがマックス怒ってる!!魔王降臨だよ!!こんなに容赦なく捲し立てるなんて何かが乗り移ってるとしか思えないよ!
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